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ひだまり



俺が高校を卒業し、海の向こうの大学に進学した年に、御子柴家には色々な変化があった。


まず、香苗ちゃんと吉村先生が結婚した。おめでたいね。


香苗ちゃんと秋人と冬瑚が3人で暮らしていた家に、吉村先生……旭君が加わり、家は賑やかになった。


そしてその1年後。俺が大学2年生のとき。


香苗ちゃん夫婦の間に元気な女の子が生まれた。生まれたばかりでもわかるほど美人な子だ。年の離れた兄としては将来が心配。


中学校を卒業した秋人はなんと、マリヤやおじいちゃんのいる家に移住し海外のスクールに通っていた。俺が家から出た年に旭君が入り、秋人が出た年に新しい命が家に入った。


さらにその2年後。大学最後の4年生のとき。


香苗ちゃん夫婦に次女が誕生した。めちゃ可愛い。まじで目に入れても痛くない。


妹2人が生まれてすっかりお姉さんになった冬瑚は、本格的に声楽の道に進むことになった。小学校を卒業したら、海外で修業をするらしい。


そうそう、御子柴家を語るうえで欠かせない存在の白猫ハル。ハルも子宝に恵まれて、さらにその子供たちが子を産み、血は受け継がれている。ハルが御子柴家に引き取られて18年後、香苗ちゃんや大きくなった香苗ちゃんの子どもたちに見守られながら、虹の橋を渡った。


香苗ちゃんと秋人と俺の3人で静かに暮らしていたあの家。


冬瑚が来て、ハルが来て、マリヤが来て、旭君が来て、女の子が2人生まれて、子猫たちも生まれて。


家族と思い出がいっぱいのあの家が、俺は大好きだ。今でもときどき家族みんなで集まって、一緒にご飯を食べている。







高校時代の友人たちは、大学を卒業してから夢を叶えたり、新たな道に進んだりしている。


井村は大学を卒業して法律事務所に入り、弁護士として日々弱い立場の人々を救うために奮闘しているらしい。


鈴木は大学在学中に、カンナと別れたりよりを戻したり紆余曲折あったものの、大学卒業後に見事ゴールイン。医者として病院で身を粉にしながら家族のため、患者さんのために働いている。


カンナは声優としての活動を続け、ネット上の番組で司会を務めるほどに。最近では女優としてドラマにもちょいちょい出ているとか。ファンへの結婚報告のときには、あまりの反響の大きさにSNS上で「愛羽カンナ 結婚」がトレンド入りするほどだった。


香織とは卒業式の日以来しばらく会っていなかったものの、大学4年生の時に鈴木やカンナたちと共に飛行機に乗って会いに来てくれた。今は海外で日本人ツアー客向けのガイドをしているようで、外国人の情熱的な彼氏がいるとか。


もとやんは美容師になる夢を叶え、高校の近くにお店を出した。店長がドジだけど腕は確かと口コミで広まり、連日お客さんで賑わっている。仕事で忙しいもとやんだが、なんと2つ下の真壁姫と大学生のときに付き合って、結婚したらしい。高校時代に2人が話しているところを見たことがないので、どういう繋がりがあったのか不思議だ。今では夫婦でお店を切り盛りしている。そして約束通り、もとやんに髪を切ってもらった。


最後に田中の話を……する前に、俺の”その後”についてまずは話す必要がある。






大学在学中も依頼を受ければ曲を作っていたし、依頼が無くても作っていた。寝ても覚めても音楽のことばかり考えて、ルームメイトからは「音楽バカ」呼ばわりされたが、音大生なんてみんな音楽バカ(褒め言葉だから!)ばかりで、たくさんの刺激をもらった。


暇を見つけては他の国へ行き、新たな音楽を求めて北から南へ、西から東へ。遭難しかけたり、多少危ない目にあったりしながらもまだ見ぬ楽器や知らない音楽を求めて旅をした。


ちょうどその頃に、料理上手なルームメイトの誕生日にあげた曲を彼のお父さんが聞いたらしく、俺に作曲の依頼が舞い込んできた。ちなみに後から知ったことだが、ルームメイトのお父さんはアメリカの超有名な映画監督だったらしい。


初めての日本以外の国からの依頼、しかも実写映画の曲作り。撮影の現場に足を運んだり、監督やスタッフと話し合いながら曲を作っては直し、作っては直し。監督や演者やスタッフたち全員の力が120%発揮され、アメリカだけでなく日本や他の世界でも、映画が大ヒット。なんとその年の〇カデミー賞を受賞した。


作曲者が日本人だとわかるや否や、日本から取材のオファーが殺到。


そしてこの頃、日本にいる田中が俺のマネージャー業務を買って出た。次から次に舞い込んでくる取材オファーを管理し、大学生活に支障のない範囲で今後のために受けた方が良い取材を厳選してくれた。田中も当時大学生で、しかも会社を立ち上げようとしているときに同時並行でやってくれていたので、今でも足を向けて寝られない。田中曰く、俺の世話を焼くは趣味だとか。


そして力を注いでいたのがもうひとつ。ヒストグラマーとしての活動である。


メンバーが大学生の間はメディア露出は無しで、ライブや楽曲制作に集中して地固めをする計画だったのだが、この業界はそうあまくなかった。高校を卒業した虎子も海外の大学に進学し、5人で集まることがさらに難しくなってしまったのだ。


メンバーやレコード会社と話し合いを重ねて、それはもう散々話し合って、ヒストグラマーはレコード会社を退社することになった。そしてこのままバンドも解散……というわけではなく、今までお世話になったリングレコードを離れ、別の事務所にメンバー全員が移籍したのだ。


