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魔法をかける



魔法使いだからエレナが何を言っているのかわかったけれど、カンナの気持ちまではわからない。果たして告白の返事はOKしたのだろうか。


普段ならエレナの回収なんて面倒くさいイベントは他の人に押し付けるのだが、こうやって柄にもなくやって来たのは……言ってしまえば他人の恋路が気になったから。こういうのを馬に蹴られると言うのだろうか。


「ほら、口の端に付いてるわ」

「ごくん。ありがとカンナ」

「今日の劇、楽しみにしてる」

「ふふ、頑張るわ」


咲き誇る2輪の麗しき花。


口にお菓子のクズを付けていても絵に……はならないな。カンナがお姉さんムーブしているくらいにはエレナがお子様なので、これを見て絵になるなぁとは思わない。少なくとも俺は。


そしてそれはB組のクラスメイトや田中や井村も同じらしい。廊下を歩いていた他クラスの男子達はぽわわーんとした目で2人を見ていたけれど。


「エレナー、帰るぞー」


そろそろ時間もないから早くエレナを回収して体育館に向かわないと。


「あら?そこのフードを被っている陰気な人は智夏だったのね」

「陰気は余計だよ」


魔法使いの衣装は顔が隠れるほどの大きなフードを被っているので、声を出さなければ中身が誰かわからない格好だ。


カンナは椅子から立ち上がると廊下に立っていた俺の方へ向かってきた。


「これずっと被ってるの?……なッ」


俺の見えなかった顔を覗いてきたカンナが、変な声を出して止まった。


「うそ、切ったの?」

「あぁ。切った」

「そっか。前よりも似合ってるけど、少し残念」

「残念かしら?さっぱりしてていいと思うけど」


ゆっくりと歩いてきたエレナもフードの下を覗き込んだ。お前はさっき見ただろうが。


「この綺麗な瞳を私以外にも知られちゃうかと思ったらね」


なにやら感慨深い様子だったので、「カンナ以外にもわりと知られてるぞ」とは言わないでおく。


「私もチーちゃんの瞳、知ってもがぁ!?」


エレナの余計なことを言う口に、エレナの捕獲用に持っていたお菓子を突っ込んで連行する。


「エレナが世話になったみたいで悪かった。じゃあな!」

「頑張ってね」

「おう」


何かを食べているときは大人しいエレナを引きずって体育館まで向かうのだった。







B組が浦島太郎であるとするならば、俺たちA組はシンデレラがストーリーの基となっている。


「”さぁ働け義弟(おとうと)よ!お前のような素性の知れないガキを育ててやったんだ。その恩を忘れるなよ!”」

「”俺を拾ったのは性根までぐずぐずに腐ったお義兄様(にいさま)ではなく、去年亡くなってしまった人格者のお義父様(とうさま)です!”」

「”マジで生意気な義弟だよ!”」


まず主人公シンディが鋼メンタル(しかも実はどこぞの王子様)。義兄にいじめられるも、それを意にも介さず跳ね返す強さを持っている。そんな日常を送っていたある日、シンディの前に現れるのが魔法使いなのだ。ちなみにカボチャの馬車は出さない。RPGゲームの魔法使いの立ち位置だ。


ライトが消えて、ステージの中央に走る。緊張は、ない。


ライトが点いて、ステージの上の俺とシンディ役のエレナが灯される。箒を片手に胡坐をかいていたシンディに手を差し伸べる。


「”君には勇者の素質がある。僕と一緒に魔物退治の旅に出よう”」

「”そんな面倒くさそうなことはごめんだね。第一、なんで素性も知らないやつと一緒に旅に出なきゃいけないんだ”」

「”……めんどくさいやつ。そういう運命なんだからしょうがないだろ。ほら行くぞ”」


片手に持っていたピアニカで、この劇のために作った曲のワンフレーズを吹いて魔法をかける。


観客の反応は上々。笑いや歓声がここまで聞こえてくる。


「”な!?体が勝手に動いてる!?”」

「”こうして、主人公の魔物退治の旅に魔法使いが加わったのです”」


ナレーションが入り、ライトが消える。


大道具係が急いで場面転換に入る。とりあえず最初の魔法使いの出番は終えた。次は姫のターンだ。

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