肝試し大会
「4人でいってらっしゃい」
下手くそな作り話を長々としたのは、俺たちを森へと誘導するためだったのか。
昼の足跡の件もあって、彩歌さんと冬瑚は夜の森へ行くことに恐怖を感じているようだった。
「俺たちは森に行って何をすればいいわけ?」
「あら。素直に行ってくれるのね」
「ここで駄々をこねたところで、どうせ行くことになるんだろうし」
さっさと行って終わらせた方が楽だ。俺の反応に意外そうな顔をするマリヤに耳元でコソッと聞いてみた。
「ところでこれは香苗ちゃんの差し金?」
「ノーコメントで。フフフ」
「ふーん」
「さぁみんな!夜の森で肝試し大会よ!」
「封印を見てくるんじゃないのかよ」
「細かいことを気にしちゃだめよ」
「肝試しー!ってなに?」
「肝試しっていうのはね、」
夜の森に行くとかそんなイベントを思いついて実行してしまいそうなのは、俺が知る限り香苗ちゃんだけだ。たぶん、というか絶対。
「懐中電灯持ってきた」
「2本だけっスか」
「しょうがないから2つのグループに分かれましょうか」
秋人が台所から懐中電灯を2本取り出してきたが、それを見てマリヤが人数を分けようと言い出した。もしや懐中電灯の本数も仕込みか?いやいや、もしそうならいつから仕組まれてたんだって話だよ。…………え、こわ。
夏の夜。
いろんな虫の鳴き声で意外と賑やかな森を目の前に、俺たちは別れた。
「それじゃあ僕は冬瑚と先に行くから」
進めばわかると雑な説明をされて、秋人は冬瑚と、俺は彩歌さんとペアを組んで時間差で出発することになった。この時間差はきっと仕掛け人の事情によるものだろうな。
香苗ちゃんは今日は急に仕事が入ったと言っていたが、もしかして朝から森の中で準備してたのかもな。だとしたらあの足跡は香苗ちゃんのものか?いや、あれは明らかに男物だったから違うな。だったら一体あれは……。
「秋人たちが行って10分たったから、あなたたちも行ってらっしゃい」
マリヤが俺たちの出発を促した。俺たちがここを離れたら、マリヤはこのバカでかい別荘に一人きり、か……。
「あの、マリヤさんも行きませんか?」
まさか彩歌さんからマリヤを誘うなんて。昼に2人きりにしたことが距離を縮めたのだろうか。
彩歌さんなりに、マリヤのことを想ってくれたようでなんだか俺が嬉しくなってしまった。
マリヤに手を差し出して、夜の森へ誘う。
「一人じゃ寂しいだろ?」
マリヤは驚きで目を見開き、俺たちを見る。何度か口を開いては閉じて、ゆっくりと首を横に振った。
「ありがたいお誘いだけど、遠慮するわね。私にも役割があるから」
「私にも、ね?それじゃあ振られたことだし、俺たちは行ってくるよ」
「行ってきます!」
「はい、行ってらっしゃい」
マリヤが言っていた「私にも役割がある」という言葉はつまりマリヤの他にも役割を持った人物がいるということだろう。つまり昼間見た男性の足跡はその協力者の一人か。不審者じゃなくてよかった。
「、、、ン!智夏クン!」
「……ん?」
「急にぼーっとして!返事がないから取り憑かれたのかと思うじゃないっスか!」
「それはすみません」
「反省してくださいっス」
「へーい」
ぷんすこと怒りながらも、俺の腕をしっかりとホールドしている彩歌さんは今日も可愛い。
――ギャー!
「い、今のは!?」
「冬瑚の悲鳴、ですね」
「びゃぁ」
舗装された小道を歩いていると、途中から矢印で森の中に誘導され始めた。
「彩歌さん、足元に気を付けてくださいね」
「うううううううん」
「”う”が多いなー」
左腕に彩歌さんが抱き着いているため、右手で懐中電灯を握っているが、なるだけ彩歌さんの足元の方を照らす。
等間隔で矢印が書かれた札が木の枝からぶら下がっているため、迷う心配もなく進んでいく。
「彩、……?」
うん?いまなにか聞こえたような。
「にゃ、にゃにゃにゃにっスか!?なんで途中で呼ぶのをとめたっスか!?なんでまるでこんな森の中で誰かの声が聞こえたみたいにキョロキョロするっスか!?」
辺りを見てみたが誰もいない。気のせいだったかと思ったときだった。
『こ~ンば~んワ~』
「キャ―――!!!」
俺たち以外の女性の声が真後ろで聞こえたのは。
~執筆中BGM紹介~
恋と呼ぶには気持ち悪いより「リナリア」歌手:まるりとりゅうが様 作詞・作曲:Ryuga様




