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せーの



最後のHRが終わり、後は帰るだけになってしまった。


「このまま校門を出たら、俺たち高校生じゃなくなるんだな」

「そんな寂しいこと言うなよー!」

「みんな高校生じゃなくなるのが寂しいから、こうして教室で写真撮ったり駄弁ったりしてんだろうな」


HRが終わっても、ほぼ全員が教室から出ようとせず、普段写真を取らないようなクラスメイトともここぞとばかりに写真を撮っている。


「じゃあ寂しいけど行くわ」

「なんでだよ井村~!お前寂しくないのかよー!」

「今から校門のところで後輩たちが色紙とか渡してくれる予定だから」

「そういうのってサプライズじゃないんだ」

「毎年やってる恒例行事だから、サプライズもなんもない。じゃ、みんな元気でな~」

「「「じゃあな~」」」


1人、2人と教室から姿が消えていく。これから一生会えなくなるわけじゃないし、スマホがあれば声だっていつでも聞ける。でも、クラスメイトではなくなるというのは、とても寂しいな。


「部活ってことはさ、しんぶん部の1年生たちももしかして何か用意してたり?」

「あー、そういえば妹が何かコソコソとしていたような」

「まじか!じゃあ俺らも早く行かなきゃじゃん!もとやんも行くぞ!」


女子にもみくちゃにされていたもとやんを鈴木が呼んだ。


もとやんは救世主のような目で鈴木を見て、女子たちは仇のような目で鈴木を見た。もとやんの女子人気は本当にすごいな。


目を真っ赤に腫らした女子たちが口をへの字に曲げて抗議してきた。


「鈴木~」

「私らからもとやんを奪うなんて~」

「御子柴君と田中君ともまだ写真撮ってないし」

「鈴木とも写真撮りたいんだけど!」

「「「え」」」

「取り押さえろ~!」

「「「はぁい」」」


こういうときの女子の結束力、おそるべし。


まるでベルトコンベアーに乗せられた商品かのごとく右の女子から左の女子へ写真を取られながら流れて行った。その間の記憶はあまりない。


いつの間にか教室の外に、呆然とした男4人が出荷されていた。


「じゃあ、行こうか……」


自分たちの意思で教室の外に出るより、知らないうちに外に出てた方が気が楽かもしれない。そう思うことにしよう。


「なんか、いつも通りって感じだな」

「このバタバタ感な」

「普通に明日も学校に来そう、もとやんが」

「いくら俺でもそこまでは……」

「ない、と言い切らないのが正直」


生徒玄関に近づくにつれて、教室よりもさらに賑やかな声が聞こえてくる。


「それにしても今日めっちゃいい天気~」

「絶好の卒業式日和」

「だな」


靴を履き替えて、外に出る。この校舎に生徒として入ることはもうない。


「次来るときは卒業生としてだな」

「ちょっと偉くなった気分になるわ」

「ちっぽけな優越感だな」

「うっせ」


こうして話をしながら、ぽかぽかの日差しの下に出る。


「あ!先輩たちやっと来た!」


穂希が今日は女子制服姿で俺たちを待ち構えていた。


「せーの」

「もとやん先輩、鈴木先輩、田中先輩、御子柴先輩、卒業おめでとう!」

「御子柴先輩、田中先輩、鈴木先輩、もとやん先輩、コングラチュレーション!」

「田中先輩、もとやん先輩、御子柴先輩、鈴木先輩、ご卒業おめでとうございますっ」


穂希と姫と田中の妹の深凪。しんぶん部の1年生たちが俺たちの卒業を祝ってくれたのだが。


「「せーの」って言った意味ゼロじゃん」

「誰一人被ってないのがこれまたすごい」

「俺たちの名前の順番はともかく、最後の言葉は揃えられたよね」

「ひーっ!おもしろ!」


俺を含めた3人がツッコみ、鈴木が1人で大笑い。


渡された小さな花束を受け取り、礼を言う。


「ありがとう」

「ありがと」

「ありがとな」

「さんきゅ!」


卒業証書と花束を持って、後輩たちと別れた後だった。


「チーちゃん!みんな!」


その呼び方は。


「エレナ!」


学校祭が終わって、本国に帰ってしまったエレナが私服姿でそこにいた。送別会はそれはそれはハプニングの連続だった。が、みんな笑って送りだせた。


「久しぶりね、みんな!」

「今日帰ってくるって言ってくれれば良かったのに」

「ちょっと抜け出せるかどうかわからなかったから。着いたのもついさっきだし」


授業を抜け出すような感覚で出国したのかな、エレナは。相変わらず規格外というか破天荒というか。


「どうしてもみんなが卒業した姿を見たかった気持ちが半分」

「もう半分は?」

「今日の夜のヒストグラマーのライブを見るためよ!」

~執筆中BGM紹介~

「ラストソング」歌手・編曲:Official髭男dism様 作詞・作曲:藤原聡様

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