マ?
「ルールル、ルルル、ルールル…」
「智夏パイセン、やっぱり夏子の部屋を開く気でしょ?」
「そんなつもりはなかったのになー。こうも毎日相談に来られたら、開くのもやむなしって思ってしまう」
もしも統計を取ったら、この学校の中で流されやすい人第一位だよ俺。学校祭の準備が始まってからというもの、自分でも不安になるくらい流されまくっている。
「今日は久しぶりに運営委員の仕事が休みだっていうのに、ヒストグラマーで呼ばれちったから休みがない~」
そうなのだ。
ここ数日、放課後は運営委員の庶務として学校祭準備に勤しんでいたのだが、今日はお休みということで、さぁ久方のオフの日になにをしようかと考えていたときに、陽菜乃先輩から招集されたのだ。
「あれだよね~?ABCの優勝特典の話」
「多分な」
アマチュアバンドコンテスト、通称ABCに歴代最高得点で優勝したのはつい先日の話。大会の様子はネット上で生中継で配信されており、翌日に学校に行ったらそれはもう大騒ぎだった。校門で生徒たちに囲まれ、何とか逃げおおせたと思ったら、
「優勝特典ってなんだっけ~?」
「えっとたしか、『Eagle』のドームライブの前座として演奏できるのと、ラジオ番組に出られることと……あと賞金」
「賞金の金額、えぐみだった~」
「えぐ…?まぁ、そうだな。5人で割っても、あの金額だもんな」
賞金を受け取った瞬間が優勝した実感が一番湧いた瞬間だった。
「後輩君!虎子!こっちこっち!」
陽菜乃先輩との待ち合わせ場所に向かうと、陽菜乃先輩は既に到着していて、ザキ先輩が運転席に乗っている車から半分身を乗り出してこっちに手を振っていた。
「いやー!高校の制服懐かしーっ!」
嬉しいときでも「いや」って言うのは何故なんだろうか。「キャー」を省略して「いやー!」になったとか?
「2人ともシートベルトは?」
「「おーけーです!」」
「それじゃあ出発しますよ」
滑らかに車を発進させるザキさんの運転テクニックに惚れ惚れとしていると、助手席に乗っていた陽菜乃先輩が行き先について説明してくれた。
「いまからねー、ラジオを録りに行くからね」
…。
「え、いまからですか?」
「そう、いまから」
「陽菜乃パイセンの冗談じゃなくて?」
「本当よ」
陽菜乃先輩の言っていることが信じられなくて、運転席のザキさんを見る。隣に座る虎子も同じだったようで、ザキさんを見ていた。
2人分の視線を浴びたザキさんはバックミラー越しに俺たちを見て、静かに頷いた。頷くということはつまりYESということで…
「「マジの話!?」」
「なんで私の話は信じなかったのに、信の話はすぐに信じるわけ!?」
「日頃の行いじゃないでしょうか」
「後輩君ひどい」
「日頃の行いだよね~」
「虎子まで!?」
助手席で足をばたつかせて抗議する陽菜乃先輩は高校を卒業してからというもの、より一層大人っぽく……なってはいなかった。むしろ幼児返りしてないか?
「パイセンパイセン」
「どうした?」
「ラジオって何を話せばいーのー?」
「ラジオはなー、えーと、……面白いこと?」
夜中にたまにラジオを聞くが、深夜のラジオで話すことなんて大体が下ネタで参考にならない(暴論)。
「いつも通りで大丈夫よ。特にあなた達は」
これは褒められてる…?それとも遠回しにディスられてる…?
うんうんと唸りながら考えていると、いつの間にか目的地が目と鼻の先だった。
「そろそろ到着するので、気を引き締めてくださいね」
「「「はーい」」」
気を引き締めろと言われて、3人とも間の抜けた声を出すとは。
「ここはリーダーがビシッと決めるところでは?」
「マ?」
……「マ」ってなに!?一文字だけって、略語の究極形にもほどがあるだろ!何を略したら「マ」になるんだよ!?
「「マ?」は「マジで?」の略語らしいですね。若者言葉は奥が深いなーとしみじみ感じました、ラジオをお聞きの皆さん、初めまして。『ヒストグラマー』キーボード担当のしばちゃんです」
けらけらとヒストグラマーの面々と収録ブースの外のスタッフたちが笑っているのが聞こえた。笑いたいなら笑うがいいさ…!ラジオを聞いている人たちの中に一人でも共感してる人がいたら俺は満足です!
そんなこんなでラジオ収録が始まりました!
~執筆中BGM紹介~
カバーソングプロジェクト CrosSingより「ブルーバード」歌手:内田真礼様 作詞・作曲:水野良樹様




