妹について学ぶ
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緊急家族会議で決定したことは、
①あの女たちと一人で対峙しないこと(一人だった場合は逃げるor応援を呼ぶ)
②妹の件は香苗ちゃんと社長が調べるので俺と秋人はノータッチ
この2点。だがしかし、関わるなと言われると関わりたくなってしまうのが人間の性。今の時代、ネット上には様々な情報が流れている。ので現在、俺は部屋で1人、ネットの海を泳いでいるわけだが・・・。
「そう簡単には見つからないな・・・」
わかっていることは性別が女であるということだけ。それ以外は名前すらもわからない。こんな相手をどう見つければいいのだろうか。ふと、脳裏に昔の光景がよみがえる。
『もしも女の子が生まれたら、ヴァイオリンか声楽を習わせたいわねぇ』
秋人がまだお腹の中にいて、性別がわからなかった頃にあの女が言った言葉。結局生まれてきたのは3人目の男の子で、しかも芸術系のことはからっきしの可愛い弟だったけど。
大きな音楽コンクールの入賞者リストを調べる。弦楽部門には・・・それらしい人物はいない。声楽部門は・・・いた。写真もある。顔があの女に、いや、髪色も目の色も俺と同じで、俺にそっくりである。名前は『由比冬瑚』。この顔といい、季節の入った名前といいほぼほぼ妹で間違いないだろう。
年齢は記載されていなかったため、名前だけで検索エンジンにかける。指先一つで個人を特定できるなんて怖いな、と今更ながらに思う。
ヒットしたのはかなりの数の記事。それらの見出しには『天使の歌声』の文字があった。なるほど、どうやら妹には声楽の才があったらしい。
この見た目からしてあの女の血を継いでいるだろう。つまり少なくとも半分は血が繋がっているということだ。
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翌日、授業中は心ここに在らずといった感じで内容が全然耳に入ってこなかった。そんな俺の様子に当然気付く人がいるわけで。
「しばちゃんどした?今日はずっと上の空だけど」
「うん。考え事があって」
「ほーん」
放課後、いつの間にかSHが終わり、教室には田中と俺の2人だけになっていた。
「クラスのマドンナも心配してたぞ」
「ごめん」
「俺に謝んなくていいから」
田中って面倒見いい奴だよなー。周りのことよく見てるし。お兄ちゃんって感じ・・・あ。
「なぁ田中、妹ってどんな感じ?」
「うん?妹?」
「そ、妹。たしか妹いたよね?」
わからないなら聞いてしまえ。訝しがりながらも答えてくれる田中。
「俺、妹が2人いるんだけど。上の妹は俺のこと慕ってくれてる。あとよく家事の手伝いとかもしてくれて可愛い。下の妹は勝ち気な性格で素直に言うことを聞かない。くっそ生意気でも可愛い」
「ふむふむ」
「まぁ百聞は一見に如かずってやつ。今から下の妹たちのお迎えに行くけど、しばちゃん一緒に来る?」
今日はドリボに行く予定も無い。妹について学ぶために、これはもう行くしかない。
「行く!」
電車で10分ほど揺られて少し歩き、小学校の近くの児童館の前までやってきた。
「「お兄ちゃんだれ?」」
目の前には田中と同じ猫目の男女の双子が。
「兄ちゃんの友達のしばちゃんだ」
「よろしくね」
「「うん」」
さすが双子。息ぴったりだな。
「うん、じゃないだろ。ちゃんと挨拶しろ」
「田中津麦、小2」
「双子の弟の征義です。姉が不愛想でごめんなさい」
「ちょっと征義!」
勝気な姉に行儀正しい弟。双子って不思議。生まれた時も育ってきた環境も同じはずなのにこうも違う性格になるとは。
