母ちゃんが2人
卒業式が終わって校舎を出て、後輩たちから花束をもらいエレナと少し話した後。
「智夏」
名前を呼ばれて振り返ると、明らかに目立つ集団が手を振っていた。
「母さんと香苗ちゃんと……」
マリヤと香苗ちゃんと、なんとおじいちゃんまで立っていた。
香苗ちゃんが卒業式に来ることは知っていたが、まさかマリヤたちも来てたとは。
「まさかおじいちゃんまで来てたなんて」
そりゃ目立つはずだ。金髪青目の儚げ美人らしいマリヤと大人の魅力漂う香苗ちゃん、年老いてもナイスミドルなおじいちゃんが人目を引かないはずがない。
「なー御子柴。もしかしてこの美形3人って」
鈴木が目を白黒させながらコソッと聞いてきた。もとやんも驚いているが、田中は若干きまずそうだ。それは多分、この中で田中だけが俺とマリヤの間にあったことを知っているから。
さりげなく田中の背を叩く。そこで表情に出ていたことに気付いたらしく、バツが悪そうに謝ってきた。
「……わりぃ、しばちゃん。俺がどうこう思うことじゃねぇのはわかってっけど」
「大丈夫だよ、ありがとな」
俺たちがこのやり取りをしている間、もとやんの頭上に小鳥が着地してくつろいでいたらしく、香苗ちゃんが爆笑していた。
「こちら母のマリヤと、育ての親の香苗ちゃん、おじいちゃん」
順に家族を紹介し、続いて友人を家族に紹介する。
「それでこっちから順に田中、鈴木、もとやん」
……両家顔合わせか?
「いつも息子がお世話になっております」
「あぁあああいいいいいえ、たしかにお世話してますけどお世話になってもいるって言うか」
「なに言ってんのあんた!もっとまともなことが言えないのかい!?」
俺たちを見た途端に一直線にこっちに来て、鈴木の頭に慣れた手つきで拳骨を落とした女性。とても鈴木に似ているがもしかして。
「げ、母ちゃん!」
「げってなによ。せっかく息子の門出を祝いに来た母に向かってそれはないんじゃないの?……あら、そういえば挨拶がまだでしたね。鈴木博也の母です~」
「初めまして~」
出会って5秒で香苗ちゃんと仲良くなってる鈴木母。マリヤとおじいちゃんは勢いに圧倒されている。
「なぁ御子柴知ってるか?」
「なにが」
「母ちゃんってのは2人集まると吸い寄せられるように他の母ちゃんが集まるんだよ」
「は?何言って、」
……ほんとだ。ほんの少し目を離した隙になんかお母さんらしき人たちが増えてる。
「あの眼鏡かけてる人は井村の母ちゃん」
「その隣は田中のお母さんだね」
「あ、あの転びかけたおじいさんってもしかしてもとやんのおじいちゃん?」
「おじいちゃん来てたんだ……」
「もとやんのおじいちゃんもドジなんだな」
「それを華麗に受け止めた御子柴のじいちゃんは只者じゃねぇな」
なんか、学校に家族がいるのって変な感じだな。むず痒いというか、そわそわするというか。でも、家族に祝われるって、嬉しいものだな。鈴木たちの家族を見れたのも楽しいし。
「なー。マリヤさんと香苗さんって」
鈴木が拳骨された頭をさすりながら聞いてきた。
「どっちも御子柴の母ちゃん?」
田中ともとやんが余計なことを聞くなと言わんばかりに鈴木の口を後ろから塞いだ。この質問を1年前とかにされてたなら適当に話をはぐらかしていたかもしれない。でも、今ははっきりと答えられる。
「うん。マリヤも香苗ちゃんも、俺の大切な母親だよ」
羽交い絞めにしていた2人が手を離し、鈴木がニカッと笑った。
「そか。美人な母ちゃんが2人もいて羨ましいよ」
「だろ?美人な母さんたちに、最高な友達に恵まれて俺は幸せだよ」
「ちょ、おま、面と向かって言われると恥ずかしいわ」
「オレモシアワセ」
「田中はもっと心を籠めろ」
「シアワセ」
「もとやんが真似しちゃったじゃねぇか」
わんやわんやといつも通り騒ぎ出したみんなに、一つ提案をする。
「なー。恥ずかしいついでにもうひとつ言っていいか」
「んだよ?」
「全員で一緒に校門を出てみたい。その、一緒に入学はできなかったけど、卒業は一緒に出来たから、最後も一緒に出てみたいかなーって」
自分で言ってて女々しいなと思うが、やってみたいのだから仕方ない。言うのはタダだ。反対されたら潔く諦めよう。
「いーぜ」
「面白そう」
「今ならちょうど校門に人いないよ」
「え、いいの?」
「「「いーよ」」」
ノリの良い友達をもって本当に幸せですよ。
「じゃあいくぞ、3、2、1」
4人で肩を組んで、右足を踏み出す。
「「「卒業おめでとーう!!!」」」
俺たちのこの姿を見ていた後輩たちが、次の年、その次の年と同じことをして、いつの間にか桜宮高校卒業生の伝統行事のようになっていたことを彼らが知るのは、彼らの子どもたちが高校生になったときであった。
~執筆中BGM紹介~
「C.h.a.o.s.m.y.t.h.」歌手・作曲:ONE OK LOCK様 作詞:Taka様




