かっちょよかった
息するように誤字。毎度毎度、すみません。。。読者の皆様、本当にいつもありがとうございますー!
起きたら部屋に誰かがいる、という現象。この家では稀に発生することである。慣れというのは怖いもので、驚きはしつつもすんなりと受け入れてしまっている自分がいる。
「おはよー」
顔を洗ってリビングに入ると、そこには誰もいなかった。先にリビングに行っていた彩歌さんまでいなかった。
「みんなどこに、」
「――!―、――」
家の中を探そうかと思っていたら、庭から楽し気な話し声が聞こえてきた。庭といえば、昨晩に冬瑚が庭に何かを隠していたんだった。
声は4人分聞こえるので、俺以外の全員が庭に出ているらしい。
閉じていたカーテンに手をかけて、一息に開ける。
「あ!夏兄きた!」
「おせぇ」
「おはよ~」
「智夏クン、覚悟」
朝日に目が慣れるまで少し時間がかかり、徐々に輪郭が見えてきた。
冬瑚がじょうろを持ってぴょんぴょん跳んでいて、秋人が縁側に座っていて、香苗ちゃんがスマホで写真を撮っていて、彩歌さんが……うん?いま「覚悟」って言った?
彩歌さんの手には蛇口からつながっている青いホースが。その根元、蛇口に手をかけているのは、さっきまで縁側に座っていた秋人。……これはまさか。
「発射!」
「ま、」
ビシャーーーーーーーーーーーー!
強烈な水圧が顔面に炸裂した。
「あびゃ、さっば、かおばばばばばば」
自分でも何を言っているのかわからなかったが、とりあえずやめんかい。
全身がびちょびちょの濡れネズミになったところで、ようやく水攻撃が止まった。
「これを考えた人は誰かな?怒らないから正直に言ってごらん?」
「「「香苗ちゃん」」」
「だろうね」
「てへっ」
水を浴びるとは思わなかったが、なんとなく眼鏡を外してきてよかった。べちょべちょの髪をかきあげて、元凶の香苗ちゃんに非難の眼差しを送る。
「うひゃー……」
「いまの夏兄、かっちょよかったね」
「うん!」
「ちゃんとさっきの夏くんの髪かきあげイケメンシーンもばっちり動画に撮っておいたから、いま送るわね」
「ありがとうございます!」
「待て待て待てぃ」
髪が顔に張り付いて邪魔だったからどかしただけで、”髪かきあげイケメンシーン”なんてした覚えはないぞ。
「タオル取ってくるから家に上がんなよ」
「へーい」
秋人は俺がこの悲惨な格好のままリビングを歩き回るような奴だと思ってるのか……?
女子3人はスマホを取り出してキャッキャしているし、秋人はタオルを取りに行ってくれているので、俺は暇だ。
「そういえば、冬瑚は庭に何を隠してたんだ?」
まさか俺を庭に誘導してびちゃびちゃにするための壮大な伏線か?いやそんなわけないよな。ない、よな?
「じゃじゃじゃじゃーん!これ見て夏兄!」
サンダルを履いて庭に出ると、ぷきゅぷきゅと変な音が鳴った。水浸しの状態でサンダルを履いたらこんな面白い音が鳴るのか。新しい発見。
「うん?これは、アサガオか?」
「正解!アサガオのね、ふたばちゃん!」
「双葉か」
葉っぱの形に見覚えがあったのだ。
「俺も育てたな~。懐かし」
アヒルの足みたいな、独特な形の葉っぱ。たしか、小学校の授業で育てていたような。
「小学校から持って帰ってきたの!観察日記をね、絵と一緒に書くから、えと、その……」
急にもじもじしながら、そっと俺を見上げてくる冬瑚。これは冬瑚が俺に頼みごとがあるけど、遠慮しているときの姿。
「冬ちゃん、大丈夫だよ」
「頑張れ!」
香苗ちゃんと彩歌さんに背中を押され、冬瑚が意を決した。
「冬瑚と一緒に絵を描いてください!」
「わかった」
最近、忙しさにかまけて冬瑚とあんまり話せてなかったからな。まったく、こんなことで遠慮するなんて、可愛いやつめ。
いつものように頭を撫でようと手を伸ばす。
「夏兄ダメ!冬瑚に触っちゃダメ!」
「……ひょ」
こ、これはまさか「お父さんのと洗濯いっしょにしないで!」っていうあれ!思春期&反抗期!
いつか来るかもしれないと思っていたが、まさか今日からなんて。成長を喜ぶべきなんだろうけど、なでなでを拒絶されたことなんて今までなかったから、精神的ダメージがえぐい。これからなでなで無しで生きていくのか……あ、泣けてきた。これから「近寄らないで」とか「うるせぇジジイ!」とか言われるんだろうか。うぅ……。
「智夏クン、落ち着いて。濡れた手で撫でないでって意味っスよ。一生触るなって意味じゃないっス」
「一生ジャ、ナイ……」
処理が低速になった脳みそで言葉をゆっくりと噛み砕く。
「そうっス。反抗期はまだっス」
「まだ……」
そっか。まだ反抗期じゃないのか。
「夏兄、大丈夫?」
「大丈夫だけどだいじょばない」
今は大丈夫。誤解だってわかったから。でも将来、クソジジイとか言われたら泣いちゃうかも……。
~執筆中BGM紹介~
青の祓魔師(劇場版)より「REVERSI」歌手:UVERworld様 作詞:TAKUYA∞様 作曲:彰様 / TAKUYA∞様




