憐れな子羊
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「3泊4日の修学旅行は幕を閉じるのだった。で、本当にいいのか?お前ら」
「良くねぇよ。俺たち女子との絡みほぼゼロだぜ!?もっとキャッキャウフフできると思ってたのにー!!」
3日目の夜。田中と鈴木が訳の分からないことを言っている。俺たちの部屋は4人部屋で、俺、田中、鈴木、井村がルームメイトである。ちなみに鈴木は率先して失言を吐く男で、井村がいつもそれを諫めている相方である。
「鈴木、少なくともお前の高校生活でキャッキャウフフイベントは起きないから安心しろ」
「予言やめろよ!井村が言うと当たりそうで怖いだろうが!」
「そんなことはどうでもいいんだよ!」
田中がいきなり吠えるように叫んだので驚いた。鈴木はそんなこと呼ばわりされてしょんぼりしているし、とりあえず肩を叩いてやった。すると田中が「御子柴はいい奴だなー」と言って泣きついてきたので面倒くさくなって距離をおく。
「しばちゃん今の俺の話聞いてた!?」
「え?聞いてないけど」
「うぇーん!しばちゃんが反抗期!」
「どいつもこいつも面倒くさっ」
あ、思わず心の声が出てしまった。ま、いっか。田中だし。
横で一連の流れを見ていた井村が声をかけてくる。
「御子柴はいつもコレの相手をしてるのか・・・お疲れ様」
「井村こそ、よくアレの相手をしてるよね・・・尊敬する」
「お互い変な友達を持つと苦労するってこったな」
「そうだね」
共通の悩みを持つと友達になりやすいんだな。井村に一気に親近感が沸いた。
「聞こえてるぞー。てか俺の話をきいてくだせぇよ」
「なに?田中が昨日白目剥いて寝てた話?」
「え、うそ!?俺白目剥いてた!?・・・じゃなくて!それも気になるけど!そうじゃなくて、」
コンコン
「あ!来た!」
「来たって誰がだよ?」
コンコンコン
「めっちゃノックしてくるべ」
「お前らが泣いて喜ぶスペシャルゲストを呼んだ!」
コンコンコンコンー、ガチャ
ノックをしていた人物が待ちきれずにドアを開けた。ちなみにいま泊まっている部屋は和室であり、玄関から俺たちがいる和室までは襖が一枚ある。その最後の扉がいま、開かれ現れたのは、
「招待されたから来ちゃったよ~」
「女子の部屋より少し狭いわね」
「トランプ持ってきたよ!」
「なんかドキドキするー」
香織、カンナ、そして同じクラスの工藤さんと松田さんの4人の女子。こういうときはいつも率先して失言をして女子から絶対零度の視線を浴びる鈴木が何も言わないのに違和感を持ち、後ろの彼を見ると固まっていた。
「突然来られると固まるんだよこいつ」
「いや、だって、まだ、心の準備が・・・」
「そんなんだからモテねぇんだよ」
「うるせぇ!彼女持ちが!」
なるほど井村は彼女持ち、と心のノートにメモっとく。全く役に立たない情報だがな!・・・彼女持ちと聞いて心が荒んでしまった。いかん、いかん。
「テキトーに座って座ってー。ていうか、なんで愛羽がここに?」
「私がいちゃ悪いの?」
おおぅ、一瞬にして空気が悪くなったよ。でも確かに、カンナ以外の3人は同じクラスの女子だ。その中に他クラスのしかも呼んでいないであろうカンナがいれば、疑問に思うのは自然の流れである。
「カンナちゃんは私が呼んだの!田中君は私と同じ部屋の子4人を招待してくれたけど、ここなちゃんはもう寝ちゃってたから」
寝るの早いな。今8時だぞ。消灯時間が11時だからそれまで誰も寝ないものだと思ってた。あの小さい小鳥遊さんのことだ、きっと『寝る子は育つ』という言葉を今でも信じているんだろうな。と考えていると、カンナがどこか不機嫌そうな声音で香織に詰め寄る。
「私は人数合わせということかしら?」
「え!?いや、そうじゃなくてね!カンナちゃんも呼んだらきっと楽しくなるだろうなって!」
「ふふっ冗談よ」
「もー!!」
クールカンナの冗談は冗談に聞こえないんだよな。元気カンナのときはある程度はわかるのだが。
「女子、部屋にいる。いい匂い、する」
「鈴木、カタコトになってんぞ」
「ねぇねぇ井村君。さっき聞こえたんだけど、彼女いるって本当?」
「うん、ほんと」
「「ショック~」」
どうやら工藤さんと松田さんは井村のことが気になっていた様子。とても残念そうな顔、でもないな?
「なんか彼女いる方が燃えるわ~」
「むしろ彼氏いる方が萌えるわ~」
前者は工藤さん、後者が松田さんの言である。方向性は180度くらい違うがどちらも狂気を感じる。たくましすぎるだろ、女子。松田さんの言葉を聞いた瞬間、思わず近くにいた田中と距離を置いたくらいには恐怖した。他の男子も同じようでお互いに距離を取っている。
「おっほん!気を取り直して、遊ぼうか?」
わざとらしく香織が咳払いをして、怪しい雲行きになっていた場の軌道修正をする。
「そうだな!」
「遊ばにゃ損でしょ!」
「いやー楽しみだな!」
「早く始めようぜ!」
おぉ、神よ。憐れな子羊たちを救ってくださり、感謝いたします。
「そうだね、時間もったいないし始めようか~」
「だねー」
女子も乗り気になってくれて助かった。ようやく滝のように流れていた冷や汗が引いた。命拾いしたな・・・
そういえば、あの状況で言葉を発していなかった人物がいた。その人物、カンナは正座しながら静かにトランプをシャッフルしていた。
「カンナ、もしかしてメッチャ楽しみにしてる?」
「そ、そんなわけないじゃない!いいから全員さっさと座りなさい!」
「「「は~い」」」
顔を赤くしながらも取り繕うのでその場にいたカンナ以外の全員が微笑ましい目で見ていた。計8人、男女混合で円になって座る。俺は最初は工藤さんと松田さんの隣という餌のようなポジションだったのだが、我らが神の香織とカンナが救出してくれて彼女らの間に挟まれる形で収まった。まぁ俺が救われた代わりに井村君が犠牲になっていたが。君のことは忘れない!
「では、ダウトをしましょう」
「だうと?」
カンナが言ったトランプゲームがわからず聞き返したが、どうやら知らなかったのは俺だけだったようだ。そもそも俺が知っているのはババ抜き、七並べ・・・あれ?これくらいしか知らないな。
「ダウトは簡単に言うと騙し合いのゲームよ」
それから説明を聞いて、ルールを理解する。
・一人6~7枚のトランプを持つ
・一人ずつ順番に「1」「2」と言いながら自分の持ち札から1枚ずつトランプを伏せて出していく
・伏せて出したカードが言った数と異なっていると思った場合、「ダウト」と言う
・カードの数字と言った数字が異なっていた場合、そのカードを出した人物が場のカード全てを引き受ける
・カードの数字と言った数字が揃っていた場合、「ダウト」と言った人物が場のカードを全て引き受ける
・ジョーカーは全ての数字が当てはまるチート仕様
ルールはざっと、こんな感じかな。
試合開始のゴングが鳴り響く(幻聴)
「それじゃあ始めましょう」
「その前に、罰ゲーム決めようぜ」
ニヒルな笑みで田中が余計なことを言い出したのだった。
~第23回執筆中BGM紹介~
東方プロジェクトより「東方妖々夢~Ancient Temple」
今回も読者様からのおススメ曲でした!恐るべし、東方の沼!