ぜ〜んぜん!
カリカリカリカリ、ペラっ、カリカリカリ
ポロロンポロロン
タンタンタンっ、ジュワ~
テスト前ということで、高校生組は勉強。小学生組は仲良く一つの椅子に座ってピアノ演奏。秋人と香苗ちゃんはお昼ご飯の支度に。
そして彩歌さんはというと……。
「こ、これは……!」
俺たちがテスト前と知って、「彩歌お姉さんがお勉強を見てあげよう!」と意気揚々と立ち上がり、教科書を見た途端。
ドォン!
爆発した。
「さ、彩歌さーん!」
「ごめん智夏クン。私、役に立ちそうにないや……ガクッ」
「彩歌さーん!」
返事がない、まるで屍のようだ。
教科書を開いて爆死してしまった彩歌さんを教会に連れて行って復活の呪文で生き返らせて部屋に戻る。
「じゃあ、冬瑚たちのところに行きます?」
「ううん!邪魔じゃなければ、智夏クン達が勉強してる姿を見ててもいいっスか?」
「俺はいいけど、田中は?」
「集中できなかったら「邪魔だ」って言ってほしいっス!」
俺と彩歌さん、2人の視線を受けた田中はたじろぐことなく、頷いた。
「いいよ。サファリパークで勉強するより全然いい」
「「サファリパーク」」
田中家は兄弟多いもんな。しかも田中はその長男ときた。彩歌さんが隣にいるくらいで、集中力は切れないだろう。
「俺にとっちゃ子猫が部屋の中にいるくらいのもんよ」
「それはそれで集中できないのでは……?」
彩歌さんの言う通り、子猫が部屋にいたら集中できんよ。撫でまわして猫じゃらしで遊んでもらっちゃいますよ。まぁ、それはそれとして、だ。
「俺の彼女を口説くのはやめろ」
「は?」
「子猫ちゃんとかお前、口説き文句だろうが」
「子猫ちゃんとは言ってないだろが!」
やいややいやと騒ぎながらも、勉強道具を取り出す手は止めない。
教科書を開いた瞬間、シーンと静かになった俺たちを見て、彩歌さんが驚いている気配が伝わってきた。
(い、一瞬で静かになったっスー!すごーい!!)
俺たち3人は自室に、小学生組はピアノの部屋に、秋人たちはリビングに。
静かになったことで、それぞれの音が聞こえてくる。
シャーペンを走らせる音、ノートをめくる音。
ピアノを楽し気に弾く軽やかな音色。
包丁がまな板を叩く音、空腹に直接訴えかけてくる美味しそうな音。
家の音はどれも心地良くて暖かい。
それぞれが音を出すなかで、音を出さずにじっとしている彩歌さんを見ると、幸せそうに俺を見る彼女がそこにいた。
「彩歌さん、そんなに見てて飽きない?」
「ぜ〜んぜん!」
勉強するときに前髪は邪魔なので、ヘアピンで前髪を上げている。だからいまはメガネもかけてないし前髪もない状態。
おでこはスースーするし、視界はだいぶクリア。陰キャスタイルは夏に弱いから、そろそろ髪を切りたいところだ。
タタタッ
「あ、ごはんができたみたいだね」
「?なんでわかっ、」
「みんなー!ごはんできたって!」
「呼びに来てくれてありがとう、冬瑚」
なぜ呼びに来る前にわかったのか、それは軽やかな足音が聞こえたからだ。ごはんができたと呼びに来る冬瑚の足音のリズムはもう覚えた。
「冬瑚の足音がごはんの合図なんだ」
「足音なんて聞こえたっスか?」
「俺には聞こえなかった」
どうやら足音が聞こえていたのは俺だけのようだ。まぁ、彩歌さんも田中も集中してたし、聞こえないのも無理はない。
「もう!足音がしないように静かに来たのに!夏兄の耳が良すぎるんだよ!」
「え~?いつもより少し静かになったくらいじゃないか?」
「そんなことないもん!泥棒さんになれるくらい静かに来たもん!」
「泥棒さんにはなっちゃダメだろ」
ぴょんぴょん跳んで、全身で抗議してくる冬瑚を抱っこで捕獲しつつ、彩歌さんと田中を先にリビングへ誘導する。
彩歌さん、田中、そして冬瑚を抱えた俺の順で部屋を出ると、すでにいい匂いが鼻をくすぐった。
「今日の昼ごはんはなんだろうな~」
「豚キムチ炒めって言ってた!」
夏にぴったりの料理だな。急に昼ご飯を食べる人数が4人から7人に増えたが、秋人さんはうまく対応してくださったらしい。いや~感謝感謝。俺も手伝おうとしたが、料理の腕が成長した香苗ちゃんと違って、俺の料理の腕は上達するどころか、悪化しているような……。
リビングに入って、キラキラと輝く昼ご飯を見た途端、腹の虫が鳴り響いた。そういえば、朝ごはんもまだ食べてないんだった。
人数が3人も増えた分、椅子が足りないので、各部屋から椅子を持って来て急遽7人分の椅子を揃えた。
それじゃあ、みんなで。
「「「いただきます!!!」」」
~執筆中BGM紹介~
白雪とオオカミくんには騙されないより「コイワズライ」歌手:Aimer様 作詞:aimerrhythm様 作曲:飛内翔大様




