揚げパン
誤字報告ありがとうございます!
七夕の今日は家族集合回です。
「夏兄夏兄夏兄夏兄!」
「どうした?」
学校祭準備のため、普段より遅めに帰宅すると、玄関で最愛の妹である冬瑚が出待ちしていた。玄関に入るなり飛びついてきて、ほんとにお兄ちゃん困っちゃうな~ハハ!
「今日はね、学校の先生に褒められたの!」
「すごいな!何を褒められたんだ?」
「あのね~」
リビングに冬瑚を抱えて入り、そのままソファーで2人並んで話を聞く。が、思考は別の方向へ。
劇場版『月を喰らう』の興行収入は当初の予想よりも大幅に上回り、上層部や経営陣はほくほく。7月から始まった新アニメ『四界戦争』は、まだ俺たちの陣営は放送されていないが、滑り出しは上々どころか、なんと海外の人たちからも反響を得た。世界中から注目されるアニメに自分が携われたなんて……。
「それでね、音楽のときにね、」
「うんうん」
週刊誌の記事のことも世間からはすっかり忘れられたようで、俺に関するツイートは映画やアニメに関すること以外、見なくなった。冬瑚も普段通りに学校に通えているようで、こうしてニコニコしながら今日のできごとを話してくれる。
「兄貴帰ってたんだ。もうすぐ夕飯できるから」
「ただいま秋人。いつもありがと」
「ん」
秋人は……自分でなんとかしたんだろうな。だって秋人だし。
「でね、正体はのこぎりだったの!」
「へぇ~、のこぎりかぁ。……え、のこぎり?」
記事を書いた記者と出版社を訴える準備をしていたドリボだったが、記事を書いた本人が直接謝りに来たこと、映画の評判や興行収入に大きな影響はなかったこと、なにより当事者である俺が一緒に頭を下げてお願いしたことが決め手となり、今後一切関わらないことを条件に裁判の話は取りやめになった。
「給食で揚げパンが出てね~」
「揚げパン?」
「揚げたパンだよ!きなこがまぶしてあってね、すっごくおいしい!」
その後は平和そのもの。
普段通りに学校生活を送り、学校祭の準備をし、家に帰れば家族に癒され……。
「みゃ」
「ハル!ただいま~」
すっかり大きくなった白猫のハルも癒しの存在だ。
前足の下に手を入れて抱っこすると、後ろ足で顔を蹴られた。
「なにも全力で蹴らなくてもよくないですか?ハルさんや」
「ぶろぉぉぉぉおおおお」
「どういう返事?」
「早く下ろせって言ってる」
「え、冬瑚はハルが何を言ってるかわかるのか?」
「まぁね。だよね、ハル~?」
「にゃ」
俺の手から液体のようにすり抜けて、冬瑚に抱っこをせがむハル。振られたのは残念だけど、癒しが癒しを抱っこしているのはもう癒しでしかない。つまり癒しが癒しで癒しを……。
「癒しがゲシュタルト崩壊した」
「なに面白いこと言ってるの?夏くーん」
「っ!?」
びっっっっっくりしたー。もしかして心臓、耳から飛び出た?
「大丈夫、耳から心臓飛び出てないよ」
「心を読まないで、香苗ちゃん。それと、おかえりなさい」
「うふふ、ただいま可愛い子どもたち!」
「みにゃ」
「ハルもただいま~!」
帰宅直後の香苗ちゃんが冬瑚の腕からハルをさらい、チューをしようとして顔面キックを喰らっていた。
「夏兄と一緒だね、香苗ちゃん」
「なちゅくんも拒否られぶぁの?」
「なんて?」
香苗ちゃんのほっぺたにハルの後ろ足が食い込んでいるまま話し始めたので、何を言っているのか聞き取れなかった。
「ごはんできたぞー」
「「「はーい」」」
「ハルは今日はご馳走だぞ」
「にゃんにゃんにゃにゃん!」
……猫って絶対に人が話す言葉を理解してるよな。それともうちの子が天才なのか?
~執筆中BGM紹介~
サザエさんより「サザエさん」歌手:宇野ゆう子様 作詞:林春生様 作詞:筒美京平様




