爆誕
今回は秋人視点です。
第9話「オカン王子」以来の登場、ゆるふわ女子、姫野瑠璃ちゃん2度目の出演。
中学校に進学して、小学校と一番違うと思ったのが部活。正直部活なんてしたくなかったけど全員強制参加ということなのであらゆる部活を見学した。しかし、どれもいまいちピンとこない。ということで部活を作った。その名も『家庭研究部』。発足した当時は女子が大量に入ってきたが、姫野瑠璃が入部した途端に去っていった。なんでたろ。
家庭研究部の内容は料理・裁縫・掃除などなど家庭スキルを養う部活である。つまり僕の趣味のために作った部活だ。今月はエコバッグをミシンで作っている。
ミシンの糸が切れたのでセットし直しているとき、瑠璃から意味深なことを言われた。
「秋ちゃんって、妹いたっけー?」
「いや、いないけど」
「ふーん、じゃあ気のせいかなー」
「?」
部活が終わり、校門を出ると兄貴と香苗さんに拉致られた。
「わけわかんない。何これ」
車中は謎の緊張感に包まれていて、さらに不安を煽る。家に着くなり香苗さんが緊急家族会議を開き、深刻そうな面持ちで言った。
「秋くん、落ち着いて聞いてね」
一周回って逆に落ち着いてきたわ。
「香苗ちゃん、ここからは俺が言うよ」
兄貴が急に男を見せてきたんだけど。なに?これから一体なんのカミングアウトをされるの?兄貴は決意を固めたような表情で僕の目を見ながらとんでもないことを言った。
「その、お前に、もし、い、いいいいい妹ができるって言ったら、」
・・・
「いきなりで戸惑っちゃうよね。でも、冗談とかじゃなくて、」
・・・・・・・・・・・・・・?・・・・・!・・・・!?
よし、一回兄貴を殴ろう。混乱の真っ只中の頭の中で一番初めに出た結論がこれだった。深刻な表情の香苗さん、男を見せた兄貴。これはもう、そういうことだなのだろう。だがしかし、香苗ちゃんの甥っ子として、何より智夏の弟として「はい、そうですか」と言えるわけがない。拳を固めて兄貴の顔面を狙う。
「うぉあ!」
チッ避けやがったか。
「お、落ち着け!殴っても痛い思いをするのは秋人だぞ!」
どんな説得だよ。
「うるせぇ!見損なったよ兄ちゃん!ごめんなさい香苗さん、うちのバカ兄貴が、と、取り返しのつかないことを…!」
謝っても許されない。すでに新しい命を授かってしまったのだから。すると妙に冷静な香苗さんの声が、少し面白そうに言った。
「秋くん、違う。私、妊娠してないからね。夏くんに手をつけられちゃったりもしてないから、落ち着いて。ほら深呼吸」
すーはーすーはー。最近見た昼ドラの影響か、修羅場を連想していたが、どうやら誤解だったらしい。兄貴が涙目で抗議してくるので謝っておく。
「ごめんと思ってる。でも誤解を招くような言い方するのも悪くない?急に妹ができたとかいうからてっきり・・・うん?妹?」
事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。今までの人生、自分は末っ子だと思って生きてきたが、どうやら妹がいたらしい。
夜になり、自室でスマホを取り出す。香苗さ、ちゃんからお下がりでもらったものだが、献立とかをアプリで見れるので結構便利である。時刻は21時半過ぎ。一度ためらって、通話ボタンをタップする。2コール目くらいで電話に出たのでどうやら起きていたらしい。
「瑠璃?いま大丈夫か?」
「なんとなーく予感がして、今日は起きてたよー」
ということはいつもは寝ている時間なのか。
「悪い。少し話を聞きたくて」
「うん、いーよー」
「今日部活中にさ、妹がいないかって聞いてきただろ?あれなんで?」
まるで予言のような発言がずっと気になっていたのだ。
「うちが主催のコンクールにねー『天使の歌声』を持つ子が出るんだけどー」
コンクール?天使の歌声?いきなりなんだ?
