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台本



「それじゃあ松田さんの代打として演劇部のエースたる、この井村が指揮を()る!我に続けぇい!」

「「「うぇーい」」」


いまから出陣か?


学校祭で3年生がクラスごとに披露する劇の練習だろ?しかも戦国時代がモチーフでもないし。井村の掛け声が勇ましすぎて、戦記物が始まるのかと思ったわ。クラスメイト達の気の抜けた返事で、現実に引き戻されたけど。


元気な井村たちを尻目に、俺は女子2人とドアの近くで向き合っていた。


「井村君だけじゃ心配だし、御子柴君、監視頼んだわよ」


松田さんが来れなくなったことはみんなに伝えたが、保健室に行ったことを教えたのは、松田さんと仲の良い工藤さんにだけ。工藤さんに伝えたら一つ頷くと松田さんが教室に残していった荷物を彼女のカバンに入れた。多分、松田さんは今日はそのまま帰るだろうから、荷物を届けに行くと言っていた。


「任せたわよ、チーちゃん」


エレナは学校祭運営委員の仕事の時間になったので、ここでお別れだ。え?庶務の俺はどうすんだって?今日はクラスの劇の練習を真面目に受けないと。昨日は学校と一緒にサボっちゃったから。


「出来る限り頑張るよ。工藤さんは松田さんのこと、よろしくね。エレナはまぁ、頑張って」

「「2年後に、あの場所で!」」


君らは海賊王にでもなるんかい?麦わら帽子でも持ってこようか?


「御子柴ー!もとやんが転んだー!」

「あー!台本にお茶がー!」

「もとやんの制服がー!」


もとやんんんんんん!?


なぜか、もとやんがドジを発動したら俺を呼ぶシステムになってる。ま、行くけどさ。行くけどみんな、俺を呼ぶ前にもとやんを助けてあげてくれ。ペットボトルがもとやんの頭の上にぶっ刺さったままだよ。


「……師匠」

「師匠言うなし。もとやん、とりあえず立とうか」


逆さになったまま、もとやんの頭に刺さった空っぽのペットボトルを抜き取り、周辺の惨状を確認する。


空っぽのペットボトル、散乱したお茶、ぐっしょりと濡れている誰かの台本、半べそをかいているお茶に濡れたもとやん……。


これは予想だが、床に置いてあったペットボトルをもとやんがうっかり踏んでしまって、すっ転んで、運悪くキャップが開いてしまって、中身をぶちまけつつ、もとやんが地面にダイブしちゃったんだな。


「怪我はないな」


立ち上がったもとやんの動作に不自然な動きはなく、怪我はないみたいで良かった。


もとやんは盗賊の頭領役で派手な動きもあるから、本番前に怪我をしたわけじゃなくて安心した。あ、もちろんもとやんが怪我しなかったことが一番良かったから!


「受け身は取ったけど……ごめん。御子柴の台本を」


あのぐっしょり濡れてる台本って、誰かのじゃなくて俺の台本だったのね!そういえばあそこに台本を置きましたわ!


「まぁ、俺のセリフは少ないから覚えてるし、大丈夫だよ。だからそんな顔するなって。わざとじゃないのはわかってんだから」


台本を持ち歩かなかった俺も悪い、かもしれないし。


カバンの中から使っていないタオルを取り出して、もとやんの濡れた頭をわしゃわしゃと拭く。気分的には水遊びをして帰ってきたワンコを拭いているような……。


「それ楽しそ~」

「選手交代する?」

「するするー!」

「え……ちょ、……にぎょォー!」


途中でクラスメイトの女子にタオルを渡して、もとやん拭き係を交代する。もとやんは途中で女子にタオルでわしゃわしゃされていたことに気付いて変な声を上げていたけど、恥ずかしそうに小さくなって大人しく拭かれていた。それを羨ましそうに見る男子共。うむ、これぞ日常。


「さて、これをどうしようか」


びちゃびちゃになった台本は、松田さんが魂込めて作った大切なものだから、簡単においそれと捨てたくない。


タオルをもう一枚取り出して、台本の水気を1枚ずつ丁寧に吸い取っていく。紙が破れないように慎重に。


「御子柴ってタオル何枚持ってんの?」


地道に1ページずつ水気を吸い取っていると、通し練習で出番が終わった鈴木が隣に座って聞いてきた。


「3枚だよ。もとやんのドジ用に」

「だから御子柴がもとやんのお助け係になるんだよ」

「え、これが原因だったんだ。てっきり絆創膏と消毒スプレーを持ち歩いていることが原因なんだと思ってた」


小さい救急バッグ的なものを持ち歩いているから呼ばれるんだと思ってたけど。かばんから、秋人にもらった小さなポーチを取り出して、中身の絆創膏やらを鈴木に見せた。


「すげぇな。これ全部、」

「もとやん用」

「絆創膏も消毒スプレーも、」

「もとやん用」

「さすがっすわ」


あらかた水気を吸い取ったところで、窓際に台本を開いて置いて、天日干しをする。


「7月の太陽、どうか台本を乾かしておくれ」

「なー、御子柴。俺さー」


向こうでは井村が大立ち回りをして盛り上がっている。俺たちの会話に気付く者は一人もいない。


「学校祭の前にカンナに告白する」

「………おう」

「御子柴が照れてどうすんだよ」


だって面と向かって堂々とそんなこと言うからさ~。俺が何だか照れちゃったじゃんよ。


「なんで俺にそれを?」

「なんとなく」

「うまくいくといいな」

「おう」


女子に引かれるような発言ばかりをしていた鈴木が、好きな人ができてからはぱったりとまともになった。人を想う力ってすごいんだな。


「しばちゃーん!もとやんが井村と衝突事故ー!」

「なんだってー!?」

~執筆中BGM紹介~

花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~より「イケナイ太陽」歌手・作詞・作曲:ORANGE RANGE様

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[気になる点] ん?カンナじゃなくてエレナなのか鈴木よ……
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