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ベル



宝城さんから連絡があった数時間後には、俺たちは既に空の旅に出ていた。


飛行機……というか宝城さん家のプライベートジェットに乗りながら、自己紹介を始める。初対面が空の上ってのもどうかと思うが、当の本人たちは気にしていないようだ。


「えー。こちら宝城さん。色々あってこの人に曲をあげたことをきっかけに……今に至る」

「そんなの説明不足にもほどがあるよ、サニーボーイ。私と君の間には1日かけても話し足りないほどのできごとがあったというのに」


いやいや。10分で話し終わるような仲ですよ、俺たちは。


「え!?おま、こんな美人な人といったい何があったんだよ!?」

「なにもないよ。宝城さんの冗談だ。騙されるな」

「なんだ冗談か~」


胸を撫で下ろす鈴木を見て、向かいに座っていた宝城さんがくすりと笑う。


「君はサニーボーイと違ってからかい甲斐があるなぁ。可愛いね」

「ひぇ……」


同世代の女子から「可愛い」と言われるのと、色気だけは駄々洩れの年上女性から「可愛い」と言われるのとでは言葉の破壊力が違う。


同世代からの「可愛い」が猫じゃらし級だとすれば、今の「可愛い」はレールガン級だ。


「ふふ。怯えてしまう姿も可愛いね。ベル」

「ベ、ベル?」

「”鈴”木君だろ?だからベルだ。いいね?」

「ふぁい!」


おいおい。付き合いたての彼女がこんな光景を見たら往復ビンタじゃ済まないぞ。


俺の冷ややかな視線を感じ取ったのか、鈴木が謎の言い訳を始めた。


「これはあれ。条件反射的なやつでだな。反射的にふわふわそわそわしちまうんだ」

「彼女がいるんだからその面倒な癖は治さないとな」


失ってから後悔したんじゃ遅いからな。


「おや、ベルには彼女がいたのか。それは悪いことをしてしまったかな」

「そうですね。これを機にぜひ自重してください」

「それは私に息をするなと言っているようなものだよ、サニーボーイ」


異性を翻弄することと、息をすることがまさかの同義だったとは。世の中にはそういう人もいるんだなぁ、と思いながらプライベートジェットからの空の景色を見る。


空の旅は、いつ以来だろう。


ピアノのコンクールとかで飛行機に乗ったことはあっても、旅行で乗ったことはなかったと思う。


この空の景色を綺麗だと思うより先に、彩歌さんが好きな景色だろうなと考える。


そして、この景色を一緒に見たいって思う。


「まるで空を独り占めしてるみたいだな。これ、カンナにも見せたかったかも」


鈴木も同じことを考えていたようだ。それを聞いた宝城さんが、シャンパンを片手に語った。


「四六時中、相手のことを想ってドキドキするのが恋だとしたら、ふとした瞬間を共有したいと思うのが愛なのかもしれないね」


わかるような、わからないような。


「若いうちはたくさん恋愛をした方が良いっていう人もいるし、私もそう思う。けれどね、一生に一度の恋愛をするのもまた、尊いことだと思うのさ。ま、私は恋多き女だからね。ーー」


喋り出した宝城さんの相手は鈴木に任せて、ぼーっと空を眺める。


宝城さんから海外に行った話を聞いたとき、パスポートを更新しておいてよかった。こうなると予想していたわけじゃないけれど……。


なんとなく、呼ばれた気がしたというか。


それはカッコよく言い過ぎか。でも本当に、そんな気がしたんだ。

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