そしてその事務所と言うのが、田中が大学生のときに立ち上げた会社である。その名も株式会社ひだまり事務所。しかも弟の秋人まで立ち上げに協力し、なんと会社役員になっていた。そんな知り合いだらけの事務所で、音楽部門の最初のメンバーとして、俺たちヒストグラマーが入った。後にLuna×Runaの2人や、声楽で世界を股にかけ活躍する冬瑚が所属するなど、話題のアーティストが所属する人気事務所に成長する。


自分たちのペースでヒストグラマーは活動できるようになり、それこそ数年は新曲を出しても日の目を見ることはなかった。


しかし、俺が大学を何とか卒業し、虎子が大学を中退した年。地道に5人で路上ライブを続け、少しずつだが確実にファンを増やしていき、ドラマ主題歌に新曲が抜擢されてヒットした。その後に出した新曲や、過去の曲が注目を浴び、メディア露出やラジオなどに積極的に参加し続けた。そうやって着実にファンを増やしていった結果、年末の音楽番組に10年連続出場を果たすなど、国民的に認知されるアーティストにまで成長した。


さて先ほど、ひだまり事務所の音楽部門と言ったが、それはつまり他の部門もあるわけで。音楽部門の他に俳優部門、タレント部門、お笑い部門、そして声優部門の5つの部門に少人数ながら所属している。この中でも特に事務所が力を注いでいるのが音楽部門と声優部門。


声優部門には、トップ声優と名高い彩歌さんやカンナ、その他話題の声優が所属している。他部門との交流も盛んで、お互いにコツを教えたり、スキルを吸収したりしながら高め合っている。


田中が望んだ、ひだまりのような暖かな事務所になった。







大学を卒業した年の冬、彩歌さんと結婚した。


御子柴智夏23歳、鳴海彩歌28歳。付き合ってから実に5年の月日が経っていた。


結婚後、彩歌さんたっての希望で、ひだまり事務所に移籍した際に『御子柴彩歌』で活動することになった。もちろんファンの皆様には報告済みだ。


結婚してからも、作曲家としてあらゆる国のアニメやドラマ、映画の曲を手掛けた。ヒストグラマーとしても、活躍の場を広げていた。


が、家に帰れば……。


「パパ、おかえりー!」

波瑠歌(はるか)!」


ててて、と小さな手足を懸命に前に伸ばして、仕事から帰ってきた父親に飛びついた。


「良い子にしてたか~?」

「うん!あのね、はるかね、ママとはんばぐ作った!」

「そっか~。食べるのが楽しみだな」

「へへ」


家に帰れば他の家庭と変わらない、ただの子どもを愛する父親だ。


「智夏クン」

「あっぱぁ!」


リビングから最愛の妻が今年生まれたばかりの長男を抱いて出迎えてくれた。


「いまパパって言った?」

「言ったかも」

「うちの子天才かもしれん」

「ふふ。当たり前よ。私とあなたの子っスから」


彩歌さんにキスをして、子供たちの頭を撫でる。一生をかけて、守ると決めた大切な存在。


兄を失った日、あの日から全てを失うのだと絶望した日々。それが今では大切な存在がこんなにもたくさん増えた。


辛い時間はいつかきっと終わる。


「おかえり」

「ただいま」


この幸せな日常が、当たり前じゃないと知っている。だからこそ、かけがえのない毎日を大切にしながら、俺たちは生きる。

~執筆中BGM紹介~

続 夏目友人帳より「春を知らせるもの~続 夏目友人帳のテーマ」作曲:吉森信様


【作者よりお礼のメッセージ】

 今回で本作「学校では陰キャの俺がアニメのサウンドクリエイターになって女子にグイグイ迫られる話」最終話となりました。全467話(登場人物紹介が2話分込み)です。長い(笑)。見切り発車で書き始めた本作ですが、2020/07/06に第1話を投稿し、2年と半年ほどをかけて最終話までなんとか辿り着きました。本作を支えてくださったのは、ポンコツ作者を支えてくださったのは、読者の皆様です。本当に、ありがとうございました!!!読者の皆様のおかげで、最終話まで書くことができました。感無量です。

 本作を書き始めた当初は、あれが世界的に流行ってあっという間にステイホームになったときでした。予期せずできた時間を何に使おうかと考えて、物語を書くことにしました。そのときは隔日投稿は苦ではなかったのですが、ステイホームが終わり通常の生活に徐々に戻っていくにつれて、自分で決めた隔日投稿が自分の首を締めました。やばい、もうすぐ12時だ!間に合わない!と何度思ったことか。間に合ったり間に合わなかったりでしたが。。。そういえば、急に休みを頂いたときもありました。お休みを頂いた日は大抵、あれのワクチンを打った翌日とかで副反応がえげつなかったときでした。本当に2年半の間、色々ありました。電子レンジが唸り声を上げて壊れ、洗濯機が暴れながら壊れ、Wi-Fiが普通に壊れ。とにかく家電を買い替えた覚えがあります。きっと読者の皆様にもいろんなことがあったでしょう。2年半という長い間、読者の皆様の日常の片隅にあれたこと、光栄に思います。作者はごくごく普通の日本人なので、この瞬間にも街ですれ違っているかもしれません。お互いに顔を知らなくてもこうして読者様と繋がり、ご縁ができたことは奇跡のようですね。膨大な作品数を誇る小説家になろうの作品のひとつであった本作を見つけて、ここまで読んでくださった読者の皆様、本当にありがとうございました。

 完結後も不定期ではありますが、番外編を書ければと思っています。そのときはまたよろしくお願いします。


またいつか、文字の世界でお会い出来ることを願って。


(2023/01/20 雪ノ音リンリン)

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― 新着の感想 ―
[一言] 読了。ごても面白いお話をありがとうございました。
[一言] 遅くなりましたか、完結おめでとうございます。
[一言] 完結おめでとうございます!(´;ω;`)
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