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背中を押して

自転車は安全に乗ろう!



記者の脅威も一時的にだが、エレナのおかげで(しの)いだ。周囲の声も皆の協力のおかげで気にならない。こうなってくると……特にやることもない。


早めに入った教室で、SHが始まるまで友人たちと話しながら時間を潰していたのだが、不安がいつまでたっても頭をついて離れない。


冬瑚は、大丈夫だろうか…?


香苗ちゃんと秋人は心配いらないかな。黙ってやられるような2人じゃない。


けれどあの子は、幼い時から我慢を強いられてきた子だから。家では平気そうにするから、逆に不安になる。


「、、ちゃん。しばちゃん!」

「……あ、なに?」


話の途中で上の空になっていたとき、田中が外を指さして言った。


「今からなら間に合う!」

「え?でも、もうすぐSH始ま、」


何が?なんて聞かなくてもわかった。田中は冬瑚の元へ行けと言ってくれているんだ。


「適当に誤魔化しといてやるから、早く行け!妹が心配なんだろ!」

「あぁ。言い訳は任せた!」


言いながら立ち上がり、教室を飛び出る。


「御子柴ー!これ使えー!」

「…っ、ありがと!」


自転車通学の井村が、自分の自転車の鍵を投げてよこした。今からなら、バスを使うより自転車で走った方が速い。


靴を履き替えて急いで駐輪場に戻る。登校してくる生徒たちの流れに逆らって校舎を飛び出す。井村の自転車は赤色のサドルだからひと目でわかる。


ロックを解除し自転車に跨り、ぐんぐんとペダルを踏む。自転車に乗ったのは小学校以来だったが、体が覚えていたようだ。若干ふらついたが、すぐに立て直して速度を上げる。学校から離れると、人が少なくなってきたので、腰を上げて立ちこぎに切り替える。


「はぁ、はっ、」


吸い込む空気は朝といえども熱くて、すぐに汗が噴き出した。


この不安が、杞憂に終わればいい。


でももし、冬瑚が辛い思いをしていたなら、一人で泣いていたとしたら。


……俺がそこに行ってどうなる?冬瑚につらい思いをさせている原因は他でもない、俺じゃないか。


アニメのヒーローみたいに、かっこよくお姫様を救うなんて俺にはできない。こうして妹の元に向かう決心がついたのも、親友が背中を押してくれたからだ。


俺には俺にできることを。




小学校の前に着いたときだった。


「あー!犯罪者の妹だー!」

「お前の兄ちゃんたち、父ちゃんを殺したんだろ?」

「うわー、近づいたら俺らも殺されちゃうぞ!」


小学生特有の甲高い声に、人を傷つけるために用意された言葉が聞こえてきたのは。この凶器みたいな言葉を言われたのは……


「嘘、だもん。夏兄も、ひっく、秋兄も、そんなことしてないもん!勝手なこと言わないで!冬瑚の大事なお兄ちゃんたちのこと、ひっく、なんにも知らないくせに!うわぁぁああああんん!!」


自転車を置いて、真っすぐに妹の元へ向かう。心が張り裂けそうなほどの、悲痛な泣き声。


俺は大勢を救うヒーローにはなれない。けれど、冬瑚のヒーローにはなりたいから。いつかいけ好かない野郎にこの役目を取られるまで、俺はウザがられても父のように兄のように、冬瑚にとってのヒーローになる!


「下ばっかり見てたら、可愛い顔が見えないぞ!」


俯く妹の体をひょいと持ち上げて、ニコリと笑う。


「な、夏兄、なんで……」


心配で来てみた、って言うと冬瑚の顔が曇りそうだな……。せっかくびっくりして泣き止んでくれたんだ。妹には笑っていて欲しい。


「急に、冬瑚に会いたくなってね」


津麦ちゃんやりょうちゃんに怪訝な顔で見られてしまったが、冬瑚はポカンとした後、涙がはらはらと落ちてきた。


「ふっうぅ、ごめん、なさい、夏兄……ごめんなさぃ…!」


謝る必要はないと言おうとしたとき、もう一人の冬瑚の兄に遮られてしまった。


「悪いのは冬瑚じゃない。自分が悪くないのに謝るな」


こと冬瑚に関しての思考回路は面白いくらいに俺と同じの弟。やはり秋人も来たみたいだ。


「あ、秋兄!?なんで!?」

「会いたかったから…」


言い訳もシンクロするとは。恐るべしDNA。


変なところに感心していると、秋人がいじめっ子を捕獲しながら、予想通りとでも言うようにこちらを見た。


「てか、兄貴も来てたのかよ」

「秋人も来てたとは思わなかったよ」


予想はしてたけど。


秋人とやり取りしている間に、冬瑚はまたしおれてしまった。


津麦ちゃんたちの元へ冬瑚を返し、真っ青な顔になっているいじめっ子たちの元へ向かった。


~執筆中BGM紹介~

弱虫ペダル NEW GENERATIONより「ケイデンス」歌手:夏代孝明様 作詞:夏代孝明様/松井洋平様 作曲:渡辺拓也様

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