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番外編 やばば

もとやん視点、後編。


久しぶりに真壁姫ちゃん登場。



両親と本当の意味で初めて向き合った正月のことを思い出しながら、放課後に進路相談をした後。教室まで戻る、その道中で。


「もとやん先輩。このノート、半分持ってくれてもいいですよ」


ここまでくるといっそ清々しいほどに図々しい1年生を見る。


「君は真壁さん、だっけ」

「同じ部活に入ってるんだから、名前くらい完璧に覚えるべきですよー」


はいこれ、と持っていた彼女のクラス全員分のノートの半分……いや7割を押し付けられた。例のしんぶん部のあまり関わったことの無い後輩。断る理由もないのでノートを受け取った。


「そういう真壁は僕の名前はわかるのか?」

「もっちろん!えーと、本村先輩」

「惜しいね」

「えー?じゃあ吉村先輩」

「吉村は僕らの担任だ」


なぜ「もと」を残さずに「むら」を残したのか。


「ねー、もとやん先輩」


開始数秒で名前当てゲームには飽きたらしい。女心って難しい。


「こういうのって普通、友達に手伝ってもらうものなんでしょ?」


こういうの、とはノートを職員室まで運ぶ雑事のことだろう。


「僕は手伝ってもらったことはない。1人で運べるし」


運んでいる最中に転んでばら撒いて拾ってもらったことは数えきれないほどあるけど。ノートなんてそんなに重くないし、運ぶくらい1人で事足りる。


僕の返答は、聞きたかった答えではなかったらしく頬を膨らませて不満げな表情をしていた。


「じゃあ両腕骨折してたらどうするの?」


両腕骨折……?いくら自他共に認めるドジでも、両腕骨折はしたことがない。でも、もしそうなったとしたら。


「頭に乗せて運ぶ」

「先輩やばば」


やばば。


「真面目に答えるなら、」

「冗談だったの!?ひど~い!」

「友達に手伝ってもらうだろうな」


手伝って、と言う前に進んで持って行ってくれそうな気のいい奴ばかりが集まっているクラスだ。本当に、友人には恵まれたと思う。


「先輩はさ、友達がいて良いよね」


そんなことを言うということはつまり。


「真壁は友達がいないのか」

「い、いないんじゃないもん!できないだけだもん!」

「ん?それはどう違うんだ」


友達ができないってことは、いないってことだろう?


「2人いるもん!1号と2号!」


なるほど。これは傷つけないように教えてやらなければ。


「ロボットを友達に数えるのは……」

「ロボちゃう!人間だよ!御子柴智夏と鳴海彩歌!」


なるみさいかってどっかで……。あ、御子柴の彼女か。正月に偶然会ったときに少し挨拶をした程度だったけど、綺麗な人だったのは覚えている。


「つまり、同級生の友達はいないってことか」

「い……、なぃ」


知り合いを紹介するといっても、1年生なんてほとんど知らないし。


「田中の妹さんもたしか1年生じゃなかったか?」

「あの子はまだ攻略中っていうか。話ができるように頑張ってるけど、何話していいかわかんないし、怖がられるし」

「怖い?」

「うん。いつも男子を侍らせてるから」


たしか田中の妹って人見知りするって言ってたよな。


「男子を侍らせるのをやめたら友達になれるんじゃないか?」

「好きで侍らせてるわけじゃないもん。気付いたら勝手に侍られてるんだもん」

「ホラーかよ」


そんな話をしているうちに、職員室に着いた。先生の机の上にノートを置き、2人で出る。


「はぁ。家に帰りたくないな~」

「そうか」

「……それだけ?」

「家に帰りたくない日もあるだろ、そりゃ」

「ふ~ん」


髪を金色に染めたくなる日もあれば、花に水をやりたくなる日もある。


人生なんてそんなもん。


「もとやん先輩ってさ、居心地良いって言われない?」

「言われない」


見ていてハラハラするってよく言われる。


「ふーん。そうだ。連絡先教えてよ、先輩」

「えっ」

「え、いやなの?」

「嫌じゃない、です」

「ならスマホ出して」

「……はい」


居心地が良いなんて言われたのも、女子から連絡先を聞かれたのも、ぜんぶ真壁が初めてだ。

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