表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

377/467

なんちゃってね



「夏兄、ごめんね。わざとじゃないの」


朝っぱらから全身に水を浴びて、びちゃびちゃになったが、それに落ち込んでいるわけではなく。


「わざとじゃなくて、自然と避けちゃっただけっていうか。あのー、えと、」

「うぐ……」

「何を言っても夏くんにダメージがいっちゃうね」


冬瑚に頭なでなでを拒絶されて、反抗期が来たんだと思って、これから「クソジジイ」とか呼ばれるのかなとか思ったら鼻の奥がジーンと熱くなっただけだ。


べ、別に泣きそうになってるとかじゃ、ないんだからね!


「夏兄、泣いてるの?」

「これは涙じゃなくて、さっき浴びたお水が流れているだけっス。絶対の絶対に」

「へー、そうなんだー」


彩歌さん、最後の念押しって必要でしたか……?明らかに嘘っぽくて、冬瑚が色の無い瞳で棒読みの返事をしたんですが。


「冬瑚、俺は泣いてないぞ。ただちょっと、将来に思いを馳せていただけで」

「ふーん。そういうことにしといてあげるよ」


絶対に信じてないな。言えば言うほど嘘っぽさが増すが、兄が泣いていたなんて思われたくないし……。


「夏兄、男とか兄とか関係ないんだよ。……泣きたいときは泣いてもいいの」


ズキューン!


「「「と、冬瑚さん……!」」」


く、クールビューティ冬瑚さん爆誕!!


その場にいた大人たちが全員、冬瑚の名言に心臓を鷲掴みにされてしまった。


「なにやってんだ?ほら、タオル。あと、風呂も用意しといたから」

「お母ちゃん」

「誰がお母ちゃんだ」


タオルを受け取って、水気を拭きとっていると秋人が意地の悪い笑みを浮かべた。


「ついでに涙も拭いておかないとな、兄貴」

「あー、そうだね。お兄ちゃんぴえんぴえんだよ」


……ぴえんだっけ?ぱおん?ぽよんだっけ?ま、いいや。こういうのは諦めるのが早い。


「ふふっ」


諦めて遠くを見ていたら、隣から可憐な笑い声が聞こえてきた。


「…………彩歌さん」

「ご、ごめんね。ふふ、あんまりにも面白くって、思わず」


笑いすぎて目の端に涙を浮かべる彼女の姿は、朝露のように輝いていた。


可愛いから許す。


「熱々のラブラブ!」

「あ~、あっちぃ」

「お熱いねぇ、お2人さん?」


冬瑚は目を輝かせて俺たちを見ており、秋人は水道のホースで水をまきだし、香苗ちゃんはからかうような顔をしているのかと思いきや、まるで眩しいものを見たような顔をしていた。


香苗ちゃんのこの表情の理由は、やはりヨシムーへの恋心か。


ふむ。ここはひとつ、親孝行をしますか。


「香苗ちゃん、ヨシムーとデートでも行ったら?」

「へっ!?」

「お互いに好き同士なわけだし」

「関係を動かすのは、俺が高校を卒業したら、って話だけどさ。2人でどっかに行くくらい、いいんじゃないかな?」

「で、でも」


気の利く弟妹達は、すーっと気配を消し、彩歌さんは仏のような顔で行く末を見守っている。


なぜ急に、香苗ちゃんをつっつき始めたのか。


それはイタズラを仕掛けられ、からかわれたから……ってわけじゃない。絶対の絶対に。


「香苗ちゃんが不安になるかと思ってずっと黙ってたけど、ヨシムーって実は、」

「じ、実は?」

「女性教諭からモテる」

「……っ!」


ちなみにここで言う女性教諭の定義は、既婚者であり、あと数年で定年を迎えるベテランの教師陣だ。ヨシムーは寝癖を付けて学校に来たり、ゆるゆるのジャージで教壇に立つので、女性教諭たちに目を付けられている。


この前、職員室に行ったら女性教諭3人に囲まれて、延々とお叱りを受けていた。これをモテると言わずして何と言う。……ただの問題教師か。


「モテる?まさか。モテるってあのモテるだよね?え、モテるのはモテモテの人だけだよ。あれ?モテるってなんだっけ」


面白いくらいにわかりやすく動揺している香苗ちゃん。


やり返したい気持ちはあったけど、本当にそれだけなくて。俺たちを救ってくれた香苗ちゃんには、幸せになってもらいたいから。


「香苗ちゃん。押せ押せ、だよ」


サムズアップとドヤ顔でアドバイスを送ると、ようやくからかわれていたことに気付いたらしい。


「もー!大人を揶揄うもんじゃありません!早くお風呂に入ってきちゃいなさい!」

「はーい」


真っ赤になってぷんすか怒っている香苗ちゃんを見て、さすがにやりすぎたかなと思ったとき。


「彩ちゃんも一緒にお風呂に入らなくて大丈夫?」

「「ふぁ!?」」


ドタドタっ


家に入るタイミングで変なことを言われたので、思わずズッコケてしまった。


「なんちゃってね」


さすが香苗ちゃん。カウンターを決められたら即座に右フックを決めてきた。


お風呂はもちろん一人で入りましたよ、えぇ。

~執筆中BGM紹介~

ようこそ実力至上主義の教室へ 2nd Seasonより「人芝居」歌手:渕上舞様 作詞・作曲:佐高陵平(Hifumi,Inc.)様

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