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どっちが大事

智夏視点に戻ります。



新曲の『Start』にせよ、他の曲にせよ、初めて披露する時は毎回緊張してしまう。自分では最高の曲だと思って作り出したとしても、世間がそれをどう評価するのかは出してみないとわからない。


だから体育館に集まった観客たちからどんな反応が返ってくるのか、緊張しながら演奏していたのだが。


……どうやら杞憂だったらしい。


「ヒストグラマー最高ー!」

「『Start』超良かったー!」

「結婚してくれー!」

「ひーちゃーん!」

「西原先輩こっち見てー!」

「すみれ先輩ウィンクちょーだーい!」

「カッコよかったね虎子!」

「しばちゃんは俺の嫁!」


演奏しながらでも、客席の盛り上がりは見えていたし、歓声もバッチリ聞こえていた。演奏後の、今も鳴りやまない掛け声が俺たちの演奏がどんなものだったかを教えてくれる。……若干変な歓声も混ざってはいるけれど。誰が嫁だコラ。






大盛況に終わった学校祭でのゲリラライブは、アンコールに桜宮高校の校歌を歌うというなんともOG・OBらしい選曲で幕を閉じた。


いまは俺たちが外に出ると観客たちと鉢合わせになって揉みくちゃにされるので、音楽室に一時避難をしていた。


「まさか校歌であんなに盛り上がるとは思わなかったわ」


アンコール曲では校歌を歌いたいという陽菜乃先輩の熱望により、校歌をバンドバージョンで即興アレンジをして陽菜乃先輩が気持ちよさそうに校歌をアレンジを入れながら熱唱。最終的には体育館に来ていた桜宮高校の生徒全員が肩を組んで校歌を大合唱するという、卒業式のような風景になっていた。


これは桜宮高校の生徒しか楽しめてないだろうなと思ったら、彩歌さんもエレナと肩を組んで右に左に揺れていたので楽しんでもらえてはいたようだ。終始陽菜乃先輩しか見ていなかったように見えたのだが、きっと気のせいだろう。


「天馬先輩、質問なんですけど」

「なんだ?智夏から質問されるって珍しいな。銀行口座の暗証番号でも答えるぞ」

「銀行口座の暗証番号なんて知ってどうするんですか。いらないですよ」

「おま、めっちゃいい奴……」


天馬先輩は高校を卒業してから涙腺が弱くなったような。きっと苦労してるんだろうな。


カスタネットを叩きながら泣いているこの人に質問をするのは間違っているのかもしれないが、いまは他にまともそうな人が見当たらない。


「好きな人と最推しって、どっちが大切なんでしょうか!」


彩歌さんがひーちゃんこと陽菜乃先輩の大ファンで、最推しを公言している。同じグループには彼氏の俺がいるのにですよ。彼氏としてなんだか複雑というか、ライブで見向きもされてなかったのはわりと本気でショックというか。


「あぁ?好きな人と最推し?そりゃ好きな人じゃね?」


あっさりと言い切った天馬先輩。その返答に一瞬安堵したが、それに否を唱えてきたのは聞き耳を立てていたすみれ先輩だった。


「何言ってんのよ!そんなの最推しが大切に決まってるじゃない!」

「え?それ彼氏の前で言っちゃう?好きな人の前で言っちゃうの?」

「うん。天馬はもちろん好きだよ。でも、最推しはもう神だから。人間と比べちゃダメなの」

「なるほどわからん」

「つまり、私と仕事どっちが大事なの?論争と同じよ。決着がつくことは永遠にないわ」


そこまで深刻な話では……。


「いいえ。決着はつくわ」

「陽菜乃先輩」


乱れた髪をザキさんに整えてもらっていた陽菜乃先輩まで参戦してきた。ちなみに虎子は彼氏と電話中である。


「例えばすみれの好きな人が天馬で」

「例えじゃなくて本当に好きな人だけどな」

「うるさいわね」

「すません」


律儀にツッコんで一刀両断された天馬先輩に誰か優しさをプレゼントしてあげてくれ!


「すみれの最推しが私だとする。天馬はすみれの最推しである私に複雑な感情を抱いている」

「まぁそうだな。俺より陽菜乃の方が大事とか言われちまったし」


それが今の俺の心理状態なわけですね。最推しの方が大切!とは言われてはないけど。


解決策とはいったいどんな……。


「それなら、解決策は一つだけ。天馬も一緒に私を最推しにすればいいのよ!」

「なるほどね!同じ最推しなら血で血を洗う抗争にならずに済むわね!」

「解決策が見つからなかったとしても血で血を洗うことにはならなかったと思いますけど!?」

「……冗談だよ」


その間が怖い。


つまりだ。今の話を真に受けるなら、俺の最推しが陽菜乃先輩になれば問題ないということになる。


「これは、後輩君の求めていた答えになったかな?」


ドヤ顔でドヤるドヤ乃先輩……。


「うーん……。無理ですね」


陽菜乃先輩が最推しとか俺には天地がひっくり返っても無理だ。歌声とか、実力で見れば彩歌さんが陽菜乃先輩を最推しにするのもわかるが、俺はこの人の性格を知ってしまっているからな。


「うん。冷静に考えても無理です」

「なんかフラれた気分!」


こういう勘が鋭いところも恐ろしい。そう思ったのは俺だけじゃないらしく、天馬先輩とすみれ先輩も拒否反応を示していた。


「陽菜乃が最推しとか、例え話でも嫌だ」

「だよね」

「黙らっしゃいこのバカップル!」


ヒストグラマーのひーちゃんを推してくれている人たちには、この残念な性格を隠さないとな。


「そんなんじゃファンが減っちゃいますよ」

「後輩君までひどい!こうなったら100円玉が全部1円玉に見える呪いをかけてやる~!」

「地味だけど嫌すぎる」


やいやいと騒ぎながら、文化祭1日目を終えた。


そして迎えた学校祭の最終日。文化祭2日目。


いよいよ始まる、俺たちのクラス劇が――!

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