イケメンかよぉぉぉぉぉ!!
修学旅行編です
―ザッパーンッ!!
目の前には秋の空と壮大な日本海が広がっていた。下を覗くとごつごつした岩肌に打ちつける白波が跳ねていた。思わずヒュッとなってしまう。何がかはご想像にお任せしよう。
俺たちは今、3泊4日の修学旅行で福井の北の方にある東尋坊にクラスでやってきていた。昨日は福井に着いてそのまま宿に直行したので観光は一切していないので、これが初めての福井観光である。
「あぁこの向こうにあいつらがいるんだろうか……」
隣では今にも海に飛び込んでしまいそうなほどに暗い表情の田中が手すりに顎を乗せてため息をついていた。
「田中、断崖絶壁のサスペンスの名所でそんな発言はやめてくれよ」
思わず飛び降りないように田中の肩を掴む。なぜ田中はこんなにも落ち込んでいるのか、それは数十分前に遡る――。
田中はそれはもうわかりやすく浮かれていた。
「カニーカーニカニッ」
普段は絶対に歌わないような歌?まで口ずさんでスキップしていたほどだった。地に足付かない状態とはこういうことを言うのだろうか。ヨシムーの「自由行動開始だー」という言葉を聞いて目にもとまらぬ速さで東尋坊の手前にあるお店に入っていった。どんだけ楽しみにしてたんだよ。
小走りで田中の後を追いかけて店に入ると、田中が見当たらない。……あれ、おかしいなと思って店内を探そうと一歩踏み出したとき、つま先に何かがぶつかったので下を見ると、そこには田中が転がっていた。
「うおっ!?おい田中どうした?気分でも悪いのか?」
急いで田中を抱き起し、お店の邪魔にならないようずるずると田中を引きずりながら端の方に移動する。
「う、うそ、だろ?」
「突然魔王復活フラグみたいなセリフを言ってどうしたんだよ?」
田中は虚ろな目をしながら「そんな、うそだろ」と繰り返すばかり。すると年配の店員さんが駆け寄って声をかけてきた。
「あの~お連れ様、大丈夫?」
「あーすみません。邪魔ですよね、すぐどかすので」
「いーざ、いーざ!こんな所にえんで座敷に上がんねの~」
お、方言。福井弁かな?地面に座っているのも疲れたのでお言葉に甘えて座敷に上がる。もちろん田中も引きずって座敷にあげる。
筋力がないから大変だった。帰ったら体を鍛えようかな……などと思いながら店内を見回す。海の近くだからか窓が大きく風通し抜群である。ほんのり潮の香りもする。ふと、壁に貼ってある紙が目に入った。その紙には、
『越前ガニの解禁日は11月6日から!!』
の文字が墨ででかでかと書かれていた。今は10月の頭。つまりカニは食べれないということである。魂が口からまろび出ている田中に何と言っていいかわからず、
「……せっかくだし気分転換に東尋坊からの景色、見に行かない?」
と提案し、現在に至る。こんなメンタルの人間引っ張り出すべきじゃなかったかな?いや、でもせっかくの日本海だし。と脳内葛藤をしていると、黙って海を見つめていた田中が口を開く。
「海を見てたら俺はなんてちっぽけなことで落ち込んでたんだろうって思えてきた」
菩薩顔しながらなんか言っている。悟り開いちゃってるよコレ。
仕方ない、あまり使いたくはなかった手だが、田中を俗世に戻らせるためだ。他の誰にも聞こえないようにコソコソと話をする。
「次はプールだから気分上げろよ」
「プールなんて、この偉大な母なる海に比べれば矮小なものさ」
菩薩化した田中めんどくさ!
少々イラっとしたが、諦めずに説得を続ける。さながら引きこもりの我が子を部屋の外に引っ張り出そうとする親の気分だ。
「10月の海は寒いだろ?……田中、プールにはクラスで行くんだぞ」
「…」
「クラスでってことは、当然女子もだ」
「…っ」
揺らいでる揺らいでる。悟りの世界と俗世の間を振り子のように行ったり来たりしている。
「たしか四人乗りのウォータースライダーもあったはず」
「…!」
「水着の女子たちと普通に遊べるチャンスを棒に振るのか?」
「プール、イク、オレ、アソブ」
俗世に帰還した影響か、後遺症でカタコトになってしまっているが、まぁ小さな犠牲だろう。しょうがないさ。
「ひゃっほー!!プールだ!水着だ!サイコーだー!!」
「鈴木キモイ」
「見るな寄るな息するな」
「女子が冷たいよぉぉぉおお!!」
鈴木には学習能力というものはどうやら備わっていないらしい。反面教師がいたおかげで他の男子は二の舞にならずに済んだ。
「智夏、田中、ボケっとしてないでさっさと行くわよ」
あれ、なぜか違うクラスのカンナの声がする。不思議に思って振り返った。
「カンナの声が聞こえた、け、、、ど」
「……黙ってないで何とか言いなさい」
カンナの姿は勿論水着だが、露出はかなり少ない。お腹も見えていないし、オフショルダーというわけでもない。
だが、なんだろう……妖艶である。ワンピースというよりは体にフィットしたドレスのようなそんな印象を受ける。真っ赤な水着は着る人を選ぶだろうが、カンナは完璧に着こなしている。
「ごめん、綺麗すぎて驚いてた。似合ってるよ、その水着。まるでカンナの為だけに作られたみたいだ」
「そっ」
「そ?」
「そこまで言えとは言っていないわ!!」
怒られてしまった。涙目でぷんすかする姿は誰の目から見ても可愛く写るだろう。
「カンナちゃーん!ってすごい!カンナちゃん海外のセレブみたい!」
「香織さ、ちゃん。香織ちゃんもすっごく似合ってる。可愛いわ」
上は白と青のTシャツのようなものに下はジーンズみたいな短パンとかなり私服のような水着である。しかし、侮るなかれ。膝上のかなり短いズボンから惜しげもなく晒された両足は芸術の如く。胸の下あたりで結ばれたTシャツは細いお腹を隠そうともしていない。ほどよく焼けた肌と相まってとてもよく似合っている。
「智夏君、どう、かな?似合ってる?」
「似合ってるよ、めちゃ可愛い。どこのモデルの人かと思ったくらい」
「てっ照れるなぁ、あはは!」
顔を真っ赤にしながら手で顔に風を送っている。
「しばちゃん、よくあんなセリフ言えるな」
俺だったら無理だぜ、と呆れた半分、尊敬半分の視線を送られる。
「思ったことを言っただけだけど?」
「恥ずかしくないのかよ?」
「少しは恥ずかしいけど、あんなに嬉しそうな顔してくれるなら、男の羞恥心なんてちっぽけなものだよ」
「イケメンかよぉぉぉぉぉ!!」
~第19回執筆中BGM紹介~
魔法少女まどか☆マギカより「Sis puella magica!」作曲:梶浦由記様
営業のテーマと呼ばれている曲です。梶浦由記様はまどマギやSAO、鬼滅などを手掛ける神ですね。




