ニホンゴワカラナイ
今朝、俺と秋人を殺人犯扱いした記事が出て、学校では孤立無援、背水の陣かと覚悟を決めて登校した、のだが。
「御子柴先輩、負けないでくださいね!」
「う、うん」
「私は応援してるから、御子柴君!」
「ありがとう…」
「頑張れよ、御子柴!」
「あ、はい」
学校祭のことであらゆる学生の相談に乗っていたせいか、ここ最近の顔の広さと好感度は爆上がりしており、白い目で見られるどころか、応援されたり鼓舞されたり…。
漫画でお馴染みの、机の落書きなどもなく、無傷の自分の席に無事に座る。
「おかしい。味方しかいない」
思わず、思っていたことが口に出た。周りで聞いていたクラスメイトが、どっと笑った。
「そりゃそうだよ。だって御子柴君だよ?」
「御子柴だもんな~」
「無害を絵にかいたような人間だからなぁ」
……クラスメイトにどう思われているのかはとりあえずわかった。
学校祭で関わった生徒たちとクラスメイトたちが友好的な態度を取ってくれる理由はわかった。けれど、それだけじゃないよな。
「杞憂だったか~」
「そうね」
しれっと返事をしてきたのは、昨日3バカトリオと言われたうちの一人、愛羽カンナだ。
「なんでカンナはうちのクラスに我が物顔でいるんだ?」
「香織に会いに来たに決まってるじゃない。べ、別に智夏が心配で様子を見に来たわけじゃないんだからね!」
「ツンデレやめい」
さすが声優なだけあって、男子達が元祖ツンデレなセリフにキュンキュンしていた。この周囲の反応もわかってやっているのだから、さすがである。まぁ、一人だけなびいてない男もいるけど……。
「ちょっと博也、なんでキュンキュンしてないのよ!」
「なんでって…、あざとすぎて?」
「もー!男子はあざといのが好きなんでしょー!キュンキュンしなさいよっ!」
「えぇ…」
最近は鈴木が女子にウザ絡みすることはなくなり、カンナとイイ感じの雰囲気だ。親衛隊の面々も2人の行く末を静観しているようで、今のところ鈴木が闇討ちされる気配はない。
「カンナが根回ししてくれたんじゃないのか?親衛隊に」
彼らのネットワークと団結力はドン引きレベルで強い。親衛隊にカンナが働きかけてくれたのだろう。じゃないと、ここまで平和な朝を迎えられた説明がつかない。
「私はあんまり騒がないようにって言っただけ。本当にちょっとだけのことよ。だからこれは智夏の、」
「大変大変たいへーん!!!」
「ヤバいよみんなー!」
「ちょっと!いま私が良いこと言いそうだったのに!って、香織?どうしたの?」
カンナが神妙な顔つきでなにか良さげなことを言いそうだったタイミングで、教室に飛び込んできたのは香織と腐ってる女子の松田さんだった。
「校門のところに記者の人たちが…!」
「え!?」
教室の窓から校門を見下ろすと、たしかに一眼レフやボイスレコーダーを持った記者数人が生徒たちに絡んでいた。
本名で活動しているし、ある程度素性はバレるだろうと思っていたけれど、もう学校まで嗅ぎつけてくるとは。
生徒たちに俺のことを聞いているんだろうか…。しばらく様子を窺っていると、黒塗りの高級車が校門の前に停まった。
「あ、エレナだ」
記者たちもこんな海外セレブみたいな学生がいるとは思わなかったのだろう、車から降りてサングラスを取ったエレナを驚いたように見ている。
「エレナは何をしてるんだろう?」
「うーん?記者一人一人を指さして何か言ってるように見える、わね」
「見て!記者が逃げてってる!」
エレナが指をさして何かを言った後、血相を変えて記者たちが校門から走り去っていく。
……なにあれ怖いんですけど。
エレナの指からレーザービームでも出てんの?それとも口から毒でも吐いてる?
記者全員を蹴散らした後、優雅に校舎に入っていくエレナの姿を教室からみんなで見ていた。誰もなにも、言えなかった。
それからしばらくしてエレナが教室に入ってきた。
「おはよう、みんな」
「「「お、おはようございます!」」」
「どうして敬語なの?」
ガタガタッと座っていた者たちが席を立ち、直角にお辞儀をしてエレナ様を迎え入れた。おはようございます、の後には(姐さん!)って心の中でみんな言ってたんだろうな。任侠映画みたいだもん、この風景。
「エレナ、校門のところで何してたんだ?」
「……チョット、ニホンゴワカラナイ」
「誤魔化し方へたくそか」
とりあえずこれ以上は聞いてくれるな、という圧を感じたので詮索はやめることにした。
秋人の言う通り、心配しすぎだったな。
秋人と冬瑚は大丈夫かな…。
~執筆中BGM紹介~
機動戦士ガンダムAGEより「My World」歌手:SPYAIR様 作詞:MOMIKEN様 作曲:UZ様




