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極上



ステージを降りて、彩歌さんはこの後にまた出番があるので控室で着替えに、俺はそそくさとバレないようにトイレで着替える。


本名で活動をしているし、もはやこの狐面はいらないのではないかと思っているのだが、シンボルマークのようになっているため外すに外せない。他の出演者たちに見られないように、こそこそと狐面を外すしかないのだ。


バックミュージシャンの御子柴智夏の装いに戻って、さぁトイレから出ようと思ったとき。


「お前まだ女遊びやめてなかったのかよ?」

「俺から女遊びを取ったら死んじまうだろうが」


最初に喋った声は知らない声。だけど、応えたもう一人の男の声は聞き覚えがある。こいつは確か、Luna×Runaの2人を紹介してくれと言ってきた男だ。


「さすがに職場で女に声をかけるのはやめた方がいいって。いい加減、仕事無くなっちまうぞ」

「でもよ~?歌手っていい女がいっぱいでよ~」

「それはわかる!さっきもすっごかったよな、声優の鳴海彩歌!」


トイレの個室から出るタイミングを完全に見失い、静かにこいつらが出るのを待っていたのだが、聞こえてくる会話はゲスい。そして彩歌さんの名前を口にするな、汚らわしい。


「ありゃあ、極上だな」

「声優は興味ないって言ってなかったっけ」

「あんなん見せつけられたら興味以上のものが湧くってもんよ」

「お前まさか手ぇ出すつもりか?」

「どうだろうなぁ」


用を済ませ、男たちの声が遠ざかっていく。


……………………………………は?


誰が誰に何をするって?


あんな男が遊びで手を出していい人じゃねぇんだよ。


あいつの頭の中から彩歌さんに関する記憶を消し去りたい……!


ふつふつと沸き上がる怒りに任せながら、勢いよくトイレの個室のドアを開ける。


目の前の手洗い場の鏡に俺の顔が写る。情けない顔が俺を見ていた。


俺は今、彩歌さんに避けられているし、ライブが終わったら大事な話があるって言われたし。この流れで大事な話って言われたら、それはもう九分九厘別れ話じゃないだろうか。


だから俺は、彩歌さんが望むことを受け入れる覚悟を決めようと……。別れを告げられたら、それを受け入れようと……。


「覚悟なんて、決められるわけないだろ」


彩歌さんと別れたくない。好きなんだ。俺を呼ぶ声が、目が合うと微笑む顔が、背伸びしてお姉さんぶろうとする姿が。


全部全部好きなのに、別れるなんてできない。






「別れたくないって連絡しつこすぎ」

「しつこい男って嫌だよね~」


ひょ。


女性スタッフさんたちの会話が聞こえてきて、心臓が跳ねた。


「こっちはもうあんたのことなんて毛ほども好きじゃないってのに」

「好きの押し売りはキモいだけよね」


しつこい……嫌……好きじゃない……キモい……。


言葉の槍がグサグサと刺さる。


ライブも終盤に差し掛かり、休憩に入ろうとしたときに聞いてしまい、精神的に削られた。しかも、あの男が彩歌さんにちょっかいを出さないかを見張ってもいたので本当に疲れた。


いまはあの男はステージ上だから俺は少し、きゅう、けい……。







――おつかれっス






「……………………彩歌さん?」


愛しい声が聞こえたような気がして、パチリと目が覚めた。


周囲を見渡しても、彼女の姿はない。いるのは忙しなく動き回るスタッフや、俺のように精魂尽き果てたミュージシャンのみ。


とうとう夢にまで見るようになったか……。


カラカラになった喉を潤そうと目の前にあったペットボトルの水を飲む。


……あれ?この水、買った覚えないぞ?


目の前にあったのでつい飲んでしまったが、この水は一体どこから?


これはもしかして彩歌さんが用意してくれたんじゃないだろうか。


あくまでも俺の希望的観測だけど。

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