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夜の女神

401話目!



手が冷えると言っていた猫平さんと本田さんに持っていた手袋を片方ずつ渡したが、「思ってたんと違う」と言われてしまった。これじゃないなら一体何を……あ!そういうことか。


「使い捨てカイロもありますよ」

「ちち、ちゃうわい」

「お姉さんたちは大好きな智夏ちゃんが手を握ってくれるだけで緊張も冷えも無くなると言ってるのよ」


鈍いんだから~、とおでこをつんと指で突かれた。なるほど、手を握ってほしかったわけか。


「そんな冗談が言える余裕があるなら大丈夫そうですね」

「智夏ちゃんの顔を見たら、げ、元気が出てきた」

「名残惜しいけど、そろそろ行かなきゃね。それじゃあ智夏ちゃん」

「「行ってきます!」」

「行ってらっしゃい!見守ってますから。今まで苦労してきた分、楽しんで来てください!」


2人から手袋を返されたときには、顔色も震えも収まっていた。


Luna×Runaの2人が控室から出て行った後、他のバックミュージシャンの人に話しかけられた。


「すみません、うるさくしてしまって」


控室はバックミュージシャンたちは共同で使っているため、さっきはかなり迷惑をかけたんじゃなかろうかと今になって気付いた。


話しかけてきたこの人はたしかベース担当の人か。見た目は髭がバッチリ決まっていてナイスガイな30代ってところだろうか。


「見てて面白かったから大丈夫さ。それより、さっきの子たち可愛かったね。ちょっと紹介してくれたり……」

「しません」

「え~?君の彼女ってわけでもないんだろ?」


訂正、ナイスガイはいなかった。女遊びが好きそうな男だった。


「あの2人は俺の大切な弟子ですから」


曲の提供者と歌手という存在だったが、ピアノを2人に教えたあの日から、俺にとって2人は弟子のようなもの。Luna×Runaの2人も俺のことはピアノの師と思っているだろう。


弟子を売る師がいったいどこにいるというのだろうか。


「お力にはなれません」

「あっそ」


はぁ。


こういう大規模なライブになってくるといろんな人がいるな。あの人、ベースの腕はよかったのに、性格最悪だな。


「そろそろ時間か」


Luna×Runaのライブの次に控えているのは、彩歌さんが歌う『レクイエム』だ。伴奏はもちろん俺がする。念のためにトイレで誰にも見られないように服も着替えて、狐面をつけて髪を結んでステージ裏に行く。


今は『ツキクラ』のアニメ主題歌をステージ上で披露しており、3曲連続でツキクラの曲を披露するセトリになっている。


俺が作曲家の『御子柴智夏』としてステージ裏でスタンバイをしているということは、歌手である彩歌さんももちろんスタンバイしているということで。リハのときも今もライブに必要なことしか話せていない。


わぁあああああああ!


どうやらツキクラの主題歌のライブが終わり、間髪入れずに劇場版の主題歌を歌っているLuna×Runaの2人が出てきたようだ。


ステージ中央に用意されたグランドピアノ2台。そこに座る、夜空を連想させる深い藍色と、紺青色のドレスを身に纏って演奏しながら歌う2人はまさに夜の女神。


観客たちはペンライトを青や黄に光らせ、客席は輝く星空のように揺れている。


「綺麗……」


彩歌さんの零れた声が聞こえた。


モニターを見つめる彩歌さんの瞳には、星空の輝きが写っていて、とても綺麗だった。


今の俺には、彩歌さんのドレスアップした姿を褒める権利はない。それがとても歯がゆくて、情けない。


「スタンバイお願いします」


スタッフさんの誘導に従って、俺はステージの端の入口へ、彩歌さんはステージ中央の真下に誘導された。


「みなさん初めましてー!私たち」

「「Luna×Runaです!よろしくお願いします!」」


曲の披露が終わり、Luna×Runaの2人が観客に挨拶をしている間に、2台あったグランドピアノのうち1台がスタッフさん達によりものすごいスピードかつ丁寧に撤去され、ピアノ1台とスタンドマイクがセッティングされた。


「「ありがとうございました~!!」」


ステージから戻ってくるLuna×Runaとステージ上ですれ違う。2人は俺だけに見える角度でパチリとウィンクをしてくれた。


それに少し元気をもらい、意識をカチリとスイッチのように切り替える。


ステージ上に私情を持ち込むのは3流のすることだ。彩歌さんも俺も、ここに立つ以上はプロだ。いつでも、どんな精神状態でも、演奏は完璧に。


長いようで短かったピアノまでの距離を歩き終え、客席に一礼して椅子に座る。椅子の高さを素早く調整して準備を終える。ちょうどそのタイミングで、彩歌さんがステージの真下からゆっくりと上昇してきた。


漆黒のドレスはまるで死者たちに向けた喪の色のようで、優しく包み込む夜空のような色だった。Luna×Runaの2人が夜の女神だとしたら、彩歌さんは夜の女王だ。


その姿は、息を呑むほどに美しかった。

~作者からのお礼~

読者の皆々様のおかげをもちまして、なんと本作400話を突破しました!ありがとうございます!1話目の投稿が2020/07/06なので、早いもので2年以上が経過しました。本作のゴールは智夏たちの高校卒業までを予定しており、現在の作中時間は3年生の夏休み。学生時代の夏休みといえば、それはもう長いものですから、話数もそれだけ長く……。これもみんな夏のせい♪いや、夏のおかげですかね。

ここまで長く書き続けられているのは、ひとえに本作を読んでくださっている方々のおかげです。いつもありがとうございます。投稿日をミスったり突発的に休むぽんこつ作者を見限らずに、ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!400話というかなりのロングランですが、ここまでついてきてくださって、感謝の念が堪えません。

いましばらくの間、智夏たちの卒業までの姿を見守ってくださると幸いです。最後になりましたが、読者の皆様の健康とご多幸をお祈り申し上げます。

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