表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/467

レクイエム

感想、誤字報告、ブクマ登録、評価、ありがとうございます!



10月の初旬にある修学旅行に向けて計画を詰めている9月の終わりごろ。


顔を隠している髪を揺らす風も涼しいものに変わりつつある。そして今日は『月を喰らう』最終話の放映日であり、俺が作曲して鳴海さんが歌った『レクイエム』がアニメで流れる日でもある。


「いや~いよいよっスね!レコーディングしたのが随分昔のことに思えるっス」

「本当にあっという間ですね、鳴海さん」


そう、俺の隣には今、大人気声優であり『ツキクラ』のヒロインを演じる鳴海彩歌さんご本人が座っている。少しでも動けば肘が当たりそうで気が気でない。なんでこんなに小さいんだここのソファは!?というか鳴海さんがなぜドリボ(ここ)に!?


そんな俺の脳内パニックなど露知らず、鳴海さんが間近に迫ったアニメ放送時間を楽しみにしながら話しかけてくる。


「今日は狐のお面はしてないんスね、春彦クン」

「そうですね、鳴海さんにはレコーディングの時に狐面無しで会ってますから、今さらというか」


今日はドリボの休憩室で1人、『ツキクラ』の最終話を見る予定だったので、サウンドクリエイターの『春彦』としての格好は一切していない。眼鏡をかけて前髪で目元を隠した、学校での陰キャスタイルである。


1人でソファーに座って待っていたら、いきなり背後から鳴海さんが現れ、そのまま流れるように隣に座られ、今に至る。


前髪上げてなくて良かったー。たまに邪魔くさくて前髪を上げてるときあるからな……。これからも気を付けよう。


「その前髪、見づらくないっスか?イベントのときは眼鏡かけてなかったっスよね?今かけてるのは伊達メガネ?」


狭いソファーの上でさらにこちらに顔を向けて矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。心臓が早鐘を打っている。近い近い!俺の周りにいる女子の皆さんはパーソナルスペースが少々狭くないですかね!?それともこの距離が普通なのですか!?誰か教えてー!


「えっと、なんでしたっけ?前髪は慣れれば普通に見えますよ。眼鏡は度が入ってないので伊達ですね」

「なんで伊達メガネかけてるっスか?」


……はっ!やっちまったぁぁぁああ!


女子のパーソナルスペースについて考えていたらうっかり本当のこと答えちゃってたぁぁあああ!!バカ!俺のバカたれ!!


「えぇっと、それは、そのなんていうか、……あ!ツキクラ始まりますよ!」

「え?あ、ほんとだ。危うく見逃すところだったっス」


ふぅー。タイミングよくツキクラが始まったので、強引にだが話を終わらせることができた。これで一安心。


「残念っスね。またあの綺麗な目を見てみたかったっスけど。お預けだ」

「何か言いましたか?」

「いいえ?」


何か小声で言っていた気がするが、綺麗な笑顔で誤魔化されてしまった。鳴海さんはテレビに視線を戻し、真剣な表情に。いつも飄々としている人がときおり見せる真剣な表情はなんというか、ギャップ萌えっていう感じである。


「集中するっスよ」


軽く膝をつねられた。ちょっと喜びを感じてしまうあたり、俺はもしやMなのでは?いや、世の中の男子の大半は綺麗な女性に膝をつねられたら喜ぶはずだ!だよな、田中!……絶対いまくしゃみしてるだろうな。


ということをつらつらと考えつつ、テレビを見る。最終話の冒頭のバトルシーンは作画陣が血を吐く勢いで頑張ったと言っていたので、かなり力が入っている。バトルシーンに合わせて作った曲も映像とうまく噛み合っていた。


ヒロインが泣きながら主人公の名前を呼ぶシーンは感動した。隣に座る張本人から


「このときは本当に泣きながらアフレコしてたっス」


と聞いた時には、さすがプロだと思った。命を吹き込む仕事に全身全霊で挑む声優さんって本当に偉大だな。ありがとう、全世界の声優のみなさん!


ヒロインがレクイエムを歌いだした。それを見て漠然と


―あぁ完成したんだな


と思った。この曲は、『レクイエム』は、原作者である鷲尾先生が詩を書き、俺が作曲し、鳴海さんが歌をのせて完成したと思っていた。しかしそうではなかった。『レクイエム』は『ツキクラ』で流れてようやく完成したのだ。流麗なアニメーションでヒロインが歌っている。激闘の末に亡くなった仲間のために、死んでいった人たちのために。


1クール目のオープニング曲がエンディング曲として流れ出した。エンドロールには、スタッフの名前と共に24話分のダイジェスト映像が映っている。ばっちりと鳴海さんの名前も載っていた。当たり前だけど。サビの部分では


エンディングテーマ

   『刃』

DARADARA

作詞:寺田六郎

作曲・編曲:平野コータ


とエンディング曲のクレジットが流れ、その下には


   挿入歌

 『レクイエム』

ミシェル・スペンサー(鳴海彩歌)

作詞:鷲尾たわし

作曲・編曲:春彦


の文字が。それを見た瞬間、体の奥からグワーッと何かがこみあげてきた。この感情は、そう


「子供が巣立った気分だよ」

「俺もまさに同じこと思いました」


まさしく親の気分。何年も手塩にかけて育ててきた愛する我が子が巣立った気分である。感動やら寂寥やらでもうぐちゃぐちゃ。だが、気分はかなり爽快である。エンディング曲が終わり、真っ黒な画面に『月を喰らう 劇場版制作決定』の文字が。


「つまりアタシら夫婦ってこと?」

「……そういう見方もあるかも、ですね。それなら鷲尾先生はどうなるんですか?」

「お、話をそらしたな?うーん原作者の鷲尾先生は、お姑さんっスね」

「急に生々しくなりましたね」


小耳に挟んだ情報っスけど、と前置きをした後に鳴海さんが話し出す。


「『レクイエム』はかなりの難産だったって、ほんとっスか?」

「ほんとっスね」


おっと語尾が。


「自分の中で『レクイエム』をうまく昇華できなくて。かなり手こずりました。そういう意味では俺は母親でしょうか?」

「それじゃあアタシは父親っスか?」

「いや、俺が産みの親なら鳴海さんは育ての親というか」

「じゃあ2人の母親から生まれた子供ということっスね」


……そうなのか?そういうことなのか?まぁ、なんにせよ鳴海さんが満足そうなので良しとする。


「『レクイエム』の評判、どうなるっスかねぇ」


という鳴海さんの心配を他所に、SNSのトレンド上位には


ツキクラ最終回

ツキクラ劇場版

レクイエム

ミシェル神


が躍り出たのだった。


そしてこの『レクイエム』が更なる波乱を呼ぶことになる。

~第18回執筆中BGM紹介~

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEXより「inner universe」歌手:ORIGA様 作詞:ORIGA様、Shanti Snyder様作曲:菅野よう子様

今回は読者様からのおススメでした!攻殻機動隊は2回目ですね。神曲の宝庫です。


14話「カオス極まれり」をかなり加筆、修正いたしましたが、内容に大きな変更はございません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