デス・ロード
ここ最近は感謝コーナーだったのでいい調子かと思いきや、また投稿時間が遅れまくりました。すみませんでしたぁぁ!!
「それじゃあ行くわよ!」
クールキャラが剥がれかかっているカンナの背中を追いかけながら、香織の横に並ぶ。
「小鳥遊さん、どうだった?」
小鳥遊さん、とは同じクラスの女子の名前である。明日の班別行動は、俺、田中、香織、そして小鳥遊さんの4人である。だから今日は4人中3人も一緒にいるのに小鳥遊さんだけ誘わないのはどうかと思い、香織が声をかけてくれたのだが。
「うーん、ダメだった。プールは苦手みたいで」
「そっかー」
「小鳥遊ちゃんっていっつも一人だよなー」
「おい田中」
頭の後ろで腕を組みながら田中がさらに言葉を重ねる。
「だってー、班決めの時だってさー、男子は二人ずつですぐペア作ったけどさー」
俺としばちゃんは運命のように惹かれあったよな!とかウィンクしてくる田中がうざいことこの上ないが、まぁ話し合うまでもなく決まったことは事実なので何も言わないでおく。決してツッコミが面倒になったとか、そういうことではない。と、言い訳はしておく。
「女子から引く手あまただった香織ちゃんとは対照的に小鳥遊ちゃんはポツンとしてただろ?いっつも一人だし、寂しくないのかねー?」
「私も一人だけれど、寂しくはないわ」
「いや、カンナちゃんのは孤高の方な。というか周りにいっぱいいるからね」
そう、いっぱいいるのだ。親衛隊の人たちが。流れるプールの水面から、建物の陰から、ウォータースライダーから目を光らせている。……あれ?結構親衛隊の人たちも楽しんでる?。まぁ、いいことだけども。
「1人が平気な人ってことかねー」
ポツリと呟いた田中の言葉が頭の中を反芻する。1人でも平気な人って本当にいるのだろうか。
少なくとも俺は、秋人がいなかったら壊れていたかもしれない。兄が死んで、母が家を出て、父と2人だったら、俺はきっと今この場にはいなかっただろう。
「いやぁぁぁぁああああ!!!」
「きょぇぇぇぇええええ!!!」
「しにゅぅぅぅぅううう!!!」
絶叫というか、断末魔が聞こえる。プールでこんな命を削るように叫び声を聞くなんておかしいのでは?と今更ながらに気付いたが、時すでに遅し。
「楽しみね!香織さん!」
「え、カンナちゃん、私無理かもしれませぬ。コレ私の思ってたウォータースライダー違う」
「右に同じく」
俺たちがいるのは、とあるウォータースライダーの目の前。
「ねぇカンナちゃん。なんでこのスライダーは一回転しているの?」
「それはね、ウォータースライダーだからよ」
「ジェットコースターならともかく、安全装置もへったくれもないあのボートみたいなのに乗って一回転なんてできないよ!落ちちゃうよ!」
「大丈夫よ、ほら。遠心力的な何かが作用して落ちないから」
カンナが指さしたのは今まさに一回転しているボードに乗った人たち。どうやら本当に一回転するわけではなく、左右に激しく振られながら落ちていくようだ。うぇぇ行きたくねぇええ!
「智夏、さっさとそのメガネ外しなさい」
「えっと、やっぱり俺、見てるだけで充分というか、お腹いっぱいというか」
「……コレは最低4人からしか乗れないのよ。智夏が来ないなら諦めるしか、」
グサグサッと親衛隊の視線の矢が一斉に俺に刺さる。振り返らなくてもわかる。『なにカンナ様に悲しい顔させてんだよ!塵にされてぇのか!!』って思ってる、絶対思ってるよ。怖いわ!
「いや、やっぱり乗りたくなってきたなぁ!うん、せっかくここまで来たんだし、乗らなきゃ人生半分損するよな!」
はははっと無理やり乾いた笑い声をあげると、カンナの顔が晴れる。
「そう?それなら行きましょう?」
今にもスキップしだしそうな勢いでカンナが地獄に向かっていく。覚悟を決めて、眼鏡を外して、上に来ていたパーカーのポケットに入れておく。
「はーい、それじゃあこの丸いボートの持ち手にそれぞれ掴まってくださーい」
係員の人に言われ、丸いボートに4人で座って、ふちにある持ち手につかまる。せめて車みたいにベルトが欲しい!己の両手に命が掛かってるとか、怖すぎて震えるわ!という俺の心の叫びなどは無視して、ボートは進みだす。目の前には香織、右には田中、左にはカンナがいる。
田中とカンナはウキウキ顔、香織と、多分俺は真っ青だろう。
「それでは、デス・ロードへ行ってらっしゃーい!」
え、デス・ロードって何!?映画のサブタイトル!?それ、ウォータースライダーにつける名前じゃないよね!?
