余白
週刊誌に記事を出した初日の反応はこちらの予想通り。
『人殺しが関わっている映画なんて見ません』
『内容が嘘だとしても、火の無いところに煙は立たないって言うし』
『こんなことで『ツキクラ』が有名になるのは不快』
いや予想以上に盛り上がってくれた。
けれど、あいつと関わりのある有名人たちが記事の内容を否定するメッセージを発信したことで、状況は一変してしまった。
『横浜君が言うなら信じます!』
『普通に考えて、人を殺してたとしたら警察が動かないわけないでしょ』
『これだからマスゴミは信じられん』
あいつを叩いていた奴らが、一瞬でマスコミ批判に転じた。匿名の未成年を批判するよりも、マスコミ批判をした方が盛り上がると察したのか。
話はどんどん雪だるま式に大きくなっていく。
計画していた盛り上がり方とは違っていたが、あの人がゴールには着実に近づいていた。
「これで、いいんだよね?優さん……」
共犯者になると決めたことに悔いはない。でも、暗い道を血だらけになりながら走る彼女を、見たいわけではないのだ。
あいつだったら、こんな道は選ばなかったのかな。
「やっと見つけた」
「ッ!」
「秋人が……、弟が世話になったみたいだね。天貝」
なぁ、教えてくれよ。御子柴智夏――。
―――――――――――――――――
「ほい、頼まれてたもん」
「ありがと、田中」
週刊誌が出てから5日。田中に頼んでいた調査結果を紙媒体の資料でもらっていた。田中曰く、紙の方が後処理しやすいとかなんとか。
「しばちゃん、読む前に言っとくけど」
「なに?」
「悪いのはあっちだからな」
「それは、どういう……」
「じゃ、俺は帰る。それ、読んだら燃やしてくれ」
えぇ……。
不安だけ駆り立ててさっさと帰ってしまった田中。
受験生のため、下級生より短めの学校祭の準備時間が過ぎ、3年生は大半が帰ってしまった。放課後の、誰もいない教室で夕日を浴びながらもらった資料に目を通していく。
A4用紙3枚に渡って書かれていたのは、とある女性の半生。
「………マジか」
関わりなんて、無いと思ってた。
関わらずにいられたら、良かったのに。
でもそれは俺だから思うこと。彼女は、俺を……俺たちを許せなかったのだろうか。
ページはまだ続いていて、そこには協力者の存在が書かれていた。しかもこっちは顔写真付きで。
「こいつどっかで……。あー!」
この顔、どっかで見覚えがあると思ったら、球技大会で意味深なことを言ってたやつだー!!
衝撃の事実に思わず立ち上がる。
……そういえば、週刊誌が出る前、冬瑚に話しかけたのは女、秋人に話しかけたのは俺と同い年くらいの男って言ってたな。
こいつかー!!
教室を飛び出して、天貝とかいうやつのクラスに向かう。
「頼もーう!!」
たのもーう、もーう、う……
うん、誰もいない!さて、どうしよう。確実に会えるとしたら来週の月曜日だが、3日間もこのモヤモヤを抱えたまま生活したくはない。
何かヒントはないかと握りしめていた資料に再び目を落とすと、最後のページの余白に手書きで『**公園』と書かれていた。
この公園って、秋人が天貝と話したっていう公園の名前だ。つまり、この公園に行けば会えるかもしれないってことか……。
「田中こわっ!」
どこまで俺の行動を予測してんだ!?
「怖いけど、今はありがたい!」
焼却炉に資料を放り込み、公園に走った。
緑が茂った広い公園の、人の気配の無い小道の奥に、小さな東屋があった。
「やっと見つけた」
「ッ!」
「秋人が……、弟が世話になったみたいだね。天貝」
俺が目の前にいたことに驚いていたが、すぐに不気味な笑みを張り付けた。
「よくここにいるってわかったね、御子柴。俺を探してたってことは、気づいたんだ?思ったより早か、」
「お前たちの目的はなんだ?なぜあの女に手を貸している?」
わからない。こいつらが何を望んであんな記事を書いたのか。
「さぁ?君の弟を虐めるためじゃない?」
「真面目に答えろ!」
資料に書いてあったこと、これまであったことから推察すると、記事を書いた女とそれを手伝っている天貝この2人が俺たちの……。
天貝の、偽物くさい笑みが剥がれ落ちた。飄々と揶揄うような声のトーンも低くなり、短く一言言い放った。
「惚れた女がそう望んだから」
「……は?」
「なぁ御子柴、俺は間違ってたのかな……」
~執筆中BGM紹介~
映画 僕だけがいない街より「Hear~信じあえた証~」歌手:栞菜智世様 作詞:濱名琴様 作曲:野間康介様




