真のシスコン
秋人視点です
次期生徒会長になってくれ~と生徒会室にいる全員から拝まれ、散々な朝を迎えていた。
「あー、冬瑚に会いてぇ。癒しが欲しい」
むさくるしい会長やら先生らに距離を詰められて、つい本音が出た。
「冬瑚?もしかして噂の妹君のことかい?」
「噂?」
インフルエンサーの副会長ならともかく、噂に疎い会長まで知っている噂ってなんだ?
「人形のように可愛い小さな女の子と御子柴君が手を繋いで歩いていた、という噂さ」
ほうほう。まぁ、冬瑚とはよく2人で買い物に出かけるから、学校の誰かに見られていたとしてもおかしくはない。
「この世のものとは思えない可愛さだった、とか。御子柴君のことを「秋兄」って言ってたから多分、妹なんだろう、とか。兄妹そろって美形なんて遺伝子最強だな、とか」
噂っていうか、事実だった。最後の遺伝子云々は知らんが、それ以外は全部事実だ。噂が巡る過程でだいたいは誇張されるものだが、冬瑚が絶世の可愛さなのは誇張ではない。
「まぁ要するに、僕の妹は可愛い」
空が青いように、夏が暑いように、僕の妹は可愛い。これはもう世界の摂理。
「シスコンだ」
「シスコンね」
「シスコンか」
「シスコン君」
僕は兄貴と違ってシスコンでは……
「写真みせて」
「断固拒否する」
写真は違うだろ、写真は。
机の上に置いていたスマホをサッとポッケに入れる。スマホにロックをかけていないから、見ようと思えば誰でも見れてしまう。こういうときのためにロックがあるんだな。家に帰ったら設定しとこ。
それはそうと、癒しが足りないのも本当だが、冬瑚のことが心配な気持ちもある。そんな気持ちを察したかのように、生徒会室の扉が開け放たれた。
「会いたいなら会いに行けばいいんじゃな~い?」
あくびをしながら扉に寄りかかっていたのは、姫野瑠璃。こうしてたまに心の内を読まれているかのようなことを言われてドキッとする。
「会いたいなら会いに行けばって……たしかにな。小学校まで近いし。ありがとな、瑠璃。行ってくるよ」
「いってらっさ~い」
って感じで中学校を飛び出て、冬瑚が通う小学校まで走って来てみれば。
「嘘、だもん。夏兄も、ひっく、秋兄も、そんなことしてないもん!勝手なこと言わないで!冬瑚の大事なお兄ちゃんたちのこと、ひっく、なんにも知らないくせに!うわぁぁああああんん!!」
あのガキ共、冬瑚を泣かせたんだ、***を###して\(^o^)/してやろうか……。
けどその前に冬瑚を…、って。
僕がここに来てるってことは、真のシスコンである兄貴がいないわけないか。
「下ばっかり見てたら、可愛い顔が見えないぞ!」
なんだそりゃ。兄貴が変なことを言いながら冬瑚を抱き上げた。
やり方はともかく、涙は引っ込んだみたいでとりあえずは良かった。兄貴は兄貴でやれることをやってる。それなら僕は僕にできることを、だ。
冬瑚が泣くとは思っていなかったのか、真っ青な顔をしている真ん中のリーダー格のガキ、後ろの2人のガキは今まさに逃げようとしていた。
「妹を泣かせたんだ。おめおめと逃げられると思うなよ、クソガキ」
まん丸のガキの首根っこを掴んで、ついでに真っ青な顔をしているリーダー格っぽいガキの首根っこも掴んでおく。
そうすると必然的にもう一人の逃げようとしていたひょろっちいガキが逃げ出すわけだが。
「つーかまえった~」
「久しぶり、麻黄君。運動会のときに会って以来だね」
「久しぶりでっす!智夏お兄さん!」
「いや、智夏はあっちで冬瑚を抱っこしてる方。僕は秋人」
「さーせん!間違えました!」
ガキ共は捕まえながら、口を動かしていると、兄貴がこっちに向かってきていた。
兄貴の顔といったらもう、魔王だよ、魔王。
いや~、クソガキ共に合掌。
~執筆中BGM紹介~
ちはやふるより「そしていま」歌手:瀬戸麻沙美様 作詞・作曲:新屋豊様




