子供同士
後半は彩歌視点です。
彩歌さんがなぜ俺を避けていたのか、その理由を聞く寸前でRYOの邪魔が入った。
「俺の存在忘れてね?え?あんたら付き合ってんの?」
綺麗にライトアップされた噴水の前で、3人の視線が交錯する。
付き合ってる、その一言が言えないもどかしさを今まで何度も何度も味わってきた。けれど今日は、今までのように話を逸らしたり、話題を変えたりはしたくなかった。それをした瞬間に、彩歌さんと俺の関係が変わってしまうような気がして。
噴水の、水が止まった。
「付き合っています」
街の喧騒も、ネオンライトも、夜のしじまに包まれる。
「……なので、手を引いてください」
永遠のような一瞬が過ぎ、音も光も戻ってきた。
噴水も勢いよく噴きあがり、光を反射して水滴が小さく光る。
現実感が戻ってきた途端に、しどろもどろになってしまったが、それでも言いたいことは言えた。
「ほんっっっとに生意気なガキだな。こんなガキより特上ちゃんも俺みたいな大人の方がいいんじゃないの?」
深いため息とともに目元を片手で隠すRYO。
俺がガキだなんて、そんなこと言われなくてもわかってる。少しでも早く大人になりたい。でも、大事なものを取られたくない、っていう子供じみたこの気持ちは失うつもりはない。
「ふふっ。私の目には子供同士の喧嘩に見えたっスけど」
「「げ」」
こいつと同列……。たしかに取っ組み合いの喧嘩したり、同レベルなことをやっていたけども。反省しなければ。
「それに私も。特上でもないし、大人でもないっス。自分も気持ちばかりを優先して、周りが見えなくなったり、謝るタイミングを見失ってしまったり。きっと、歳を重ねるだけでは大人にはなれないんでしょうね」
大人だとか、ガキだとか、そんなことで相手を好きになったわけでも嫌いになるわけでもない。ただただ、等身大の彼女が好きなだけ。それだけのこと。
「はぁーーー。俺も彼女ほしいなぁ!」
手を目元からどけて、夜空を見上げたと思ったら叫びだした。このひと色々と不安定なんだろうな……。
「まずは女性と見るや否やなりふり構わず声をかける癖をやめた方がいいと思いますけど」
「的確なアドバイスをどうもなッ!」
切れ気味で言われても1ミリも礼を言われている気がしない。というか。
「俺たちはこれから大事な話があるので、これで失礼してください」
シッシッ
「こんのクソガキ……。へいへい、邪魔者は帰りますよ」
「あ、それとこのことは他言無用で」
「誰が言うかよ。こんな面白くねぇこと。じゃ、また明日な。おつかれさん」
……挨拶が時間差で返ってきた。
これがいわゆるおっさんのツンデレか。需要ゼロだな。
女性の声がする方に向かおうとして、途中で首を横に振って帰路につくRYOの後ろ姿が見えなくなった。
「ようやく2人きりだー」
安心というより、疲れが出てしまった。明日もあの人と絡むのは面倒だな。
何はともあれこれで2人きり。
彩歌さんが話し出すまで噴水をボーっと見ながら待っていると、静かな声が聞こえてきた。
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「私ね、智夏クンの過去を聞いたときに誓ったの」
ずっと傷ついてきた彼を、幼い弟を守りながら生きてきた彼を。
「次は私が守るって。智夏クンのこと、守ってみせるって」
他でもない自分自身に誓ったこと。
「なのに、崖から落ちたとき、怖くて体が動かなかった」
「それは、」
「智夏クンは!」
彼の言葉を遮って、言葉を吐き出す。
「……智夏クンは私を守ってくれた。あのとき、私を庇っていっぱい傷ついた」
私はずっと、智夏クンの腕の中で震えてただけ。
「怖かった。病院で傷だらけになっても私の心配をする智夏クンが」
万が一、もう一度同じように命の危機が訪れたときに、智夏クンは同じように私の命を優先する。
「恐怖に竦んで何もできなかった自分に腹が立った!他人のために平気で傷つく智夏クンが怖かった!いつか私の前から、智夏クンがいなくなってしまう……ッ」
そんな気がして、涙が零れた。




