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お姉様(漢)

6月ですね。



妹が心配で兄2人が小学校に乗り込む……。うん、どこにでもよくある兄弟愛の話だな。そう思い込まないと自分がただのヤバい奴に思えてきてしまう。


「兄貴」

「なーに?」

「学校サボろう」

「いーよー」


弟からこのまま学校をサボらないかと魅惑的な誘いを受け、喜んで返事をした。


俺が遅刻する言い訳をしてくれていると思われる田中には申し訳ないので、「サボります」とメッセージを送った。すると3秒後に『おk』と返事が返ってきた。


「おk?」


おーけーってことか、理解した。声に出すとわかるって、なんだか面白い。


「で、秋人君や?学校をサボって何をするんだい?」

「そりゃもちろん映画を見に行くに決まってる」

「決まってるのか」


なるほど。学校をサボっている世の学生たちは映画を見に行っている、と。……この知識、役に立つかな?


「もうチケットも取ったから」

「はやっ!え、もしかして計画的にサボりの予約いれてた?」

「なんだよ、サボりの予約って……」


あまりの用意の良さに、今日は元々サボる予定だったのかと疑ってしまった。


「兄貴がスマホいじってる間に、僕はスマホで映画館の席を予約したってだけ」

「ふぁー。これがネット社会ってやつか」

「ジジイかよ」


気分的にはジジイだよ。電子決済とかわけわからんのですわ。


「なぁ秋人」

「なに」

「俺たちいま、学校をサボって制服で街中を闊歩(かっぽ)してますけれども」

「そだな」

「この時間に制服を着た学生が歩いていたら、補導の対象では?」

「そだな」


そだなって。その冷静さが羨ましいよお兄ちゃんは。


すれ違う人たちも「この時間に学生さん?サボりかしら」みたいな目で俺たちを見ている気がするし。いまさら不安になってきた。


「このゾクゾク感がたまらない」

「ほわっ!?」


補導されるかされないか、このギリギリの賭けのような今の状況を楽しんでいる、だと!?


こやつ、ますます香苗ちゃんに似てきたな……。


「でも、兄貴のノミの心臓が破裂しそうだし、着替えるか」

「どうやって?」

「ここで」

「ここって……」

「ささ、入った入った」


嫌な予感がした俺が引き返す前に、秋人が背後に回りこんで後ろからぐいぐい押してきた。


そりゃ、補導されるのは嫌だけど、()()も嫌だ~!





30分後。


「兄貴……、いや、姉貴か。似合いすぎて軽く引く」


秋人に連れて行かれたのは、秋人の謎の知り合いのお兄さんのようなお姉様の家だった。そこであれよあれよと服を着せられ、ごっつい手で繊細なメイクをされ、脱走を試みるも秒で捕まり、かつらを被せられて今に至る。


そう、俺は今、またも女装をしている。


なんでって?それは俺も知りたい。


「あー、姉がいる人生を体験してみたかったから?」


それ、絶対いま適当に考えただろ。


「なんで秋人は女装してないんだよ?俺だけ女装なのはフェアじゃないだろ」

「僕は女装しても似合わないし」

「あら~。そんなことないわよ、秋人チャン!アタシ、ずっと秋人チャンにメイクしてみたかったのよね~!」

「だってよ、秋人。よかったな」

「え?えー!?」


ずるずると俺がさっきまで改造されていた部屋に、今度は秋人が屈強なお姉様(漢)に引きずられていった。南無南無。


さらに30分後。


「秋人……。お前実は弟じゃなくて妹だったのか」

「あ”?」

「野太い声で全て台無し!」


せっかく、ダボッとした大きめのパーカーにタイトパンツを履いて、黒髪ロング、つり目気味のカッコいいスポーティな女の子になったのに、声が男。


ちなみに俺はふわふわのワンピースに肩甲骨まである金髪のカツラにカチューシャをつけた、ゆるふわ武装である。


「2人とも、素敵な姉妹ね!」

「「姉妹」」


1時間で兄弟から姉妹に変わりましたとさ、ちゃんちゃん。


「ま、これで補導される心配はなくなったわけだ……わけよ。行くわよ!」

「秋子ノリノリじゃん」

「夏姉さん、なんか言った?」

「何も言ってないわよ。オホホ」


お姉様にお礼を言ってから街に再び戻る。


「さっきより注目浴びてんなぁ」


俺が女装したときも結構注目を浴びたけど、今はもう一人いるから、単純に考えて2倍の注目度……。


そして。


「お姉さんたちめっちゃ可愛いねェ~。俺らと遊、」


ナンパされること本日3回目。


「あ”?誰がお姉さんだ。目ん玉腐ってんのか」

「え…」


秋子の地獄の番人のような声にすごすごと引き下がっていくナンパ野郎を見るのもこれで3回目。


「映画館、辿り着けるかな」

「カツラ暑い、取りたい」

「え~。似合ってるんだから我慢しろ……しなさい」

「夏子も歩き方が男に戻ってる」

「これは失敬」


ヒールで歩くのにもだんだん慣れてきて、スニーカーで歩くみたいに歩けるようになってしまった。


「なんで俺、こんなに女装してんだろ?」

「それは言わないお約束」


映画館に入っても、注目を浴びることは変わらないのだった。

~執筆中BGM紹介~

テガミバチ REVERSEより「勿忘草」歌手:ピコ様 作詞・作曲:若G様

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― 新着の感想 ―
[一言] とりあえず……うん、千夏は彼女さんに遭遇したらいいと思うw
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