「その子の色が秋ちゃんそっくりだったから」
「なるほど」
瑠璃は人の纏うオーラのようなものが色で見えるのだ。
「その『天使の歌声』の子の名前わかる?」
「んーちょっと待ってー」
香苗ちゃんからは妹の件に関しては僕と兄貴はノータッチということになったが、じっとしてはいられない。
「名前はねー由比冬瑚ちゃん。小学2年生」
「ゆい、とうこ・・・」
名前に『冬』が入っている。これは妹の可能性が高くなってきた。だが苗字が違うので如何ともしがたい。やはり直接見て確かめてみたい。
「そのコンクール、瑠璃の家が主催って言ってたよな?それっていつ?」
「明日だよー」
「明日か・・・」
それならチケットはもう取れないだろうか。せっかくのチャンスを逃してしまうとは、なんてもったいない。
「実はーチケット持ってるんだけど、来るー?」
「行く!行かせていただきます!」
もらえるものはもらう、これ主夫道なり。
翌日。瑠璃と待ち合わせをしてホールの中に入る。そういえば、今朝は兄貴もコソコソと家を出ていた。もしかして兄貴もここに来てたりして。んなわけないか。
・・・・・・・・って兄貴もいるんかーいっ!!!
瑠璃からもらったチケットの席はかなり前の方の良い席だった。開演前に唐突に瑠璃が後方の席をじっと見つめたかと思うと、
「秋ちゃんと同じ色が、もう一人いるー」
と言ったので嫌な予感がしてトイレに立つふりをして後方の席を見ると、いた。兄貴が知らない女性と仲良さげ?に話していた。
えぇー!?香苗ちゃんに妹の件はノータッチって言われてたじゃん!なんでここに兄貴がいんのさ!
自分のことは棚に上げて兄貴を心の中で責め立てる。
「・・・兄貴も来てた」
席に戻り、瑠璃に報告する。
「あ、やっぱりお義兄さんだったんだー。挨拶した方がいい?」
「いや、無視しよう。スルーだスルー」
瑠璃の「お兄さん」の言い方に何か含みがあったような・・・気のせいかな。
結論から言おう、うちの妹まじ天使。由比冬瑚は兄貴とそっくりの顔だったのでほぼほぼ妹で確定だろう。天使が妹とかマジかよ、ヤバすぎかよ。
「秋ちゃん秋ちゃん」
「あ、ごめん。なんだっけ?天界の話だっけ?」
「違うよー。ほらあそこ。お義兄さんと義妹さんが何か話してるよー」
・・・あ、ほんとだ。え?さっきと別の意味でヤバくない?あんなとこあの女に見られたらまずい。周囲を見渡すとあの女はさっき兄貴と一緒にいた女性に捕まっていた。なるほどグルか。・・・ってますます犯罪っぽいわぁ!何してんの?なにしてくれちゃってんのバカ兄貴ー!!
心配になってきたので兄貴たちの会話が聞こえて、かつあちらから見えない位置に隠れる。兄貴が道を踏み外したら、いつでもドロップキックがかませるように。
「幼女と人気のない場所で二人きり・・・」
「兄弟だから!兄貴はちょっと浮世離れしててそういう常識に疎いだけだから!」
と小声で瑠璃とやり取りをする。すると少し大きめの声が聞こえてきたのでそちらを見る。
「でも、褒められるよりも、笑ってくれるよりも、冬瑚はっ」
「抱きしめてもらいたいっ」
「寂しいっ!」
妹ができたということに気を取られて、肝心なことに気が回っていなかった。寂しいに決まっているじゃないか。あの年でたった一人、汚い大人たちに囲まれて、辛いに決まってるだろう!?知らず知らず握っていた拳から血が垂れる。
「秋ちゃん、これからだよ。お兄ちゃんになるんでしょ?」
瑠璃は何が、とは言わなかったけど。それでも後悔する時間があったら妹のために何かしろという思いは伝わってきて。
「うちの天使のような妹を泣かせる奴は誰であろうと許さない」
「おぉーシスコン爆誕」
「なんとでも」
この後兄貴の方を見たら連絡先を交換しててイラっと来た。僕なんて妹の視界にすら入っていないのに・・・
~執筆中BGM紹介~
ソードアート・オンラインより「moon and shadow」作曲:梶浦由記様
秋アニメの第一話たちを見ましたけど、ヤバいっスね。うっかり予約投稿忘れて投稿時間がまた遅れるくらいにやばかった。