作曲家Mの弟
智夏の弟、秋人視点です。
「それじゃあ出陣じゃー!!」
「出陣じゃー!」
「「行ってきまーす」」
息巻く香苗ちゃんと冬瑚、若干引き気味の兄貴と僕。
兄貴がサウンドクリエイターとかなんとかいうやつで有名になったからか、僕たちの過去をあれやこれや探ったヤツがいたんだろう。”作曲家Mは殺人鬼か!?”みたいなやっすい見出しだっけか?しかも弟と一緒に父親に手をかけた可能性も……みたいに書かれていたから、僕も兄貴と仲良く殺人犯扱いだ。
兄貴が作曲をしていることを学校で触れ回ったことはないけれど、隠してもいなかったので多分みんな知っている。だから作曲家Mの弟=僕だってこともわかっているはず。
だから先手を打っておいた。
「御子柴君!おはよう、爽やかに朝に君と会えて嬉し、」
「会長、おはようございます。では」
「そんなつれないところもまたイイ!」
この変態眼鏡は僕の通う中学校の3年生で生徒会長をやっている男だ。
いま、僕がいるのは学校全体を見渡せる生徒会室の会長席だ。会長がいるのになぜ?って感じだが、その会長本人が「御子柴君はココに座りたまえ!」と熱烈に推してくるので仕方なく。ちょっと高い椅子だし座り心地は良い。それはともかく。
進学に有利だろうと生徒会に入ったはいいものの、あれやこれやとアニメの主人公のようにトラブルが舞い込むこの学校での生徒会は本当に大変だった。
「そういえば、例のハイエナ共がやって来ていたから、昨日言われた通りに追い払っておいたよ」
「ありがとうございます。やっぱり来ましたか」
「あぁ。来たのは3人。全員分の名刺を”運動部の朝練に巻き込まれてもみくちゃ作戦”でくすねて、新聞部と写真部のみんなに顔写真も撮ってもらったよ。それでその写真っていうのがコレってわけ」
作戦名なんて付けた覚えはないが、昨日言った通りにしてくれたようだ。
プリントアウトしたばかりの写真と会長自らが取ってくれたという名刺を受け取る。
写真にはもみくちゃにされる記者たちの顔が鮮明に写っている。生徒の顔は良い感じにぼやけているが、小学校からの同級生たちが率先して記者をもみくちゃにしているのはぼやけていてもわかった。
最近忙しくてあいつらと話せていなかったけど、こういうときに助けてくれるっていうのは、素直に嬉しいものだ。しかも、それを僕に伝えないところがなんともあいつららしいというか。
「学校内での噂とかは今のところどうですか?副会長」
「はいはーい。昨日言われた通りに”我らが御子柴君の敵が偽記事を書いてるから信じないでね作戦”が有効的に働いているみたい。少なくとも校内であの記事を信じている生徒は一人もいないわ」
そんなふざけた作戦名を付けた覚えはないパート2。
生徒会室には僕と会長以外にも、生徒会のメンバーが全員揃っていた。副会長は強豪運動部の部長も務めており、この学校の中で一番と言ってもいいくらいに情報通である。彼女の元に全ての噂が集まってくると言っても過言じゃない。
「副会長、ありがとうございます」
「いえいえ~」
会長も副会長も3年生だが、なぜか僕を会長みたいに扱ってくる。僕はただの会計なんだけどな…。
「教師陣の中での情報はどうなっていますか?先生」
「こちらには事前に御子柴君の保護者から説明を頂いていたからね、多少の混乱はあるが問題ない。情報を流す者も今の教師の中にはいまいて」
今の、というのは、過去に学校の経費を横領していた教師がいて、そいつを僕たちが追い出したからだ。身の内に敵がいることほど厄介なものはないからな。
ちなみにこの巌のような先生は、生徒会顧問で、横領教師を追い出す際に一番協力してくれた信頼できる先生だ。この人もなぜか僕を会長扱いしてきて困惑しているが。
「みなさん、力を貸してくれてありがとうございます」
席を立って、頭を下げる。昨晩から愚痴のひとつも零さずに、僕に力を貸し続けてくれた人たち数々の困難をこの生徒会メンバーと乗り越えてきて、信頼や友情を築いてきた。
「御子柴君にはいつも力を貸してもらっていたからね」
「ここら辺で恩返しさせてくれないと」
「いつも助けられているからな。今度は私たちの番だ」
頼もしい仲間たちだ。もうすぐ生徒会選挙があり、3年生は引退、新しいメンバーで生徒会は構成されることになる。だから…
「次期生徒会長にはなりませんから」
「「「なんでー!?」」」
「そんなめんど…、大変な生徒会長になんてなりません」
「御子柴君以外、僕の後継は認めないぞ!」
「御子柴君が会長じゃなかったら誰が会長になるの!」
「御子柴君以外に会長が務まるわけがないだろう」
「やなもんはやだ!」
とか言いつつも、秋人が押しに弱いことを知っている彼らは諦めないのだった。
「あー、冬瑚に会いてぇ。癒しが欲しい」
~執筆中BGM紹介~
DARKER THAN BLACK-黒の契約者-より「HOWLING」歌手:abingdon boys school様 作詞:Takanori Nishikawa様 作曲:Shibasaki Hiroshi様




