1年
次回419話は2022/10/09に投稿予定でしたが、作者都合により2022/10/11に延期いたします。申し訳ございません。
B組の『シン・竹取物語』が閉幕し、他3クラスの劇も終わった。
「どのクラスも見ごたえあったな~」
「そうだな」
「でもやっぱりB組がその中でも断トツだな」
「脚本や演技もすごかったけど、大道具もすごかったな」
「衣装もかなり凝ってたわ」
文化祭のメインは3年生の劇であるが、それは午前中で終わる。午後からはフリータイム。1年生はクラス対抗で出店を出し、その売上の合計で競い合う。2年生は教室で迷路やお化け屋敷などのアトラクションを作り、集客数で競い合う。
つまり午後からは3年生は暇なのだ。去年は午後のフリータイムで初めて『ヒストグラマー』として人前で演奏したっけ。あのときはちょっとしたトラブルがあって予定に無かった曲も演奏したんだよなぁ。失敗しなくて本当に良かった。
あれからもう1年たったのか……。
「、、ば!御子柴!」
「……ごめん。なに?」
「だから、今年は演奏しないのか?って」
「しないよ。一応先輩たちに聞いてみたけど、みんな忙しいみたいだった」
そうなのだ。ヒストグラマーで高校生なのは俺を含めて2人だけ。他3人は全員大学生や専門学生なので、かなり忙しいみたいだ。祭りと聞けば血が騒ぐような人たちだが、どうにも来れなかったらしい。
「じゃあ2年生のドラムの子とセッションすりゃいいじゃんか」
「虎子のことか?クラスの出し物が忙しいって言ってたような」
「しばちゃんはフラれたんだな」
「「「どんまい」」」
そんな憐れな奴を見る目で俺を見るな!
「そんな寂しいしばちゃんに朗報だ」
「寂しくないから。田中がいるし」
「トゥンク……、ってなるか気持ち悪い」
うん、ごめん。自分で言ってて気持ち悪かった。
「朗報って?」
「忙しい先輩方が来たってよ」
田中が自分のスマホの画面を俺に見せてきた。そこに写っていたのは陽菜乃先輩、ザキさん、天馬先輩、すみれ先輩の4人。ザキさん以外、ヒストグラマーの先輩たちだ。
忙しいと言ってたはずの先輩たちがなぜここに?
……まさか。
「そっくりさん?」
「「「ちがーう!!!」」」
「うわっ!?」
右から左から後ろから。
馴染みのある声たちに総ツッコミされた。信じられないような気持ちで振り返ると、そこにはさっき見た写真に写っていた4人がいた。
ヒストグラマーの新曲の練習で2週間前に会ったばかりだが、まさかこのメンバーと学校で会うことになるとは思ってもみなかった。
「いや~懐かしいな体育館!」
「ここでライブしたのが1年も前なんてね~!」
体育館に卒業以来、久しぶりに入って興奮している天馬先輩とすみれ先輩。
「後輩君、いま暇よね」
「え」
「暇だよね」
「え」
怖い怖い怖い。陽菜乃先輩の拒否を許さない問いが怖すぎる。
「あー、これからみんなで出店とか周るんで、」
「そうなの?」
「いえ全然!御子柴はいつでも貸出し可能です!」
上手い言い訳を見つけたと思ったが、見事に田中たちが俺を売った。陽菜乃先輩に逆らえないきもちはわかるけど。覇王のオーラ的な、すんごいのが出てるんだよな。
「じゃ、行くわよ」
「いーやーだー!」
「諦めてくださいね」
「ザキさんの裏切り者ー!」
静かに後ろに控えていたザキさんが音もたてずに俺の襟首を掴み、どこかへ引きずっていく。
最後の望みをかけて田中たちを見るが、二コリといい笑顔で見送られた。くそぅ。
せめてもの抵抗として歩かずにずっと引きずられていたのだが、ザキさんの歩くスピードは一定のままだった。意外と筋肉があるんだな。今度筋トレ方法を聞いてみようかな。
「パイセン、遅かったね~」
「虎子が先にいるってことは、俺以外みんなグルってことですか?」
体育館奥、ステージ脇にはドラムセットを用意する虎子がいた。天馬先輩たちはケースからギターを出しているし、スタンドマイクももちろん用意されている。
「違うと思いますが、一応聞きますね。まさか『ヒストグラマー』でライブをやるんですか?」
「ハイそうです!」
元気が良くてよろしい。……って騙されないからな!
「俺だけ何も聞かされてなーーーーーい!!!」
なーい。なーい。なーい……
なんて日だよ!




