3文字
本日最後の曲目が終わり、出演したアーティスト全員がステージ上に一組ずつ出てくる。その隙に俺たちバックミュージシャンはステージ脇に下がる。
控室に戻り、電源を切っていたスマホの通知を見ると彩歌さんからメッセージが届いていた。
――何時にXXで待ってます
簡潔に用件だけが書かれたメッセージに目を通し、現在の時刻を確認する。
約束の時間まではまだ少し余裕があるし、ピアノの手入れでもしてこよう。今日一日お世話になったし、明日もお世話になる予定だし。
控室から出ようとしたとき、あの男――名前はRYOとかいったっけ――とすれ違った。
「なぁ?本当にLuna×Runaを紹介してくれる気はねぇのか?ガキ」
いきなりガキ呼ばわりとか、期待を裏切らないというかなんというか。俺の名前や、LUNA×RUNAの2人との関係すらわかってないんだろうな。
「ねぇですよ。お疲れ様です」
「ケッ。生意気なヤツ」
RYOとは明日も一緒に仕事をしなければならないので、一応最低限の挨拶だけはして、控室を出る。去り際にあいつが何か言っていたが、聞こえなかった。
「それじゃあ極上のとこに行くしかねぇな」
今日のライブの日程が終わり、満席だった客席はガランともぬけの殻。寂しい風景だが、これは裏方や出演者しか見れない景色でもあるから、気に入ってもいる。
ステージから裏に移動し、楽器の控室に入り、グランドピアノやキーボードをピカピカに磨き上げる。手入れ道具を持って来て正解だったな。
「明日もよろしくな~」
鍵盤蓋を閉じたとき、後ろから足音が聞こえてきた。驚いて振り返ると、搬入口のところに女性が立っていた。
「びっくりした!物音がしたからてっきり泥棒がいるのかと思っちゃった。あなた、ピアノを弾いてた子よね?私はヴァイオリンを弾いてたんだけど、聞こえてくるピアノの音が綺麗で演奏しながらうっとりしちゃったわ。一度どうしてもピアノを弾いていた方とお話したくて、お姿を探していたらここに辿り着いて――」
怒涛の勢いでしゃべり続ける女性に圧倒される。
ど、どうする!?こっそり立ち去ればいいのか!?でも唯一の出入り口をふさがれてる!逃げ場がない!
「それで、あなたのお名前は?」
え、3分くらい話し続けて聞くのがそれ?てか、知らずに話してたのかこの人。
「み、御子柴です」
「あら奇遇。私も3文字の苗字なの。江戸川っていうのよ~。歳は聞いちゃだめよ」
江戸川……さんは見た目は俺と同じくらいの歳だけど、話し方はおばちゃんっぽい。こ、これがいわゆる美魔女ってやつか!?
「御子柴君の歳はいくつ?自分の歳は聞かれたくないくせに聞くのかよって感じよね~」
「あ、いや……。18です」
「まぁ!同じ歳だったのね!高校3年生?」
まさかの同い年。年齢も自分からばらしちゃったし、何がしたいんだこの人は。
「――でね。御子柴君、私のパートナーになってくれないかしら!」
「……は?」




