血の海
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「カフェの人たちに聞いてきたけど、それらしい人はいなかったし、知ってる人もいなかったよー。ってあれ?なになにどうしたの?」
コミュ力の塊である香織が聞き込みを終えて展望デッキに戻ってきた。が、現場はまさに膠着状態。「養子にください」発言の後、かずまの半径3メートル以内に小鳥遊さんが近づかないように一進一退の攻防を繰り広げていた。ちなみに田中は横で動画を取って笑っている。そのスマホ、二つに折ってガラケーみたいにしてやろうか。
「ぶふっ、実は小鳥遊ちゃんが変態的な子供好きで、それを知ったしばちゃんがかずまを抱いて距離を取ってる」
完全に他人事だと思って。恨みがましい目で田中を睨む、が当の本人は気にも留めていないようだ。カンナの親衛隊みたいに目からビーム出ればよかったんだけどな。
「へぇー」
「あれ?興味ない感じ?」
「今一番興味を持ったのがこの子の名前がかずま君ってとこかな。田中君はまずスマホをしまいなさい。ここなちゃんはその場から一歩も動いちゃダメだからね」
「はーい」
「・・・はい」
あの場を一瞬でおさめるだなんて、もしや彼女が神か。こちらに向かって歩いてくる姿に後光が見える。ありがたや~。
香織は俺が抱いているかずまに目の高さを合わせると、優しい声音で尋ねた。
「かずま君、一緒に来てたお兄ちゃんの名前、言えるかな?」
「お兄ちゃんはね、そうまっていうんだよ!」
「そっかー。そうまお兄ちゃんとは歩いてきたの?」
「違うよ!お兄ちゃんが運転して連れてきてくれたんだ!」
「なるほどねー」
流れるように情報を聞き出していく香織。
「つまり私たちが探さないといけないお兄さんは大学生、もしくは社会人ってことだね」
「お兄ちゃんは大学生だよ!あと、抱っこはもういいや」
「あ、はい」
ショックを受けながらかずまを地面に下ろす。「もういいや」って言われた・・・。
かずまが地面に降りて真っ先に向かったのは香織の足元。そして腰にギュッと抱き着いた。
「お姉ちゃん綺麗だね!お名前教えてよ!」
と変声期を迎えていない高い声で、きゅるるんとした大きな瞳で香織を見上げながらナンパしだした。こっこのガキ~!!この歳でもうナンパとかしちゃうの!?お父さんかずまの将来が心配!
「親離れが早かったな。残念、お父さん」
ポン、と肩に手を置かれて田中に慰められる。もはやなぜ心の内が読めるのかというツッコミはしない。
「私の名前は香織だよ!」
「香織お姉ちゃん!手を繋いでいい?」
「いいよー!」
俺なんてずっと抱っこしてたのに名前なんて聞かれなかったし。「弟ができたみたいで嬉しい~」と喜んでいる香織に見せてあげたい。あのガキの勝ち誇った笑みを。急に可愛さなくなったんだけど。可愛さ余って憎たらしさ百倍なんだけど。
「・・・私もここなお姉ちゃんって呼んで?」
飼い主の待てを破ってじりじりとにじり寄っていた小鳥遊さんもお姉ちゃん呼びされたいようで、必死の形相である。
かずまはまず小鳥遊さんの顔を見て、そして数秒考えたのちに香織の陰からひょっこり顔を出して言った。
「ここなお姉ちゃん?」
「ぐふぁっ!!」
あざとい。自分がどうしたら可愛く見えるのかが理解している。だが、判断基準は顔か、顔なのか。
というか、念願のお姉ちゃん呼びを頂戴した小鳥遊さんは鼻血を出して倒れてしまったのだが。仕方ないので持っていたポケットティッシュを差し出す。
「・・・ありがとう」
と言ってポケットティッシュを受け取ると、垂れ流し状態の鼻にティッシュを詰め込む。そして何を思ったのか俺の顔をじっと見つめだした。
「・・・あ、落ち着いてきた」
「なんかよくわからんけど腹立つな」
言葉通り鼻血も止まっているようだ。どこまで子供好きの変態なんだ。
「・・・自分より身長が低い子供を見ると、こ、興奮しちゃって」
「あーだから昨日のプールも来なかったのか」
「・・・はい」
ドン引きである。昨日のプールには子供たちもたくさん遊んでいた。そんな楽園にこの変態が足を踏み入れたら、(鼻)血の海を見ることになる。
「かーずまーどこだー?かーずーまー」
ふいに向こうからかずまを探す声が聞こえた。声が聞こえたのかかずまもキョロキョロとあたりを見渡しているが、身長が低いので遠くまでは見えない。仕方ない、最後にお父さん、いや、お兄ちゃんしますか。
「かずま、俺は智夏だ」
と言ってかずまの小さな体を持ち上げ、肩車をする。
「ほら、これでそうまお兄ちゃん見つけやすいだろ?」
「うん!あっお兄ちゃーん!!」
探し人を見つけたらしく、ぶんぶんと手を振っている。
「和馬!ったくどこ行ってたんだよーって、あ!昨日の可愛い子ちゃん!」
「「げ」」
人ごみをかき分けて現れたのは、昨日プールで香織をナンパしたクソ野郎の片割れ。
「そんなに警戒しないでよー。今日はナンパ目的で来たわけじゃないし?でも、昨日のイケメン君いないみたいだし、ナンパしちゃおうかな?」
イケメン君?そんな奴がいたのか。というかよく弟の前でナンパしようとするよな。だから弟もこの歳でナンパしちゃうんだよ。兄貴が弟に悪影響与えてんなよ、けっ。
「智夏君」
香織が俺の名を呼びながら手招きしているので和馬を肩車しながら香織の元へ行く。するとおもむろに眼鏡を外され、前髪を手でグイっと上げられた。そして目の前にはナンパ野郎が。
「お前かよー!!」
「お前にお前呼ばわりされたくねぇ。つーか人のこと指さすな」
「つーか弟返せよ!いつまで肩車してんだ!」
「お兄ちゃん」
可愛い声をしていたはずの和馬が絶対零度の声で兄を呼ぶ。
「そんなことで女の子を口説けると思ったら大間違いだよ。前世から出直して来たら?」
和馬が吐き捨てるように言った言葉にナンパ野郎こと、颯馬お兄ちゃんは膝から崩れ落ちるのだった。
お騒がせ兄弟が迷惑料にとカフェでパンケーキをご馳走してくれた。提案したのは弟で、支払いは勿論兄である。
「またね!智夏お兄ちゃん!」
と去り際に和馬が言った一言に胸打たれた。田中だけ名前を呼ばれなかったことにいじけていた。
そして、3泊4日の修学旅行は幕を閉じるのだった。
そうまお兄ちゃんは香織の肩を掴んでない方のナンパ野郎です。「なんか冷めたわー」というセリフを言っていた方です。
~第22回執筆中BGM紹介~
Re:ゼロから始める異世界生活より「Memento」歌手:nonoc様 作詞:hotaru様 作曲:Tom-H@ck様
今回は読者様からのおススメ曲でした!




