言っ………
いいね、ありがとうございます!誤字報告してくださった方々には作者から特大のいいねを。
彩歌さんに最高の目覚めをもらって、庭で全身に水を浴びて、みんなに揶揄われて、香苗ちゃんに仕返しをしたら倍返しされて、お風呂に入って体を温めて。
そんなことをしているうちに、微妙な時間になってしまった。朝ごはんを食べるにしては遅いし、昼ご飯を食べるにしては早い、そんな時間。
「お腹空いたー」
髪を乾かす前に、リビングに入って涼む。
彩歌さんと香苗ちゃんと秋人と冬瑚の4人はトランプで遊んでおり、なにやら盛り上がっている。
「革命っスー!」
「な、なんだって~!?」
「えー!?」
「マジか」
どうやら彩歌さんが無双しているらしいことは分かった。
お茶でも飲もうと冷蔵庫のある台所に向かう途中、テーブルに小さなおにぎりが2つ、皿に並んでいた。
「それ、朝飯を食いっぱぐれた兄貴が腹減ってると思って」
「ありがとー。めっちゃお腹空いてたんだよね。早速いただきます」
秋人が作るおにぎりにしては少し小さめな気がするが、この時間帯の間食にはちょうどいい量だ。
一口でおにぎり1個を頬張る。
「うまい」
暴力的なまでの空腹感に襲われていたが、おにぎりを食べたことにより、飢餓感が薄れた。続いてもう1個のおにぎりも一口で口に入れる。どっちも塩にぎりに海苔が巻いてあって、シンプルだがとても美味しい。
「お口に合って良かったっス」
「………もしかして、このおにぎりを握ったのって、秋人じゃなくて、」
「私、だよ?」
あの小さなおにぎりを握ってくれたのは、どうやら彩歌さんらしい。彼女の細くて小さな手で握ってくれたのだ。小さめの可愛らしいおにぎりが出来上がるのは当然だ。
しかし、なんてもったいないことをしてしまったのだろうか……!
「もっと味わって食べればよかったァァァ!!!」
一口×2個でペロッと頂いちまったよー!!
あまりの悔しさに床にへたり込むと、すかさず冬瑚が俺の背中に乗っかってきた。ううっ、追い打ち……。
「ぱぱっと作ったものだったっスけど、美味しかったみたいで良かった」
背中の重みがふっと消え、見上げたら冬瑚を抱っこした彩歌さんが目の前にいた。
俺は今、土下座のような状態で床に這いつくばり、彩歌さんはそんな俺を見下ろしている構図。いままさに、「ご主人様~!」と首を垂れたい衝動に駆られている。
「はい、これどうぞ」
「おたま?」
香苗ちゃんがいそいそと持ってきて彩歌さんに渡したのは、台所にあったおたまだ。
冬瑚を床に下ろして、おたまを右手で持って、左手にピシッと当てて良い音を鳴らす。不思議なことに、おたまが扇子のように見えてきた。時代劇でよく見る、お座敷で悪事の相談をするあれだ。
「平伏せよ~」
「はは~っ。お代官様~」
「苦しゅうない、苦しゅうないぞ」
なにこれ楽しい。お代官様と下っ端ごっこ、思った以上に楽しいぞ。
「お代官様!敵襲です!我々の密会の情報がどこからかバレたようであります!」
なぜか敬礼しながら会話に入ってきた香苗ちゃん。世界観がめちゃくちゃだよ。
「迎撃態勢に入る!各員、戦闘位置に着け!」
「「「イエス、マム!」」」
お代官様どこいった?おかしいな、さっきまで扇子に見えていたおたまが、ライフルのように見えてきた。
俺以外の3人がノリノリで彩歌さんに敬礼をして、それぞれが思い思いの場所で謎のポーズを決める。
ピーンポーン
「え、本当に敵が来た?」
敵というか、客だけど。なんてタイミングの良さだろうか。
『入るねー!』
ガチャ
入るね!?
「あ!津麦だ!」
なんだ、津麦ちゃんか。知らない人が普通に入って来たのかと思った。
「どうやら冬瑚の友達が遊びに来たみたいです」
「そっかー。もしかしてこの前、ピアノを教えてたっていう子?」
「よく覚えてますね。その子ですよ」
チラッと話題に出したくらいだったが、そんなことまで覚えていたとは驚きだ。
「だって、他でもない智夏クンの話っスからね」
「彩歌さん……」
ン~!!俺の彼女、百五十億点!いや、点数なんて付けられない!彩歌さんは宇宙を通り越して銀河級!
彩歌さんに何百回目かわからないくらい惚れ直していたとき、来客がリビングに入ってきた。
「ちーっす、お邪魔しま……?」
「田中も来てたのか。よっす」
「よっす……。しばちゃん、そこの美人は誰?」
「誰って、彼女だけど」
「は。初耳なんだが」
「え?田中に言っ………」
俺が付き合ってることを学校で知っているのはえっと、エレナと井村と、あと松田さんか。あれ?おかしい。記憶を辿って辿って辿って。
「………………てなかった」
そういえば、田中になんも言ってなかったな。
~執筆中BGM紹介~
うみねこのなく頃により「片翼の鳥」歌手・作曲:志方あきこ様 作詞:波乃渉様