「津麦ちゃん、少し質問良いかな?」
「え、いや」
おぅふ、即答で拒否られた。幼女の悪意無き言葉はどうしてこうも心を抉るのだろうか。だがここでへこたれるほど軟じゃない。
「そこをなんとか!お願い!」
小学2年生に頭を下げて頼み込む高校2年生の図。傍から見たらヤバいな。
「津麦、しばちゃんお兄ちゃんがこんなに頭下げてくれてるんだよ?質問くらい答えてあげればいいんじゃない?」
征義君・・・!さっき抉られた傷口に優しさがしみて、しばちゃんお兄ちゃん泣きそうだよ。ホロリ。
「しょうがない!それじゃあかくれんぼでしばちゃんお兄ちゃんが勝ったら質問に答えてあげる。じゃあ30数えたら探しに来てね!ほら行くよ、征義!」
しばちゃんお兄ちゃんは固定なのね。そして首根っこ掴まれて引きずられていく征義君。
「妹ってすごいな、田中」
「だろ?うちは毎日戦国時代だよ」
「ははっそれも楽しそうだね」
「否定はしないでおく」
「もーいーかい?」
「「もーいーよー!」」
場所は児童館の横の公園。さほど広くはないので、すぐ見つかるだろう。
3分後。
「あれ?二人とも隠れるのうまいな」
10分後。
「ぜぇはぁ。無理。どこにもいないんだけど!」
かくれんぼってこんな難易度高めの遊びだったっけ?わりとすぐ見つかるものだと思ってたのに。遊具の中や陰、隠れられそうな場所は全部探した。もう帰っちゃったってことはないよな・・・?
「「タイムアップ!しばちゃんお兄ちゃんの負け!」」
ガサガサッと頭上から音がしたかと思ったら、目の前に双子が落ちてきた。
「うわっ!」
「津麦の勝ちだね」
「下ばかり見てても見つかりませんよ。たまには上も見ないと」
上って、木の上かーい。そんな立体的な遊びだったのかよ、かくれんぼー!
「こいつら上からしばちゃんのこと見て笑ってたぞ」
「田中は気づいてたんだ?」
「俺も昔は木の上に隠れてたからな。この場所教えたのも俺だし」
元凶お前かい!はぁ、まいっか。なんか大切なことは分かった気がする。秋人と征義君が弟でも違うように、きっと由比冬瑚も津麦ちゃんと同じじゃない。「突然兄と名乗る人が現れたらどうする?」とか聞こうと思っていたが、やめた。
「俺の負けだよ。今日は遊んでくれてありがとう。津麦ちゃん征義君」
「「どういたしまして」」
「生意気だろ?」
「うん、そうだね。生意気で、可愛い」
「だな。そんじゃ、帰るか」
帰り道で、ちらちらとこちらを窺っていた津麦ちゃんが、俺の隣にやってきた。
「今日は楽しかったから、質問一個だけなら答えてあげてもいいよ?」
「津麦ちゃんは優しいね。そーだな、じゃあ一つ」
「なにー?」
得意げに胸を張り、質問を聞いてくれる姿が微笑ましい。
「お兄ちゃんのこと、好き?」
征義君と少し前を歩く田中を指さして聞く。すると、「うーん」と考えた後に答えてくれた。
「兄弟に好きとか嫌いとかあんまない」
なるほど、そういう見方もあるのか。
「でも、お兄ちゃんの作るご飯はあったかくて好き!」
「そっかぁ」
「好きって言ったってお兄ちゃんに言っちゃだめだよ」
「うん、わかった」
でも、前を歩く田中の首が真っ赤なので、多分いまの聞こえてたんだろうな。よし!お兄ちゃんいっちょ頑張りますか!
~第28回執筆中BGM紹介~
月刊少女野崎くんより「君じゃなきゃダメみたい」歌手:オーイシマサヨシ様 作詞・作曲:大石昌良様
読者様からのおススメ曲でした!ノリノリで書いてます!
田中家の弟妹たちの登場ということで、田中家のご紹介
長男:田中
長女:深凪
次男:麻黄
次女:津麦
三男:征義
四男:旺義




