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6人

誤字報告ありがとうございます!

今回は冬瑚視点で進みます。



夏兄が中国に行って、ヨーロッパ?に行って、ようやく帰ってきた、らしい。


「まだかな~」

「いまこっちに向かってる頃だろ」

「それさっきも聞いた」

「冬瑚がさっきと同じことを言っていたからな」


いま、香苗ちゃんが空港に着いた夏兄を迎えに行って、家に向かってるところ、らしい。


なんとなく、家の中で待っているのは落ち着かないから、家のドアの外で座って待ってた。はやく車のライトが見えないかな。


外はもう暗くて、ちょっぴり寒いから、秋兄が隣に座ってくれた。あったかい。


「まだかなー」

「まだだな。ほら、ココア」


何かを持って外に出てきたと思っていたけど、その正体は冬瑚の大好きなホットココアだったみたい。


「マシュマロ入れていい?」

「そう言うと思って持ってきた」


秋兄はすごい。冬瑚の考えることは全部お見通しなんだ。この話を香苗ちゃんにしたら、「秋くんは冬ちゃんのことをちゃんと見てるってことだねぇ」って言ってた。いっつも見てるからわかるんだって。


「秋兄の優しさは夜みたいだね」


空よりも暗いココアの水面に、雲みたいに真っ白なマシュマロを入れると、じゅわ~っと溶けていく。


「夜?」

「うん。みんな夜は眠っちゃうから気付かないけど、空を見上げたらね、お月さまもお星さまも輝いてるんだよ」

「うー……ん。わからん」

「よーするに、冬瑚は秋兄が大好きってこと!」

「おわっ」


ココアを横に置いて、一緒に隣に座って待ってくれている秋兄をぎゅーってする。


「……あちぃな」

「あちくない。あったかいの」

「……………あちぃ」

「あちくない」

「あ、」

「あちくない」


夜の匂いが好き。秋兄の匂いも好き。マシュマロを入れた甘いココアが好き。誰かと一緒にいるのが大好き。


好きなものでいっぱいの生活。これが当たり前じゃないって、知ってる。


お兄ちゃんは2人いるけど、秋兄が一番歳が近い。だからかな。香苗ちゃんと夏兄には絶対に聞けないことも聞けるのは。


「冬瑚たちのお父さんってどんな人だった?」


夏兄がひどいことをされたってことは聞いたことがある。だから、夏兄には聞けない。冬瑚達のお父さんは香苗ちゃんのお兄ちゃんらしいけど、ずっと会ってなかったから、わかんないと思う。


お父さんについて一番わかっているのは、傍で見てきた秋兄だ。


「なんで知りたいんだ?」


怒ってる。冬瑚にじゃない。多分、お父さんに。


「知らないから」


夏兄にしてきたことの、ほんのちょっとだけなら聞いた。ほんのちょっとだけ聞いただけでも、泣きたいくらいにひどいことを夏兄にしてた。ひどい人。でも、それ以外にも、きっとなにか、あるはずだから。


「知らないから、知りたいって思うのは変なこと?」

「……自然なことだな。僕が冬瑚でも、多分同じことを思ってた」


秋兄ならそう言うと思ってた。香苗ちゃんと夏兄は冬瑚に優しすぎて、きっと真実を伝えてくれない。優しい嘘で隠すんだ。でも秋兄は優しいだけじゃないから。


「あの男……父さんと母さんが結婚したきっかけは、ピアニストだった母さんに一目ぼれした父さんがアプローチをし続けたんだって言ってた。で、結婚して、春彦が生まれた。春彦ってわかるか?」

「うん。一番上のお兄ちゃんだよね。昔に死んじゃった」

「そ。春彦は、絵がすんごい上手だったんだ」

「どれくらい?」

「絵を描く前から買いたいって言う人がいるくらいに」


よくわかんないけど、すごいってことはわかった。


「ちょうど父さんは美術品を売る会社を興そうとしてたから、春彦は金の卵だったんだ」

「きんのたまご」

「期待されてたってこと」

「ほへぇ」

「それで春彦は父さんに気に入られてたし、兄貴はピアノの才能があったから母さんに気に入られてた」


そのときのことを思い出したのか、寂しそうに目を細めた秋兄。


「ココア飲む?」

「ふ。大丈夫だよ」


よかった、笑ってくれた。


「親に気に入られても、2人はどこか寂しそうな顔をしてた。気に入られても、愛情は貰えなかったみたいで、僕らは時間さえあればいつも3人でいたんだ」


冬瑚の知らない、家族だった時の記憶。


「父さんは……仕事人間で、家にあんまりいなかった。子供に愛情は無かった。……そういえば、僕らの誕生日には毎年ケーキを買って来てくれてた。僕が初めて作った料理を食べたのも父さんだったな。塩を入れ過ぎて、しょっぱくて「まずい」って言ってたけど、全部残さず食べてた」


憎いって感情と、忘れていた記憶がせめぎ合って、苦しそうな顔をしている。


「あいつなりに子供たちを愛そうとしてくれていたのかもしれない。家族になろうとしてくれていたのかもしれない。春彦が死んでなかったら、今頃は……」


今頃は、お父さんとお母さんと、3人のお兄ちゃんと冬瑚の仲良し6人家族だったかもしれない。決して、言葉にはしないけれど、夏兄も秋兄も何度も思ったであろうこと。


遠くから、車のライトが見えた。窓から身を乗り出して、誰かが手を振っている。きっと夏兄だ。


家族は一度、粉々に壊れた。でも。


「秋兄が夏兄を繋ぎとめてくれたから、香苗ちゃんが見つけてくれた。夏兄がいたから、冬瑚を見つけてくれた。お母さんを助けてくれた。秋兄、ありがとう。冬瑚に家族をくれて、ありがとう」


香苗ちゃんと夏兄と秋兄とたまにお母さんと冬瑚。


この家族は絶対誰にも、壊させないから。

~執筆中BGM紹介~

FAIRY TAILより「この手伸ばして」歌手・作曲・編曲:Hi-Fi CAMP様 作詞:KIM様

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