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3段落ち



朝から色々あったが、彩歌さんを補充できたのは僥倖だった。そのおかげか、恙なくリハーサルが終わり、あとは本番を待つだけに。


「チーちゃーーん!」


ライブ会場の前……の端っこに、人通りが少ないながらも人目を引く女性が3人。そのうちの一人、プラチナブロンドの髪をツインテールにした北欧系の顔立ちの少女が冴えない眼鏡男に向かって手を振っている。


その冴えない男っていうのは、言わずもがな俺のことである。


美しい女性3人に目を奪われていた男どもが一斉に俺を見る。なんであんな冴えねぇヤツが……という男どもの心の声が聞こえてくるようだ。


カンナと香織は、横で小さく手を振ってくれていた。


「チーちゃん遅いわよ!」

「待ちくたびれた」

「忙しいのにごめんね」


三者三葉の第一声。


「香織の優しさを少しは見習ってください」


香織以外は優しさの欠片もなかったぞ。


「私たちに優しさを求めるのは間違っているわ。ねー?」

「ねー!」

「確かに……!」


カンナ自身の言ったことに思わず納得してしまった。エレナとカンナ……名前も似ているし俺への辛辣具合もなかなかに似通っている。


「あれ?そういえば3人って仲良かったっけ?」


学校では一緒にいるイメージがあんまりなかったけど。


「共通の友達がいたからね。仲良くなるのも一瞬だったわ」


あぁ、香織が仲介役になったのか。それならこれだけ仲良くなっているのにも頷ける。


誰とでも仲良くできる人間なんてこの世にはいないと思っていたが、そんな存在に限りなく近いのが香織だろう。誰かと喧嘩している場面どころか、気まずくなっている場面すら見たことがない。


しかし仲は良くても、全員が友達ってわけではないようだ。本当に心を許している相手はごくごく限られている、とこれまでの付き合いでわかってきた。だからわかる。香織はこの2人に本当に心を許しているのだと。この屈託ない笑顔がその証拠である。


良かった良かった、と孫を見るような気持ちでいたら、カンナが持っていたペンライトで俺を指した。


「なーんで香織を見てそんなにニコニコしてるわけ?」

「は?」

「なっ」


カンナがいきなり変なことを言いだすから、あのコミュニケーション能力1級の香織が言葉に詰まって困ってるじゃないか。


「ニコニコしてたか?」

「気持ち悪いくらいにね」


エレナさんひどくない?そろそろ泣くよ?人目もはばからずに泣いちゃうよ?スーパーのお菓子売り場でギャン泣きしている子くらい泣くからな?


「香織に……っていうか、カンナもエレナも、友達が増えて良かったなーって」


自分で言っていて恥ずかしくなってきた。親でもあるまいし、何を考えてんだ俺は。


「じゃ、俺は戻るから。ライブ楽しんで……おわっ」


女子3人が集まっているというのに俺の発言により静まり返ってしまったので、早々に退散しようとしたのだが、3方向から羽交い絞めにされた。いや、羽交い絞めっていうか、これはハグってやつでは……。


「私よりチーちゃんの方が友達少ないくせに」

「うぐっ」

「そうよ。私たちより自分の心配をした方がいいわ」

「ぐはっ」

「でも、そうやって自分のことみたいに喜んでくれる智夏君のことがみんな、好きなんだよ」


普通の男なら、こんな美女3人に同時に抱き着かれて、ヒャッハーするところなんだろうが。


生憎と俺は普通の男ではなかったらしい。なんせ俺の思考に、異性へのトキメキはなく、あったのは……


こ、これがいわゆる3段落ちってやつかー!


という謎の感動だった。エレナとカンナの辛辣コンビによる正論パンチの後に、香織の優しさが染み渡る……。


「ありがと、みんな。おかげで元気もらった!」


ハグをしてくれたのは一瞬だったが、いっぱいの元気を貰えた。


「ふふん、当たり前よ」

「美女3人分のハグだからね」

「ライブ、頑張ってね!」


友人たちからエールをもらい、ライブに向けて気合を入れるのだった。

~執筆中BGM紹介~

「夏に閉じ込めて」歌手:Poppin'Party様 作詞:中村航様 作曲・編曲:都丸椋太(Elements Garden)様

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