表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

374/467

大根役者

後半は冬瑚視点でほのぼの。



「姫ェ!俺と恋ノ、」

「カット!田中、お前がふざけてるわけじゃないのはわかってる。けど、もう少しどうにかならないもんかね」

「俺も上手くなりたい、いや、人並みに見れるくらいにはしたいんだが……」


裏返る声、無駄に跳ねる語尾、意味不明なイントネーション。


それらが奇跡の不協和音を織りなし、大根役者(田中)を生み出している。


クラス全体で行う劇の練習の他にも、田中のために別に練習時間を設けた方がいい、という井村の言葉によって俺たちは今、学校から少し離れた公園に来ていた。


学校の近くの公園にしなかったのは、田中が練習風景を知り合いに見られるのは恥ずかしいと言ったからだ。どこで羞恥心を出しているんだか。


「ていうか、なんで俺が演技が下手くそで、しばちゃんがそこそこ上手いんだよ!普通こういうのはしばちゃんが下手くそなのがテンプレだろ!?」

「は?」


演技が行き詰りすぎて錯乱してるな、田中め。


俺の演技はわりと上手いらしい。そもそも俺のセリフは田中みたいに歯が浮くようなセリフでもないし、長くもない。セリフ自体は短めで、あとはピアニカを吹いて歩くだけだ。といっても、その”吹いて歩く”が難しいんだけど。


「御子柴はなんでも平均点以上は取ってくるよな~。……なんか腹立ってきた。欠点とかないわけ?」


ド直球に聞いてくるじゃん。


他人の目から見た俺は、平均点以上を取る優等生に見えているらしい。良く見られるのは嬉しいが、実際は優等生とは程遠いことを俺が一番わかっている。


けれどまぁ、それはそれ。こういうときは冗談で返した方が場が盛り上がる。ソースは俺自身。ここ数年の経験則だ。


「欠点はない」

「お前もしかして、神?」

「……頭が高いぞ人間。この方をどなたと心得る。このお方は偉大なる我らがG・O・D☆であらせられるぞ」


俺が冗談を言って、井村が冗談で返して、田中がさらに乗っかってきた。


……いや、え?


田中、いまお前、普通に演技してなかったか?


井村もそれに気づいたようで、田中にゴーサインを出した。


「田中!その調子で、もう一回セリフを言ってみろ!」


田中が神妙に頷いて、口を開く。


「ヒメぇ!」

「「ダメだこりゃ」」


なんでさっきよりひどくなってんだ。





―――――――――――――――――――――





「よいしょ、よいしょ、っと」


小学校から家まで苦労しながら、アサガオの鉢を持って帰ってきた。


うちの小さな庭の、日当たり抜群の場所にアサガオの鉢を置き直す。


家の中からも見える場所。うん、満足!


「あ、そうだ!香苗ちゃん達には内緒にしとこう。みんな、いつ気付くかなー?」

「にゃーーーーおう」

「いやいや、さすがに気づかないわけないよ~」

「にゃうーん」

「……気づかなかったらどうしよう」


縁側に座り、白猫のハルと作戦会議をする。


冬瑚は庭の分かりやすい場所にアサガオの鉢を置いたから、みんなすぐに気づいてくれると思った。だけど、ハルはそう思わないらしい。


夏兄たちが帰ってくるのは暗くなってからだし、確かに冬瑚が言わなきゃ気づいてもらえないかも。それは寂しい。


「でも、「あ!アサガオがある!いつの間に?」ってみんなに驚いてほしいんだもん」


サプライズ、というやつを冬瑚もやってみたい。


ハルが縁側に座る冬瑚の腕に小さな頭をぐりぐりと押し付けてくる。ハルをよしよしと撫でつつ、アサガオの配置を考え直す。


「んー。いっそのこと、真ん中に置いちゃう?」

「ごろろろろろ」

「うん!真ん中で決定だね!」


べったりとくっついて甘えてくるハルを一撫でして、再び庭に出て、アサガオを庭の真ん中に置き直した。


「これでみんな、絶対に今日、気付くよね!ふへへ」


皆の驚く姿を思い浮かべて、笑いが止まらない冬瑚なのであった。




智夏たちが帰ってきたときには、すっかり日も暮れて、カーテンも閉めていたため、その日に気づくことはなかった。


「なんでー!!!」

「な、なんだ?どうした?」


カーテンで隠れることに今さら気づき、膝から崩れ落ちた冬瑚を心配してみんな集まってくれた。


今日、気づいてもらえなかったのはしょうがない。本番は明日にしよう!


「香苗ちゃん、秋兄、夏兄!明日!明日は絶対、庭を見てね!」

「庭に何かあるの?」

「秘密!」

「さっきカーテンを閉めるときにチラッと見え、」

「秋兄!シーっ!」

「何か隠してるのか?」

「か、かか隠してないもん!だよね、ハル!」

「…」

「ハル~!」


なんでこんなときに黙っちゃうの!サプライズするって言ったじゃん!!







その日、冬瑚が寝た後。


「庭に何があるのか見てみない?」

「え?冬瑚と一緒に見た方がいいんじゃ……」


香苗ちゃんと夏兄はどうやら冬瑚がいないうちに庭を見ようとしていたらしい。


「でも気になるでしょ?」

「それはまぁ、そうだけど」

「それじゃあ、カーテン開け……あれ?重くて開かない」

「にゃーん」

「「ハル!」」


ちゃんとハルが阻止してくれたけどね!愛してる、ハル!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 田中と鈴木混雑しまくってんねw 自分のことに鈍い以外確かに欠点らしい欠点のないしばちゃん
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