スカート
桜宮高校の学校祭は3日間連続で行われ、その内訳は初日が体育祭、残る2日が文化祭である。
今日は中日の2日目。文化祭の初日……の早朝。俺たちのクラスの劇は明日本番のため、2日目の文化祭が始まる前にリハーサルをすることになっていた。だからこうして早い時間に教室に集まって実際に本番で使う衣装をえっちらおっちらと着ていた、のだが。
「しばちゃん、気持ちは誰にも負けてなかったぞ」
「そうだよ!気持ちだけなら断トツ一位だったさ!」
「御子柴がわざとやったんじゃないっていうのは、みんなわかってるから」
なぜ、みんなから温かい言葉をかけられながら着替えているのか。それは昨日の体育祭での失態のせいだ。もう思い出したくもないのだが。
「しょうがなかったんだ。ブフッ、リレーの途中でバトンパスがうまくいかなかったことも」
「しばちゃんの手から飛んでいったバトンが、ククッ、宙を舞ったことも」
「宙を舞ったバトンが、ブハハッ、OG会の会長のズラを吹っ飛ばしたことも」
「「「しょうがなかったんだ」」」
田中と鈴木と井村が仲良く口を揃えていじってきて、忘れさせてくれそうにもない。
「おーい、本当に大変だったんだからやめてくれよ」
OG会の会長のズラを吹っ飛ばした後、スライディング土下座をしながらバトンを取りに行き、なんとかコースに戻ったが、結果は最下位。
走り終わった後に呼び出しをくらうし、怒られるかと思ったらOG会の会長本人が一番笑っていたし、許してもらえるのかと思ったら「明後日の文化祭で君の活躍を楽しみにしているよ」とプレッシャーをかけられるしで散々な目にあった。……いや、一番散々な目に遭ったのはズラを吹っ飛ばされたOG会の会長のおじいさんだけど。
「チーちゃんだけが悪いというより、バトンを渡したもとやんにも非があるんじゃない?」
「「「キャー!?」」」
「何よ。ちょっと忘れ物を取りに来ただけじゃない」
男子の着替え中にぬるりと侵入し堂々と意見するエレナに、着替え途中だった男子たちが悲鳴を上げてあれやこれやを持っていた衣装や手で隠す。……風呂じゃないから下着を脱いでいる奴がいなかったのが不幸中の幸いか。
「なんで女子の着替えを覗いたら俺たちは死を迎えるのに、男子の着替えに女子が乱入してもなにも起きないんだろうな」
エレナを教室から追い出した後に、鈴木が女子に聞かれたら怒られそうな発言をのたまった。
「なんでってそりゃ……、なんでだろうな?」
「たしかにな。女子はズボンを履くのに男子はスカートを履けないのと同じだ」
「お前スカート履きたいのかよ」
「履いてみたい」
「マジかよ」
井村の衝撃のカミングアウト……衝撃でもないか。こいつは度々こういうことを言う奴だったそういえば。鈴木の影に隠れていたが、井村もなかなかにヤバい奴だったりする。
「スカートなんてスース―するだ、け……」
あ。
「え、御子柴お前まさか」
「スカートを履いたことが」
「スカートっていうかワンピースだよな?」
「田中が見たことあるってことは本当に女装したことがあるんだな!」
「写真見せろ!」
「田中、見せたら呪う」
「こえぇ」
田中のスマホの中の写真をめぐって見にくい争いを繰り広げていたとき。
「ちょっと男子!着替えにどんだけ時間かかってんの!早く体育館集合!」
「「「ごめんなさい!!!」」」
女子に叱られて、駆け足で体育館に向かう男子達。
「やっぱ女子に引っ張ってもらうのが世界の正しい周り方だと思う」
誰が呟いたか、ぼそっと聞こえた一言に異議を唱えた男子は一人もいなかった。
色々と微調整をしつつ、リハーサルを終えた。
そして迎える文化祭の初日。




