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闇の中に



えーっと、どうしてこうなったんだっけ……?


視界いっぱいに広がる満天の星空を前に、なぜ自分は森の中で倒れているのかを思い出していた。





ドキドキ肝試し大会をすることになって、彩歌さんと2人で森の中を歩いていたら香苗ちゃんと彩歌さんの両親が主催者であることがわかった。それで、ラスボス的な役割を担っているようだった香苗ちゃんと彩歌さんのお母さんを逆に驚かせてやろうと思って、2人の背後にそれぞれがまわり、彩歌さんの方は成功したようだった。が、俺の方は香苗ちゃんにバレていたらしく、スマホの内カメラで俺が驚かそうとしている姿をバッチリと動画で撮られていた。


「も~、肝試し大会が有耶無耶になっちゃったじゃない」

「ごめんて」


撤収作業を手伝いながら、香苗ちゃんからの不満を聞いていた。俺たちが通るはずだった森の中の道を見ると、あちこちに驚かせるための仕掛けがあって、呆れを通り越して感心すら覚えるレベルだ。


「こっちにはスライム、あっちには手袋……」


あらゆるものが枝からぶら下がっている。しかも香苗ちゃんはそのすべての物と場所をリストにまとめており、忘れ物を一切出さないように徹底していた。


俺は高い場所に設置されている仕掛けを中心に回収していたのだが、これらすべてが無駄になってしまったのかと思うと申し訳ない気持ちも少しは湧いてくるような。


「ほっ、よいしょっ!」


ぴょんぴょんと飛んで、顔が描かれた風船を取ろうとする彩歌さんを見つけ、ほのぼのとした直後、ゾッとして血の気が引いた。


彩歌さんが飛び跳ねている場所は、夜だからよく見えないがすぐそこに崖があるのだ。子供の頃に一度来た時に落ちかけたことがあったから覚えている。


「彩歌さんッ!そこ危ない!」

「え?」


彩歌さんがこっちを見た直後、ガラガラ……と嫌な音が聞こえて、彼女が立っていた場所が崩れた。そこに立っていた彩歌さんも、為すすべもなく闇の中に落ちていく。


「……彩歌さん!!!」


落ちていく彼女の腕を、ギリギリのところで掴んだ。


「よかっ、」


このまま彩歌さんを持ち上げようとしたとき、地面が揺れた。いや、揺れたんじゃなくて俺がいた地面も崩れたのだ。


そこからは全部がゆっくりに見えた。支えを失くした己の身体が先の見えない暗闇に落ちていく。彩歌さんの顔が驚きと恐怖に歪み、何か叫んでいる。


ここで、死ぬのかな。


真っ先に頭に浮かんだのがそれだった。次いで死にたくないという感情よりも先にこみあげてきた強い思い。それが俺の身体を突き動かした。


大切な人を、死なせてたまるか……!


右手で掴んていた彩歌さんを咄嗟に自分の方に引き寄せて、覆い隠すように抱きしめ、落下にそなえて自分の身体を下にして衝撃に備える。


ガササササバキバキバキ、―――バッシャーン!


崖の下に生えていた木がクッションになり、落下のスピードや衝撃が和らいだ。そして、崖下に流れていた川に2人揃って落ちた。


「――ぶはっ!はっ、はーっ。さ、彩歌さん!?」

「――ぷはっ!ケホケホッ。……智夏クン」


川に落ちたと理解するよりも先に身体が酸素を求めて水面に顔を出した。決して離すまいと渾身の力で抱きしめていた彩歌さんも水から顔をだし、(むせ)ながらもしっかりと俺の名を呼んでくれた。


よかった、とりあえず2人とも生きてた。


彩歌さんの身体を支えながら、川岸まで泳いで水から上がる。すると鉛を付けているかのようにズシンと身体が重くなった。


「夏くん!!彩ちゃん!!お願い、返事をして!!!」

「誰か、誰かー!!!」


香苗ちゃん達が崖の上から懐中電灯で必死に俺たちを探している声が聞こえてきた。さっきからチラチラと光が当たっているが、俺たちの姿は暗くてよく見えていないらしい。


ビルの3階建てくらいの高さから落ちたんだな、俺たち。


香苗ちゃん達に俺たちは無事だと叫ぼうとしたが、カスカスの声が出るだけだった。


というか、もう、立っているのも、限界……。


べしゃりと河原に仰向けに倒れ込んだ。心臓が破裂しそうなほどに脈打っているのが聞こえる。いまさらながら息が上がり、冷や汗がドッと湧き出てきた。


「はぁ、はーっ、怪我は……?」


隣に座り込んでぐったりしている彩歌さんに聞くと、小さな声で「ない」と言い、俺に同じことを聞き返してきた。


「俺も大丈夫です」


あぁ、良かった、本当に………。


やべ、安心した途端に眠気が。


香苗ちゃん達に居場所を知らせないといけないのに……。


「私たちはここですー!!!」


近くにいた鳥が驚いて飛び去るほどの大音声で彩歌さんが叫んだ。


「2人とも、無事ー!!!」


4本の懐中電灯の灯りが一斉に俺たちを照らした。


「夏くん!」

「彩歌!」

「兄貴!」

「さ、彩歌ー!」


涙が混ざった声になんとか手を振って、無事を知らせる。




その後、病院で診察を受けたが、奇跡的に2人ともかすり傷で済んだ。めでたしめでたし、のはずだったのだが。


その日以降、俺は彩歌さんから、避けられていた。

~執筆中BGM紹介~

フルーツバスケット 1st seasonより「Deep Darkness」作曲:横山克様

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