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甘い匂いじゃなくて

今回も主人公は登場せず。。。



兄の彼女と一緒にいるというなんとも気まずい場面だが、いまは家に帰る気にはとてもなれないので、大人しく彩歌さんについて来たわけだが…。


公園から数分歩いたところにあったマンションに入っていった。


え…、いくら互いに恋愛感情が皆無といえど、兄の彼女の家に2人っきりとかまずくないか?と心配した僕を他所に、エレベーターの中から彩歌さんが手招きしてくる。


「あの、さすがに家にお邪魔するわけには…」

「へ…?あ、あぁ!違う違う!今向かってるのは私の家じゃないっス!親友の家っス!」

「親友の家?」


とっておきの場所って言うから、てっきり見晴らしのいい高台とか、景色の良い場所に連れて行かれると思っていたのに。まさかの兄の彼女の親友の家!そりゃあ兄貴も行ったことないはずだわな!


「みーちゃん、いる~?」


ぴーんぽーんぴんぽんぴんぽんぴぴぴぴんぽーん


現状把握ができていない僕と、彩歌さんの親友の家と思しき部屋のインターホンをこれでもかと連打する兄の彼女。


「そんなに押さんでも聞こえてるわー!って彩歌じゃん」

「今日は私だけじゃないっスよ」


後ろにいた僕が、みーちゃんさんから見えるように彩歌さんが一歩横にずれた。


明らかに寝間着、ノーメイク、片手に焼酎瓶を持ったみーちゃんさんと僕の目が合った。


「……初めまして」

「………初めまし、え、誰?彩歌の新しい彼氏?あのもやし男とは別れたの?」

「智夏クンとは別れてないっス!ラブラブだもん!こちらは智夏クンの弟の秋人クンっス」

「どうも」


兄をもやし男と呼ぶあたり、みーちゃんさんは兄と面識はあるんだろう。けれどそれは兄の話。僕とミーちゃんさんが気まずいのは1ミリも変わらない。


「彩歌と同級生の矢代(やしろ)美奈子(みなこ)…。まぁなんだ、とりあえず、いらっしゃい?」


ドアを大きく開けながら迎えてくれたが、それにより背後に隠されていた汚部屋が露わになった。


「みーちゃん、また彼氏と別れたの?付き合ってるときは綺麗なのに」

「だって、彼氏と別れたら部屋を綺麗にする意味ないでしょうが」


謎理論をドヤ顔で披露している矢代さんは、果たして僕と同じ人類なのだろうか…?


「もやし弟が私のことを宇宙人みたいに見てくるー」


もやし弟って。兄貴のせいで僕までもやし呼ばわりだ。


部屋に足を踏み入れると、玄関には靴が散乱していて、部屋も悲惨な有り様だった。これは…、我慢できない!


「あの…。掃除してもいいですか?」

「掃除してくれんの?」

「なに言ってんですか。矢代さんも掃除するんですよ」

「敬語使えばセーフだと思ってんだろ、もやし弟。私は何をすればいい?」


文句を言いつつ、やる気はあるみたいだ。


彼氏がいるときは部屋が綺麗だということは、汚部屋好きというわけでもないはずだ。


「3人でぱぱっと終わらせましょう。僕はこの山を片付けるんで」


積み上げられた服の山の一角を掴む。


「あ、それブラジャー」

「…」

「大丈夫!まだ使用前!」

「…」

「いやー、未成年には刺激が強すぎたかな、ごめんね?」


自分でもわかる、自分の表情が徐々に死んでいっていることに。


「初めて入った女性の部屋がこんな汚部屋の僕の気持ちがわかりますか…」

「異性の部屋デビューがこんな汚い沼だなんて、かわいそうに…」

「ちょっと!汚部屋でも女性の部屋に変わりはないわよ!」


たしかにそうだけど。それでもあんまりだ。もう少し、夢を見せてくれたっていいじゃないか。


「部屋の匂いは甘い匂いじゃなくて焼酎の匂いでした、とか。下着はごみ山から発掘した値札付きのものでした、とか…」

「少年、現実の女なんてこんなもんよ。早いうちに現実を知れて良かったわね」


こんな現実、知りたくなかった…!


「2人とも仲良くなれそうで良かったっス」

「どこが!?」


ほのぼのしながら手際よく片付けていく彩歌さんに、思わず敬語を忘れるのだった。


それから3人で掃除をしていると、彩歌さんが切り出した。


「秋人クン、公園で話してた男の人って…」

「知らないヤツ。「君とお兄さんでお父さんを殺したんだろ?」って言われてカッとなった」

「「はぁ!?」」


服をたたみながら、さっき起きたことをこの2人に話す。関わりの薄いこの2人になぜ話してしまうのか、自分でもわからなかったけど、この2人だからこそ話しやすかった。


「彩歌さんは兄貴から聞いたと思うけど、僕たち昔、父親とちょっとあって…。父親は兄貴に暴力振るってたから、僕は暴力なんて大っ嫌いなんだけど、でも今日はあいつと同じことしようとしてた」


僕と兄貴を殺人鬼呼ばわりするあの男にムカついて、気づいたら胸ぐらを掴んでいた。


「殴ったの?」

「違う。胸ぐらを掴んだ」

「殴ってやりゃ良かったのに」

「それは…」


やっぱ、話す相手まちがったかな…。酔っ払いに話した僕が馬鹿だった。


ちょっぴり後悔しながら矢代さんを見ると、意外なことに真剣な表情をしていた。


「私はあんたら兄弟のことなんてあんま知らんし、あんたらのクソ親父も知らん。けど、親と子は一緒じゃないよ。秋人、あんたはクソ親父とは違う。クソ親父は自分より弱い奴をいじめたクソ野郎、秋人は自分と兄貴の尊厳を傷つけられて怒ったんだ。全然違う」

「でも…」

「でもじゃない!見ず知らずの女の部屋を片付けてくれるやつに悪い奴はいないんだよ!それでいいの!わかった?」


全然論理的じゃない。酔っ払いの戯言といえばそれまでだ。


でも、この強引さがいまは心地よかった。


「ハハッ、変なの」

「うっさいわ」

「矢代さん、いい女だね」

「うっさいわ!年下は対象外なの!」

「僕も年上は対象外ですけど」

「2人とも、口より手を動かすっス」


こうして3人で部屋を片付けて、妙にすっきりした気分で家に帰るのだった。


「また来いよ」

「次からは金取るから」

「生意気~」

~執筆中BGM紹介~

咲-Saki-より「Glossy:MMM」歌手:橋本みゆき様 作詞:畑亜紀様 作曲:虹音様

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