最初はトンネルのような所を滑り落ちていくだけなので、余裕かと思った、のだが。
「速い速い速いっ!」
「キャー!たーのしー!」
「いぇーーー!」
上から順に、半べその香織、クールキャラをどこかに忘れてきたカンナ、いきいきした顔の田中である。ちなみに俺は声が出ない。口開けたら多分心臓まろび出る。
「光が見えてきたぞ!」
「いやぁぁ!!」
光が見えてきたということは、つまり、外で見た一回転しているスライダー部分に出るということ。心臓がぁぁ。と思った瞬間、目に光が刺さり反射的に目をつむる。そして開いたらそこは、空中でした。いや、空中というか、感覚的にはブランコを最高到達点までこいだ時のような、あんな感じを繰り返しているようなぁぁぁあああああ!!!
「ひゃあああああああ!!」
「サイッコー―――ー!!」
「うぇええええええい!!」
地獄のデス・ロードが終わり、プールに放り出される。早く、早く地面に行きたい……
「次はアレに乗るわよ!」
「おー!」
うぁぁ揺れていない地面だー。生き返るー。
「生き返るー」
「固い大地が愛おしい」
「同感であります」
しばらく死んだように地面に寝転がっていると、ふと声が少ないことに気付く。
「あれ?カンナと田中は?」
「ありゃ?いないね?」
プールサイドで二人っきり。このシチュエーションは男女のあれこれが芽生えるアレでは?いや、ないな。
「あそこのベンチで休憩しようよ」
「賛成」
よろよろと歩きながら、近くのベンチに座る。……気まずい。前にも香織とベンチで話をしたが、その時は話の話題があったから問題はなかったが、今回はどうする!?どうしたらいい!?
「叫びすぎて喉が痛いよ……」
と言って香織がぐったりしている。
「何か飲み物買ってくるよ。ここで待ってて」
「いや、悪いよ」
「いいから、いいから」
財布を取りに更衣室に向かう。割と近くにあるので、走ればすぐだろう。
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止める間もなく、走って智夏君が行ってしまった。追いかけたいが、足が震えて追いかけられそうにない。
ふーっと息を吐き、顔を手で覆う。
「智夏君カッコよすぎ!!無理!尊い!!」
このウォータスライダーは怖すぎてもう乗りたくないけど、智夏君のメガネ外した姿がまた見れるなら、何百回でも乗ります!乗らせていただきます!
「キミ今ひとりぃ?」
「オレらと一緒に遊ばなぁい?」
げっ。いかにもチャラそうな男2人組に話しかけられてしまった。
「いえ、連れがいるので」
相手は大学生くらいだろうか。大柄な男2人に見下ろされて、かなり怖い。が、そんなものを表情に出そうものなら調子に乗ること間違いなし(過去の経験から分析)なので、毅然とした態度をとる。理想はカンナちゃんくらいクールにあしらわないと。
「では、これで」
ベンチから立とうとすると、両肩を押さえられ、ベンチに座らされる。
「まぁまぁそんなこと言わずにさ!」
「触らないでください!」
パシッと手を振り払う。怖い怖い、誰か助けて。周りの人は見て見ぬふり。絶望しかけたそのとき。
「俺の連れに何か用ですか?」
「智夏君!!」
息を切らしながらやってきてくれた。そのまま男たちを押しのけて、私を背にかばってくれる。思わず彼のパーカーを掴んでしまう。自分でもびっくりするくらい手が震えている。やばい、安心したら涙出てきそう。
「ちっ!顔が良いからって調子に乗んなよクソが!」
「なんか冷めたわー」
しばらく睨みあっていたが、先に目をそらしたのはナンパ野郎たちの方だった。そのまま足早に去っていく背中をボーっと見ていたので、至近距離で自分を覗く青い瞳に気付くのが遅れた。
「香織、大丈夫だった?遅くなってごめん」
「ううん!助けに来てくれてありがとう。ヒーローみたいでカッコよかった!」
「そっか」
今頃彼が来てくれなかったらどうなっていたことか。さっきあの男に捕まれた両肩をさする。今でも少し痛い。するとそれを見た智夏君が寒がっていると思ったのか、自分のパーカーを私の肩にかけてくれた。イケメンすぎぃ!!好き!!
「智夏君、ありが、」
とう、と言おうとした言葉は、彼の体に刻まれた惨たらしい傷跡を見て、声にならなかった。
~第20回執筆中BGM紹介~
FAIRY TAILより「ウルティアとグレイ」作曲:高梨康治様
なぜ投稿時間がこんなにも遅れたのか、それは夏アニメの溜まった録画を見ていたからですね。しょうがない。・・・しょうがなくないですね、すみません。




