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緊急家族会議

評価者数が300人を突破!皆様本当にありがとうございます!


今回は家族の話です。




「緊急家族会議を開きたいと思います!」


ドリボを香苗ちゃんと急いで出た後、部活終わりの秋人を捕まえて急いで家に帰り、香苗ちゃんが放った第一声である。


「わけわかんない」


学校を出た瞬間に拉致られた秋人は壊れたテープのようにこの言葉しか言わない。


「安心しろ、俺も訳がわからない」

「全然安心できないんだけど。むしろ不安が膨れあがったんだけど」


緊急家族会議の議題がわからない秋人がかなり不安がっているので、安心させようとしたのだが、どうやら失敗したようだ。


「秋くん、落ち着いて聞いてね」

「香苗ちゃん、ここからは俺が言うよ」


香苗ちゃんにこんな役を押し付ける訳にはいかない。しっかりしろ、俺!


「その、お前に、もし、い、いいいいい妹ができるって言ったら、」

「いきなりで戸惑っちゃうよね。でも、冗談とかじゃなくて、」


秋人が固まった。そして拳を握り締めたかと思うと、いきなり俺に殴りかかってきた。


「うぉあ!」


間一髪、ぎりぎりで拳を避ける。その拍子に椅子から落ちたが。今はそれよりも、


「お、落ち着け!殴っても痛い思いをするのは秋人だぞ!」

「うるせぇ!見損なったよ兄ちゃん!ごめんなさい香苗さん、うちのバカ兄貴が、と、取り返しのつかないことを」


・・・うん?俺が、香苗ちゃんに?ううん?どういうことだ?


「秋くん、違う。私妊娠してないからね。夏くんに手をつけられちゃったりもしてないから、落ち着いて。ほら深呼吸」


・・・にんしん?あ、妊娠か。おん?・・・・・あ、そういう誤解ね。はは〜ん、そういうことね。って、なるかぁっ!


「俺どんだけ信用ないんだよ!そんなことするわけないだろ!お兄ちゃん泣くよ!?」

「ごめんと思ってる。でも誤解を招くような言い方するのも悪くない?急に妹できたとか言うからてっきり・・・うん?妹?」


ようやく本題に辿り着いたようだ。


「血の繋がりがあるかはわからないけど、俺たちに妹がいることがわかった」


たっぷりと3分くらい黙ったあと、秋人が振り絞るように声を出す。


「詳しく教えて」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ってことなんだけど」


事の顛末の些細を秋人に話すと、こめかみを押さえて深く息を吐き出す。そして、こぼすように言った。


「・・・いきなり妹がいた、なんて言われても実感湧かない。血が繋がってるかどうかもわからないし。でも、あの女とその旦那に子供をまともに育てる能力があるとも思えない」


そこなのだ。あの二人に囲まれて子供はまともに育つのか。ひどい目に合っていないかが心配である。


それと、と秋人が言葉を続ける。


「僕のことは完全におまけ扱いだけど、兄貴は違う。完全にターゲットにされてる。その辺きちんと自覚ある?」


もはやどちらが年上かわからない。いつの間にかこんなに急速に大人になっちゃって。お兄ちゃん悲しい。


「はい、あります」

「ならいいけど。・・・ていうか、本当にいいんだよね?」


何が、とこの場で聞くほど鈍くはないつもりだ。拉致られたときよりも不安げな表情をしている秋人の頭を撫でる。


「俺は、ここがいいんだよ。秋人がいて、香苗ちゃんがいる、この家が俺の居場所だから」

「そっか」


いつもは嫌がって俺の手を振り払うが、今日はずっとされるがままだった。秋人が大人にならざるを得なかった理由の一端は自分にもある。ごめんな、苦労ばっかりかけて。ダメダメな兄貴で。もしも、お前が普通の家に生まれていたなら、きっと年相応に笑えていたはずなんだ。


「僕も、兄貴と香苗さ、ちゃんのいるこの場所がいい、と思ってる」


恥ずかしそうに俯きながら秋人が言った言葉に、はっとする。俺もあの女のように、秋人のことを無意識に可哀そうだと思ったのだ。俺たちは可哀そうなんかじゃない。もしも、なんていらない。それは今の秋人を否定する言葉だ。以前、香織から教わったばかりじゃないか。世界は多面的なんだと。だから、俺が今言葉にすべきは否定的な言葉ではない。


「俺、秋人が弟で本当に良かったと思ってる。それと、香苗ちゃんに出会えて本当に幸せだとも思ってる」

「い、いきなりなんだよ!」


照れてる照れてる。可愛い奴め。


「夏くん、秋くん」


ずっと黙ったままだった香苗ちゃんが俺たちを呼ぶ。その声に振り向いて、ぎょっとした。


「ど、どうしたの香苗ちゃん!?」

「お腹痛いの!?」


そこにはぽろぽろと涙をこぼす香苗ちゃんの姿があった。・・・秋人、お腹痛いは多分ないと思うぞ。


「うぅ、ずっと不安だったの。ちゃんとできているのか、間違っていないのか。二人が私のこと、恨んでないかどうか。でも、もうそんなのどうでもいい。二人が私のことどう思ってようと、私は夏くんと秋くんのことが大好きだからっ!」


と泣きながら俺と秋人のことを抱きしめた香苗ちゃん。震える背中を抱きしめ返しながら、ゆっくりと泣いている香苗ちゃんに届くように言葉を紡ぐ。


「俺は香苗ちゃんに感謝こそすれ、恨んだことなんて一度もないよ」

「僕だって、その最初に会った時は、酷いこと言っちゃったけど。でも、香苗さ、ちゃんを恨んだことなんてない!香苗ちゃんは間違ってない!」

「うぇ~うちの子たちいい子過ぎでしょ~!!世界中に、いや、宇宙中に自慢したい~」


その後もおんおん泣き続ける香苗ちゃんを秋人と二人で慰めたのだった。





俺は秋人と香苗ちゃんとこれからも家族でいたいと思う。でも、それと同時にまだ見ぬ妹が辛い思いをしていたなら、救ってあげたいとも思うのだ。俺は強欲な人間だと思う。けれど、強欲が罪だと言うのならば、俺は罪人になっても構わない。




~第27回執筆中BGM紹介~

魔法科高校の劣等生より「code break」歌手・作詞:Lotus Juice様 作曲:岩崎琢様


ブクマ登録・評価・感想・誤字報告・おススメの曲紹介をしてくださった全ての読者さまに大きな感謝を。たくさんの幸せをもらっている分、読者の皆様にも幸せが訪れることを心の底から願っております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >「緊急家族会議を開きたいと思います!」 >秋人が固まった。そして拳を握り締めたかと思うと、いきなり俺に殴りかかってきた。 言葉が足りないから誤解されるのは当然! ……ちなみに私はこう…
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