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夏秋兄

今回から智夏視点に戻ります。



『弟は預かった』とかいう、誘拐犯からのメッセージみたいな文章が彩歌さんから送られてきたことに気付いたのは、冬瑚に全てを話し終えた後だった。


「秋人と彩歌さん、いま一緒にいるんだって」

「いいな〜。冬瑚も彩歌ちゃんと遊びたい」


俺たち家族がなぜ今のような形に至ったのか、それらを全て包み隠さず話した。その後、冬瑚は一言「そっかー」と呟いて、「秋兄はどこ?」と聞いてきた。


想像していたよりもだいぶ薄い反応に面食らったが、わざわざ聞き返す気にもなれず、秋人の行方を探すことにしたのだ。


まず初めにポケットからスマホを取り出し、電源をつける。そして見つけた通知が、『弟は預かった』である。


「なんで彩歌さんと秋人が一緒に?まぁ、無事ならいっか。いや、よくないのか?」


兄として弟の無事を喜べばいいのか、彼氏として不安になるべきなのか…。でもこの2人が一緒にいても不安にならないのだ。


だって秋人は俺の弟だし、彩歌さんは俺の彼女だし。


それらしい理由を並べることもできるけど、これで充分だ。これくらいで揺らぐような絆の紡ぎ方をしていない。


とか言いつつ、2人で何をしているのかは純粋に気になるところだけど。


「「ただいま~」」


ちょうど秋人と、勤務明けの香苗ちゃんが帰ってきたようだ。


「香苗ちゃ~ん、秋兄~!おかえりんごー」

「ただいまりんごー」

「ただいま。今日はお惣菜を買ってきたから、ちょっと遅いけど夜ご飯食べよう」


冬瑚と一緒に玄関に向かったら、お惣菜が入った買い物バッグを秋人に渡された。


「おかえり」

「「ただいま」」


冬瑚がさっき言っていたが、買い物バッグを受け取ってもう一度迎える。


仕事でちょっと疲れた様子の香苗ちゃんと、何故だかスッキリした顔をしている秋人。秋人になにかあった……ってわけじゃないのか?う~ん…。


買い物バッグからお惣菜を取り出して皿に盛りつけて食卓に出す。バッグを折りたたみの皺通りに畳んで、手洗いを終えた秋人に返すと少し気まずそうに俺を呼んだ。


「兄貴、えっと」


ここは俺が先に言ってやるべきだよな。


「彩歌さんといたんだろ?」

「なんで知ってんの!?まさかストーカーして、」

「してないから!お兄ちゃんのことを何だと思ってんのかな?10文字以内で述べよ」

「彼女大好きなブラコン」

「百点満点の答えすぎてぐうの音も出ない」


俺のことを俺以上に理解している。じゃないと10文字でこんなに完璧に表せない。さすが俺の弟、わかってるぅ~。


「夏秋兄~、お腹空いたから早く食べようよ」

「夏秋兄って」

「だって夏兄秋兄って言うより、夏秋兄って言う方が早いよ」

「そうだけどさー」


若者の言葉はこうしてだんだんと簡略化されていくのか…。「マ?」とか「り」とか「夏秋兄」とか。


「「「いただきまーす」」」


いつかはこの「いただきます」も「い」とかに略されたりするのかもな。


むしゃむしゃと玉ねぎのかき揚げを食べながらそんなことを考えていたとき、冬瑚が箸を置いて俺がかけていた眼鏡を奪って自分にかけた。


サイズの大きい眼鏡をくいっと持ち上げて、キリリとした表情で開幕を告げた。


「第18回、御子柴家家族会議を始めます!」


ある程度予測がついていた俺と、同じこと考えてたーって表情をする秋人と、困惑顔の香苗ちゃん。


「第19回じゃなかった?」

「香苗ちゃん、そこじゃない。大事なのはそこじゃないよ」


そして家族会議は第18回目で正解だから。


「やっぱり眼鏡は邪魔!」


背伸びしている感じが大変微笑ましかったが、冬瑚はお気に召さなかったようだった。眼鏡を俺に付き返し、家族会議の進行に入った。


「冬瑚からみんなに報告があるよ!」

「僕からもある」

「秋兄もあるの?」

「ある」

「冬ちゃんと秋君から?なんだろう…。良い話ではないよね」


香苗ちゃんなりに何かよくないことが起きていることは察知していたようだった。


「あのねあのね…、」


たどたどしくも冬瑚が今日起きた出来事を話す。ときどき俺から補足を入れつつ、話し終えた頃には食事も終わっていた。


「聞きたいこととか、言いたいことはいっぱいあるけど、その前に秋君の話を聞こうか」


険しい顔をしながら香苗ちゃんが秋人に話を促す。


「冬瑚の話を聞いて驚いたんだけど、実は僕も今日似たようなことが…、」


秋人が話した内容は、例え冗談だとしても到底許せるようなものではなく、その場で助けてくれた彩歌さんに感謝してもしきれない。


「ふぅー…」


香苗ちゃんが細く長くため息をついて、俺から眼鏡を奪い取って自分に掛けた。


「これは合戦よ。御子柴家に仕掛けられたこの戦、負けるわけにはいかないわ!」


法螺貝の音がどこからか聞こえてきたような気がした。

(2022/05/01追記)

投稿日と投稿時間がいつもと違うな〜、あれれー?と思った鋭い方がいらっしゃったら申し訳ございません。作者のうっかりミスにより予約投稿するのを忘れていました。お前300話以上書いててそんなミスするのかよ!?っていうツッコミが聞こえてくるような。。。次回の投稿は3日の12時です。多分。またぽんこつ作者がミスしなければ。

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