番外編 教師
智夏たちの担任の吉村旭視点です。旭と香苗ちゃんは同級生。
(2022/07/31追記)
投稿日時を間違えてましたすみません!本来であれば今日の12時に投稿するはずだったのですが、予約投稿を作者がうっかり間違えたことにより昨日投稿しちゃってました!すみません!
次回の投稿は本来の予定通り2022/08/02です!暑さで作者のぽんこつ具合が加速したのでしょうか( ˙-˙ )スン…
あいつと出会ったのは高校のとき。たまたまクラスが同じで、隣の席で、趣味が同じ音楽で。意気投合してあいつと2人、バンドグループを作った。
2人だけの、ボーカルとドラムだけのバンドなんて寂しいとあいつが言うから、スマホなんて便利なもんが無い時代、教室を一つずつ回りながら、地道にバンドメンバーを集めていった。
1人増えて、2人増えて、1人減って、2人入って。
途中でメンバーが辞めたり入ったりしたが、俺たちが高校3年生のとき、今の世代まで語り継がれるほどの伝説的な(自分で言うのもなんだが)ライブになった。
俺とあいつの関係は高校のときだけ。それっきり。
お互いに音楽のことしか話さねぇから、どこに住んでいるのかも、家族が何人いるのかも直接聞いたことはなかった。
『御子柴さんの家って、両親が離婚したらしいよ』
『それ私も聞いた!なんか、お母さんがヒステリックで暴力を振るうとか』
『あたしがこの前聞いたのは、年の離れたお兄さんが外国の人と駆け落ちしたって!』
あいつは、御子柴は美人で目立っていたから、そーいう噂はよく耳にした。隣の席の俺が聞こえてんだ。御子柴に聞こえてないはずがない。けど、否定する素振りも怒る素振りもなく、あいつはただへらへらと笑ってた。
変なヤツだと思った。
事実じゃないなら否定すればいいし、耳障りなら俺にやるみたいにマシンガン正論ビームをあいつらに放てばいい。口喧嘩でお前に勝てる奴なんてこの学校にはいないんだから。
バンドの練習を放課後や、休日にやるようになると、御子柴の母の影がちらつくようになった。何度も何度も御子柴の母は御子柴……あー、香苗に電話を掛けてくるのだ。
あいつは文句も言わずに付き合っているが、それでもストレスは感じているみたいで、その後に歌うと音程がよく外れていた。
多分、あいつに関する噂のほとんどがホントのことなんだろう。それでも、香苗は毎日学校に来て、トップの成績を残し、音楽にひたむきに打ち込んでいる。誰もが羨む人気者、そんな言葉がぴったりだった。
強いヤツだと思った。
常人だったら抱えきれない問題を全てを背負うことのできる強いヤツ。いや、背負えてしまえたからこそ、他人に甘えることを知らないヤツ。
背負っているもののせめて半分は俺が代わりに背負ってやりたい。そう思い始めたのはいつからだったろうか。
香苗を好きだと自覚したのはいつ頃だったろうか。
「旭、バイバイ」
「おう」
俺は想いを告白しなかった。今の香苗に、これ以上負担を掛けたくなかったから。俺自身があいつの負担になることだけは、絶対にしたくなかったんだ。
そうして俺たちは、再び会うこともなく……。
それから時は経ち。
バンドメンバーで再び会うことも、同窓会に行くこともなく、俺は高校教師になり、母校の桜宮高校に戻ってきた。何回か副担任をしたり担任をしたり。後輩の教師もでき始めた頃だった。
「転校生が来るらしいですよ」
「マジか。ここの転入試験って結構難易度高めじゃなかったか?」
「それがなんと!ほぼ満点だったみたいで!」
「そんな頭いい奴がこんな時期になぜ転校?」
「それが訳ありみたいで……」
後輩の教師とそんなことを話していたが、まさかその訳ありの生徒を俺が受け持つことになるとは思わなかった。
「それじゃあ吉村君、お願いしますね」
「あ、はい……」
その生徒に関する資料をもらい、まず目に入ったのは顔写真。こりゃまぁ、なんてイケメン野郎だ。
「イケメン野郎の名前はさぞイケメンなんだろ……うん?御子柴?」
香苗と同じ、御子柴。
よく見かける苗字ではないが、まったくいないわけじゃない。そういうこともあるか……あ、あぁ!?
保護者名、御子柴香苗、だと!?!?!?
こ、これはどういうこった。まさかあいつの息子か!?いやいや待て待て。御子柴智夏は高校2年生だぞ。香苗が母親なわけない。落ち着け俺。
ていうか、今でも香苗のこと、好きだったんだな。俺ってば、結構一途ゥ。
資料を読み進めてくうちに、そんなふわふわした気持ちは飛んでった。訳ありとは聞いていたが、ここまでひどいとは……。
後日、保護者が話をしたいと連絡したらしく、学校で会うことになった。
まさか卒業してから、この学校で再び会うことになるなんてな。




