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番外編 軋む

今回はもとやんのターン!

前編です。



親戚の集まりは、昔から好きじゃなかった。


「えぇ?蒼穹(そら)君、受験失敗しちゃったの?」

「失敗っていうか、高校には入れたんだけど、第一志望の特別進学クラスには入れなくって。受験当日に熱が出ちゃったのよ」

「第一志望以外なんて全部失敗だろ」

「あいつは昔からどんくさかったもんな」


医者に教師に弁護士に。身近な大人たちはみんな頭が良かった。そんな中で生まれ育つ子供には、当然のように完璧さが求められた。


今も(ふすま)の向こうでは完璧な大人たちが僕の失敗を笑っている。


父さんと母さんに申し訳なくてたまらない。笑われるような子供で、ごめんなさい……。


次は笑われないように頑張るから。





まるで何かに追われるように、毎日毎日勉強し、編入試験に合格した。来年度からは僕も3年A組だ。これで父さんと母さんが笑われることも……。


襖をあけて、父と母の背中が見えて、それで。


「弟に全部持っていかれちゃった取り柄の無い子なのよ」


そう言って、笑っていたのは他でもない母さんと父さんだった。


「なんで」


僕の存在に気付いた3人が振り返る。話相手の方は気まずそうに目を逸らしたけど、両親は驚きもしない。2人ともまるで僕がいてもいなくてもさっきの言葉を言っていたかのように、興味がない顔をしていた。


「なんで、そんなこと言うんだよ。母さんたちのために必死で頑張ってきたのに」

「まるで私たちが悪いみたいな言い方ね」


僕はこの人に、何かを期待していたんだ。


「そうね。私たちが悪かったのかもしれない」


期待通りの結果を出せば、僕にも弟みたいに愛情を注いでくれるって。


「あんたの育て方を間違えた、私たちの責任かしらね」


そんなこと、あるはずないのに。





そっから、見事にグレた。とりあえず、髪を金髪に染めて、門限を破り、家にも帰らない日もあった。髪を染めたときより、毎日続けていた勉強をやめたことの方が罪悪感が大きかったのには笑えた。


両親は、まるで誰かに言い訳でもするみたいに「育て方を間違えた」と、金色に染めた髪を見て言っていた。


心が軋む音がする。


両親はきっと、僕に傷つけられたと思ってはいても、僕を傷つけているなんて思いもしないんだろう。


居場所のない家には帰りたくなくて、外に出た。そのときに初詣に来ていた師匠……御子柴と会ったのだ。嫌な顔ひとつせず、話を聞いてくれた御子柴には本当に感謝しかない。おかげで、道を踏み外す前に踏み留まれたように思う。


家に帰り、リビングに入ろうとして、足が竦んだ。


両親ときちんと話そうと決めて帰ってきたが、いざ会うとなると怖くて一歩も踏み出せない。


「――――だよ?」

大地(だいち)は知らなくてもいいことよ」

「そうだぞ。受験生なんだから、お兄ちゃんのことは気にせず自分のことに集中しなさい」


弟の大地は、僕とは違ってなんでもできる完璧な弟。両親の愛情は大地が生まれたときからたった一人に注がれたまま。


いつもと変わらない。僕はあの輪に入りたくて、ずっと頑張っていたんだな。期待をしなくなったら、何も羨ましくなくなった。


……もう足は重くない。


リビングに入ると、小6の弟と父と母がいた。


「話をしたいんだ」

「……大地、部屋に戻ってなさい」

「いいや、大地にも聞いてほしい」

「俺も、兄さんの話を聞きたいから残る」


大地と両親の関係は良好であるから、それに亀裂を入れるかもしれないことをするのは忍びない。


「今までずっと―――」


決められたレールの上を走るのは本当は嫌だったこと。「育て方を間違えた」と言われて存在を否定されたように感じたこと。愛情が欲しかったこと。


全部を話した。


父も母も、傷ついたように泣いていた。


「なっ……!父さんたち陰で兄さんのことそんな風に言ってたのかよ!っざけんなよ!」


怒ったのは、大地だった。怒ったところなんて見たときが無かったので、両親も僕も驚いた。


「それに!なんで父さんと母さんが泣いているんだ!本当に泣きたいのは、傷ついたのは兄さんだろ!自分が言われて嫌なことを、なんで子供に言うんだよ!?」


本当に、驚いた。


最愛の息子に怒鳴られて、ようやく僕の言葉を真に理解したのだから。






その後、両親からは謝罪を受けたけれど、家は居心地が悪いまま。それでも良いことといえば、弟と距離が縮まったことくらいだろうか。


「蒼穹の好きなように生きなさい」


と言われてから考えたけど、髪は黒髪に戻すことにした。門限がなくなってから、高校の友達と放課後に遊ぶことも増えた。


自分で進路を考えるという初めての経験に、不安と好奇心で胸がいっぱいになる。進路を悩むって、選択肢がいっぱいあってなんて贅沢なんだろう。そんなことを考えていたときだった。


「もとやん先輩。このノート、半分持ってくれてもいいですよ」


持ってくれてもいいですよって、初めて言われたなぁと思いながら呼ばれた方を見る。


「君は―――」


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