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原作者

今回は香苗ちゃん視点でお届けです。



緊急で開いたドリボの上層部の会議には、テレビ通話で劇場版のスポンサー企業や大株主などが集まっていた。


「つまり、御子柴氏に関する記事は根も葉もない嘘だと?」

「えぇ、その通りです」


さすがのナギちゃんも、普段通りとはいかないようで、緊張しているようだった。


ナギちゃんの緊張している姿なんて滅多に見ないから、逆にこっちが落ち着いてくる。いや、落ち着いているというより、コップにいっぱいになった水のように感情が爆発寸前なんだわ。


少しの揺れで、零れ落ちてしまうくらいの。


「それを証明することは?」

「いま、御子柴の父親の死亡確認をした医師に確認を、」

「本当かどうかなんてこの際どうでもいいんですよ!問題は劇場版の売上にどれだけの影響が出るのかという話です!」

「そうだそうだ!」


コアターゲットが学生である以上、親子で見ることも十分に考えられる。こんな記事が出回ったら、客足が遠のく可能性があることは確かだ。


そのとき、会議に出ていた一人が声を上げた。


「ですがこれは、炎上商法として使えるのでは?リスクは大きいですが、記事が出ることが避けられない以上、ポジティブに考えることも必要かと」


記事が広まればその分だけ、映画の認知度も高くなる。


「うちとしてはマイナスイメージがつくようなことだけは避けたいのですが」


スポンサー企業の代表者がテレビ電話越しに告げた。客からのイメージというのは企業にとって重要なもの。それはよくわかってる。


「今回の映画だけじゃない。『ツキクラ』は続編の制作の話も出ていたな。映画の方はもうどうにもならんが、続編からは新しい作曲家を起用するというのはどうだろう?」


きた。


「そうですね。わざわざ曰く付きを起用し続ける理由もありませんし」


元々、全くの無名だった夏くんを起用するのに難色を示していた連中が、ここぞとばかりに辞めさせる理由を挙げていく。


「他にも素晴らしい作曲家たちがいますから」


他?他ってなに…?


「『月を喰らう』をご覧になったことはありますか?」

「は?」

「いきなりなんだね、君は」


席を立ちあがり、凛とした口調でお偉方に話しかけたのは、『ツキクラ』の五十嵐監督だ。


「ご覧になったこと、ありませんよね?だって、一度でも『ツキクラ』を見ていたら、作曲家を変えろなんて、そんなこと言えるはずがない!御子柴智夏なくして、いまの人気はありません!」

「あぁ、もちろん今までの苦労は労うよ。けれどこれ以上彼を起用するメリットはないのでは?」


聞く耳を持たない上層部に五十嵐監督が歯ぎしりをする。


あくまでも、会社の利益を優先する。それは、会社としては当然のこと。


でも、私たちが作っているのは…!


「私たちが!心血を注いで作っているのは、ただの画面の中で動く絵なんかじゃない!作家先生の描いた”世界”を、ファンたちが紡ぎあげた”夢”を形にする誇り高いお仕事なんです!我々アニメーターや声優、作曲家たちが命を吹き込んで作り上げたものが『月を喰らう』なんです!それを、いくらでも替えが効く部品みたいに考えるのはやめていただきたい!」


言った!言ってやった!


鼻持ちならないあいつらに、今まで思ってたことを叫んでやったわ!


これで私たちクリエイターのことを理解して…


「ハッ。曲なんて誰でも作れるだろ」


あぁ、ダメね。結局この人たちにとって大事なのは利益だけなのよ。


もういっそのこと、ありとあらゆる罵詈雑言を言って辞めてやろうかしら。


「曲なんて、誰でも作れる?ククッ面白いことを言いますね?」


音もたてず、扉を開けて会議室に入って来た女性に、一部を除いて驚いた。だって、いきなり知らない人が入ってきて話を遮ったら誰でも驚くものね。


顔出しNGで表には一切出ず、やり取りが必要な時は電話対応がほとんどだったから、彼女の名前は知っていても顔はほとんど知られていなかった。


鷲尾(わしお)先生!」


彼女は『月を喰らう』原作者の鷲尾たわし先生、その人だった。


その名前を聞いて、その場にいた全員がどよめいた。


女性だったんだ、とか、20代くらいの若い人だったのか、とか。


「御子柴さんが作ってくれた『レクイエム』。本当は原作と同じく、歌詞が無い1分くらいの曲だったのは知ってますか?」


夏くんが作った劇中歌『レクイエム』は、その曲単体でもかなりの再生数を誇る一曲。


小生(しょうせい)は正直、アニメ化の話は疑問だったんです。アニメ化をして苦い思いをした作家の先輩たちを見ましたから。でも、ドリボの人たちは本当に素晴らしい仕事をしてくれました。滑らかに動くキャラクター達、生命力あふれる声、そして強烈に魂を揺さぶるBGM。アニメ化から得られるものは何もない、そう思っていた小生からすれば、まさに青天(せいてん)霹靂(へきれき)だったのです」


軽口を叩きまくっていた人たちも黙って原作者先生の話を聞くしかなかった。


「五十嵐監督から御子柴君の作った1分ほどの『レクイエム』を聞かせてもらって、雷に打たれたようでした。この曲に歌詞を書くのが、原作者としての使命だと直感しました。私はすぐさま歌詞を書きました。2番があることを前提とした歌詞をです。彼は4分半の曲を作り上げてくれました」


知っている。夏くんが『レクイエム』を作るのに、すっごく頭を抱えていたことも、鷲尾先生から2番までの歌詞が来て驚いていたことも。


「御子柴智夏は唯一無二の作曲家です。彼を今後『月を喰らう』で起用しないのならば、映画の公開は許諾できません」

~執筆中BGM紹介~

進撃の巨人より「Call your name」歌手:mpi様/CASG(Caramel Apple Sound Gadget)様 作詞:mpi様 作曲:HIROYUKI SAWANO様

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