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同じコタツに入れば



「仲直りよろしく」


秋人はそう言って冬瑚と部屋を出てしまった。俺も仲直りに賛同した仲間なので、一緒に出て行きたいところだが、香苗ちゃんの「逃がさないよ」という視線に縫い留められている。


「とりあえず……みんなでコタツに入りましょうか」


同じ釜の飯、もとい同じコタツに入れば仲が深まるのか深まらないのか。香苗ちゃんの一声で俺たちは4人でコタツを囲むことになった。


俺たちにならって正座でコタツに入ろうとしてきたおじいちゃんの姿は及第点だが、無理をさせたいわけじゃない。


「ソファーに座ってもいいですよ」

「いや、向こうで正座の練習もしてきたから問題ない」


正座って練習するものだっけ……?


それでも明らかに座り辛そうなので、あぐらをかけば?と実際にやって見せる。あぐらの方が負担は少ないようで、座り直したら楽そうだった。


マリヤもおじいちゃんも、一言も話さない。こういうところが似ているから喧嘩してしまったのだろうか。


ったく、しょうがないな。


「喧嘩の原因は、母さんの結婚におじいちゃんが反対したからだよね」


俺の確認に両者共に頷いた。


「まずはおじいちゃんの話を聞かせてください」


えぇ、儂から!?みたいな顔をしていたけど、ここは年功序列ってことで。


「そうさな……。まずマリヤの結婚に反対したことを間違っていたとは思わぬ。ただ、他にやりようはあったと思うておる。あのときもっと話を聞いていれば、何かが変わっていたかもしれんとな」


声から滲み出る、深い後悔の念。


「すまなかった。いままで何もしてやれなくて。娘の帰る場所にもなってやれず。今になって顔が見たいと押しかけてしまって」


謝る父の姿に娘は目を見張っていた。きっと、謝っている姿を初めて見たのだろう。


良くいえば厳格、悪くいえば頑固おやじか。


「謝るのは、私の方よ。あのとき父さんの言う通りにしていれば、と何度も思ったわ。すごく辛かった。すごく痛かった。すごく心細かった。……でも、今は後悔していないわ。あのとき日本に行っていなければ、私は愛する子供たちに会えなかった」


そこで俺を見られると恥ずかしいというか、なんというか。


日本に来たことを後悔してるって言うんじゃないかと思ってた。マリヤにとっては辛い記憶しかないと思っていたから。それを本人の口から聞くのは、ほんの少しだけ怖かった。


だからマリヤが後悔していないと断言したのは、嬉しかった。コタツの温もりが、心までぽかぽかにしてくれたみたいだ。


「そう、か。そうかぁ。マリヤお前、母さんに似て強くなったな……」


おじいちゃんはきっと、自分に対する恨みの言葉を言われると思っていたのだろう。娘の思いがけない言葉に、目頭を強く抑えている。


「母さんが一緒じゃないってことは、もう……」

「あぁ。先に逝ってしまったよ」

「もう一度、っ、会いたかっ……」


香苗ちゃんとアイコンタクトを取り、そーっと部屋から抜け出した。


部屋のすぐ外には、壁にへばりつくように秋人と冬瑚がいた。


「こんなところで何してるんだ?」

「とーちょーしてた!」

「盗聴?なんで?」

「僕らがいると話せないこともあるかなーって気を遣ったんだよ」

「気まずくて部屋を出たんじゃなかったのか」

「「それもある」」

「あるんかい」


リビングにおじいちゃんとマリヤ、廊下に住人の4人が集結したわけだ。さて、どうしよう。


「冬瑚トランプ持ってるよ~」

「「「遊ぼう」」」


リビングから一番近い香苗ちゃんの部屋に4人で移動して、トランプで楽しく遊んだ。おじいちゃんが来てからどこかに行っていた白猫ハルもやって来て4人と1匹でまったり。


しばらくして、母さんが泣きはらした真っ赤な目で俺たちを呼びに来て、香苗ちゃんを含めて全員を抱きしめた。


「仲直りできた?」

「えぇ。みんなのおかげね。ありがとう」


これで心残りもなく年を越せそうだ。

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