奇跡を起こすなら
智夏視点→マリヤ視点→智夏視点です
(2022/12/01追記)
誠に勝手ながら、12/02、12/04、12/06の投稿をお休みさせていただきます。投稿を楽しみにしてくださっていた読者の方々、本当に申し訳ございません。体調不良ではなく、プライベートで締切に追われまくっておりまして、このまま投稿を続けることは難しいと判断しました。
次回の投稿は12/07から隔日で再開予定です。
「治験薬が劇的に効いています」
病院を変えて、顔合わせしたばかりのお医者さんに呼び出され、言われた。
「これは奇跡ですよ」
奇跡ってお医者さんが言っていいのか。それだけ稀なことなんだろうとは思う。
だって、こういうのはドラマやアニメの中だけの話だと思ってたから。
「このまま治療を、―――」
お医者さんが丁寧に、今後の治療計画について話してくれるが、あまり頭に入ってこない。
「ご質問はありますか?」
ひとしきりお医者さんが興奮気味に話した後。
「えっと、つまり、マリヤ……母は治るということでしょうか?」
一番聞きたかったことは、これだけ。
「はい。このまま順調に治療が進めば、ほぼ確実に」
ずっと聞きたかった返事も、これだけ。
誰かに治ると言ってほしかった。それがようやく、聞けた。
「ありがとう、ございますっ!」
良かった。本当に、良かった……!
――――――――――――――――――――――
初めに先生から言われて、自分の事じゃないって思った。
「治るんだって」
智夏が病室に入って来た音が聞こえたけど、顔が見れない。ぽつりと、零れるように言葉が落ちた。
「先生にさっき聞いた。奇跡だって」
奇跡。それは、今まで頑張ってきた人が、苦しんできた人が与えられるべきものであって、私に与えられていいものじゃない。
逃げて、奪って、傷つけてきた私が、受け取っていいものじゃないのに。
「治るって言われて、そんな顔をするのは母さんくらいだよ。治るんだから素直に喜んでいいんじゃない?」
「でも……」
「あぁもう!往生際が悪いな!そんなに母さんを縛ってるものはなに!?いったい何に罪悪感を持ってんの!?俺たちを置いて出てったこと?再会の仕方が最悪だったこと?冬瑚に寂しい思いをさせてたこと?……いっぱいあるな」
本当に、いっぱいある。数えきれないほどの罪が、この身を焦がしている。
「でも過去は変えられないから、未来を見ようって話しになっただろ」
「……智夏、手をケガしてるわ」
「え?ほんとだ。どっかにひっかけたのかな?」
なにか鋭いもので切れたような傷跡があった。血も少し出たようだが、傷が浅いのか血は既に止まっていた。
何ともない顔をしている。実際、何ともないのだろう。だって智夏は……。
「神様が奇跡を起こすなら、私の病気が治るより、智夏の痛みを戻してくれたら良かったのにね」
――――――――――――――――――――――
「神様が奇跡を起こすなら、私の病気が治るより、智夏の痛みを戻してくれたら良かったのにね」
俺の怪我をしていた左手をそっと包んで、罪悪感たっぷりの表情でそう言われた。なるほどつまり、俺が痛みを感じなくなったことに罪悪感を感じているんだな?
「えいやっ」
「……痛い」
マリヤに包まれていない方の手で、俯いていた形の良いおでこに軽くデコピンをお見舞いした。病人にデコピンとかありえないって?これは厄払い的なアレだから、たぶんだいじょぶ。
「これは完全に、徹頭徹尾、天地がひっくり返ってもあの男のせい!母さんが悪いなんて思ってるのはもう母さんだけなんだよ。勝手に背負わないでくれ」
これはあいつの、最悪な父親のせい。アイツ以外に罪を背負われたくはない。
「優しいんだか、厳しいんだかわからないわね」
「優しくない。厳しさ120%」
さっきの言葉のどこに優しさがあったというのか。厳しさしかない。
「ふふ。なにそれ」
「最近冬瑚がハマってるお笑い芸人のネタ」
「似合ってないわね。ふ、ふふっ」
「似合ってたまるか」
上半身裸のリーゼント芸人のネタに似合ってたまるかってんだ。マリヤは何が面白かったのか、ずっと笑っていた。
「……なにも、泣くほど笑わなくても」
笑ってくれるのは構わないが、泣かれたらどうしたらいいのかわからない。キョロキョロうろうろとした結果、空気が悪いのがいけないんだと窓を少し開ける。
「そんなに笑うほど元気なら、秋人たちに怒られるのも大丈夫そうだな」
「うん。だって、智夏も一緒に怒られてくれるんでしょ?」
「しょうがないなぁ」
窓の外に、鳥が2羽飛んでいった。夫婦か仲間か兄弟か、それとも親子か。
名前なんて、きっとなんだっていいんだ。
俺たちは俺たちなりの関係を築けばいい。
~執筆中BGM紹介~
「さよならだけが人生だ」歌手:伊藤歌詞太郎 feat.零様 作詞・作曲:伊藤歌詞太郎様




