負い目
更新日が1日遅れてすみませんでした……。
過去に囚われない人生を、歩みたい。
何度も何度もそう思った。そしてその度に諦めた。そんな人生、世間が許してくれない。
でも、世間ってなんだろう。
私をずっと責め続けるものだけが世間?無名の歌い手として活動していたときに、褒めてくれた人たちも世間の声?
わからない。私はいったい、何に囚われているの……?
辛い現実を直視できずに目を閉じて、私たちを非難する声から耳を塞ぎ、歌手になる夢は叶わず、メロディを口ずさむことすら無くなった。
私の中に残ったのは、呪いのような「父を忘れないでほしい」「消えてなくなりたい」という気持ちだった。これが自分の気持ちなのか、狂ってしまった母の口癖が移ったのか、もう、わからない。
ただ、全てを恨んだ。なんで私はあっち側じゃないんだろうって。
「良いとか悪いとか、2択じゃなきゃダメか?」
みんな、シンプルな考え方が好きなんだ。悪い奴か、そうじゃないか。排斥される者と、する者と。
小さい子だって知っている。悪い奴は、排斥していいんだって。
「あの記事を書いたことと、弟たちには謝ってほしいと思ってます。……けど、その後は幸せに、なってほしいとも思ってます」
他人にこれを言われたら、鼻で笑い飛ばしていただろう。人間の汚い部分を知らない、温かい場所でぬくぬくと育った奴らの大好きな綺麗事だ、って。
善人ぶった奴に、私の境遇を哀れんで似たようなことを言われたことがあった。
『あなたは何も悪くない。あなたには幸せになる権利があるのよ』
これをクラスメイト達の目の前で言ったのは、転校した先の中学校の教師だったか。自分はこんな子供にも優しく振舞える善人ですよ、とアピールしているようで。心底気持ち悪かった。
私の気持ちなんて1ミリもわからない、わかろうともしない奴らの上辺だけの偽善的な言葉に、吐き気がした。
「家族を失った辛さは、わかります。それを悲しむ暇もなく、更なる絶望が降りかかった気持ちも」
記事を書く前に、彼の過去は一通り調べたからわかる。
彼と私は、本当によく似た立場にいたと。
世間から糾弾され迫害された私と、父親から虐待を受けて孤立していた彼。
なんでいま、こんなにも違うんだろう。私は、他人を傷つけることでしか世界に触れられない。
苦いコーヒーでも飲めば、こんな最悪な気分も少しはマシになるだろうか。
「私は私を許さない。許す気も、許される気も……」
飲んだコーヒーのせいか、彼の言葉を浴び続けたせいか。自分でも驚くほどに、弱い部分が出た。
「そうですか。それもそれでいいんじゃないですか。これから、あの事故のことをこんな風に掘り返すことが無かったら、もうなんでもいいです」
な、なんでもいいって……。
「正直、過去のことで振り回されるのはもううんざりなんだ!俺は、俺の人生を生きる!」
……ずっと理性的だった彼が――御子柴智夏が、本音をさらけ出した。だからだろうか。まるで共鳴でもするかのようにこみ上げた。
「自分の人生を生きることに、負い目を感じないの?」
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「自分の人生を生きることに、負い目を感じないの?」
負い目と言われて、まず最初に浮かんだのが父だった男が毎日のように言っていた言葉だった。
『お前が代わりに死ねば良かったんだ』
こんな言葉に言い返さなかったのは、心のどっかで負い目を感じていたからだ。でもそれは、過去の話。
「感じません」
兄は――春彦はそんなの望まないから。それに、俺の幸せを望んでくれている人が大勢いる。
「俺は幸せになるために生まれてきたんだと、胸を張って言えるような大人になりたい。だから、負い目を感じている暇があったら、前に進みます」
後ろを向いて立ち止まるも、前を向いて一歩を踏み出すも、当人の自由。
「……前なんて見れない」
深く俯きながら、零した言葉は震えていた。
「私が前に進むことは許されない……」
辛い記憶が、破れた夢が、犯した罪が、その体に重くのしかかって、先を見据えることすらかなわない。
「ええいッ!うだうだうだうだと面倒くさい!たとえ世間が許さなくても、神が許さなくても、……俺が許します!だからさっさと前を見て歩け!」
~執筆中BGM紹介~
86-エイティシックス-より「pianoⅧⅥ-ⅳ」作曲:澤野弘之様




