いつも通り
投稿少し遅れました、ごめんなさぁい!ブクマ・評価・感想・おススメの曲ありがとうございます!
前回でしれっと修学旅行編が終了しました。
前半は香織視点です。
智夏君にさらに恋した修学旅行から帰ってきた。もう一週間ほど経っているのにまだあの日の夜を思い出してドキドキしている。
私なんて大胆なことしちゃったの―――!!!
あのときは体が自然と智夏君の布団に行っちゃっただけで、別にわざとというわけでは……。と誰に向けてかわからない言い訳をひたすら繰り返す毎日。おかげで間近に迫った中間考査の勉強が身に入らない。
「集中できないし、録画したアニメ見よ」
自分の部屋にある小型のテレビの電源を付ける。録画リストを開き、目当てのタイトルを選択する。
『最後の恋を、君と。』
秋アニメで一番注目していたアニメである。なんと音楽を担当しているのがあの『春彦』様なのだ!『ツキクラ』イベントのときに演奏している姿を実際に見て、すっかりファンになってしまっていた。公式グッズとか出してくれないかな?めちゃ貢ぐのに。
ツキクラといえば、最終話の『レクイエム』も凄まじい反響を呼んでいた。あの曲を聞いたとき、ヒロインのミシェルたんの気持ちが痛いほどに伝わってきた。声優まじすげぇ・・・って天を仰いだくらいには神がかった歌声だった。そしてこの曲を聞いた瞬間、確信めいた予感がした。この曲を作ったのは愛する『春彦』様である、と。EDのスタッフロールで本当に『春彦』様が作曲していたことを確認し、全私がむせび泣いた。
はぁ、春彦様って一体どんな人なんだろう。もう存在自体が愛おしい。
その姿を目の前で見ても、性別がわからなかった。ただ本当に綺麗な人だった。特に指が、もう、もう!色気がすごかった!
指と言えば、智夏君も惚れ惚れするほど綺麗な指をしている。もしかして、智夏君が春彦様だったりして。なわけないか。あはは!
ぐっはぁぁぁああああ!恋愛アニメ最高!胸キュン万歳!そういえば、予告と監督違った気がしたけど……ま、いっか。そんなことより、春彦様最高すぎ!!好き!!
ごりごりのバトルアニメの『ツキクラ』の力強い曲と違って、『最後の恋を、君と。』は繊細な曲ばかり。まるで乙女心のよう。やっぱり春彦様は男と女、両方の気持ちがわかる完璧な存在であることは間違いない。
SNSで春彦様のことをサーチしてみる。ふむふむ、皆一様に春彦様に心を鷲掴みされているらしい。ふと、目に着いたツイートに興味を一気に持っていかれる。
「え!?『レクイエム』発売されてるのっ!?!?」
私としたことが、修学旅行に気を取られて最重要事項をスルーしていたなんて!無駄な動きの一切を省いた指遣いで『レクイエム』を購入する。早速再生して聞いてみる。
アニメを見ていたときは、主人公や登場人物に向けた歌だと思っていた。実際そうだと思う。でも、痛いくらいに胸に訴えかけてくるものがある。あぁ、これは小学生の時に大好きなおじいちゃんが亡くなってずっと泣いていたときに、お母さんが言ってくれた言葉を聞いた時と同じ気持ちだ。
「香織、そんなに泣いてたら、おじいちゃん心配で天国行けなくなっちゃうよ」
「おじいちゃんに会いたい。天国にまだ行ってほしくない」
まだ6歳だった私は、おじいちゃんの遺影の前でずっと泣いていた。ちょうど1年ほど前におばあちゃんが亡くなったばかりで、後を追うようにしておじいちゃんも亡くなってしまったのだ。
「おじいちゃん天国に行けなくなったら、おばあちゃんに会えなくなっちゃうよ?香織はそれでもいいの?」
おばあちゃんとおじいちゃんは本当に仲の良い夫婦で、私も将来こんな家族がほしいと憧れていた。私が結婚するときには、おばあちゃんもおじいちゃんもそこにいるのだと当然のように思っていた。
「……だめっ!おばあちゃんとおじいちゃんはいつも一緒じゃなきゃ、だめなの!」
「なら、ちゃんとおじいちゃんにお別れしなくちゃね。安心しておばあちゃんに会いに行けるように」
「うんっうん!」
笑ってお見送りしてあげようと思ったけどやっぱりうまくいかなくて。かなり不細工な笑顔だったろうけど。ちゃんと、見送ることができたような気がしたのだ。そんな気持ちを『レクイエム』を聞いて思い出した。
おばあちゃんといえば、生前に
「気になる男ができたら、化粧してみるといい」
と言っていたのを思い出す。明日はちょうど、カンナちゃんのための勉強会を家で開く予定なのだ。もちろん、智夏君もやってくる。・・・お化粧、やってみようかな。私がお化粧したところで、カンナちゃんの足元にも及ばないだろうけど、でも、何もしないまま、諦めるのは嫌だ。
「お母さーん。ちょっとお買い物行ってくるねー」
――――――――――――――――――――
修学旅行から帰って、まったりしたい学生の気分を華麗にスルーしてやってきたのは中間考査。今回もやっぱりカンナが泣きついてきたので、休日に香織の家で勉強会を開く。今日はその当日。香織の家に来るのは初めてじゃないのに、緊張してしまう。特に香織とカンナは修学旅行の最後の夜を思い出して、少しドキドキしてしまう。
「いらっしゃーい、みんな!」
「!」
「!?」
「…」
ちなみに上から田中、俺、カンナの順である。
「やっぱり、変、かな?雑誌みながらやったんだけど、うまくいかなくて……」
多分悲しそうな顔をしている、と思う。いつもすっぴんの香織が化粧をしている。そこまではいい。だが、なぜ白塗り。なぜ目の周りが殴られたように青い。なぜまろ眉。なんの雑誌を見たんだ。どうしたらこんな顔になるんだ!?
「香織さん、洗面所貸してくださる?……智夏と田中は今の記憶は消しなさい」
「「は、はひ」」
カンナがずるずると白塗りの香織を引きずりながら洗面所に消えていった。
数分後、いつも通りすっぴんの顔に戻った香織が疲れた様子のカンナとともに戻ってきた。
「待たせちゃってごめんね」
いつになく気落ちした様子の香織に思わず言葉をかける。
「いつも通りの香織がいいよ。そのままの香織がいい」
触り心地の良い頭を撫でる。
「あわ、わわわわわっ」
「しばちゃん、かわいそうだからそろそろやめてやれ」
「え?」
――――――――――――――――――――
中間考査をなんとか乗り越え(カンナが)、久しぶりにやってきたドリボ。遅くなったが福井土産を持ってやってきたのだ。本当は明日来る予定だったのだが、なんとなく早く来てしまった。
「―――!――の!」
何かロビーの方が騒がしい。裏口から向かおうと思っていたが、気になってロビーの方を覗く。
ドクン
騒ぎの中心にいるのは、女。社長と香苗ちゃんと押し問答を繰り返している。こちらからは女の後ろ姿しか見えない。けど、わかる。
ドクン
かつて母と呼んでいた女が、目の前にいる。兄の絵画と共に消息を絶った女が、いま、ここに。
記憶の隅に残っている当時のままの声で、俺の名を呼ぶ。まるで、迷子の子供を迎えに来た親のように。
「帰るわよ、智夏」
ドクン
全身の血が沸騰したかのような、この激情に名前をつけるなら、これはまさしく憎悪である。
~第25回執筆中BGM紹介~
AIRより「夏影」歌手:Lia様 作詞作曲:Key(麻枝准)様
ついに母親登場です。




