やるったらやる
「ということで、チーちゃんを庶務に任命します!」
「いきなり「ということで」って言われて「はい、そうですか」と言えるほどおめでたい頭はしてない。そういうことで、お断りします」
「なーんーでー!」
ドキドキ!彼女の実家訪問&ご両親に挨拶、お義父さんから反対されたどうしよう!?イベントを終え、気が緩みまくった7月上旬。
最高気温が連日30度を超える暑さのなか、俺はエレナに付きまとわれていた。
「だって庶務っていったら、ようは雑用係だろ?学校祭運営委員会なんて忙しい組織に庶務として入ったら馬車馬のようにこき使われる未来が目に見えてる」
「ばしゃうーま…?もうチーちゃん!オタクみたいに早口でぼそぼそ喋らないで!」
「そいつぁどーもすみませんでした!」
なんてこった、こんなところでオタク属性を披露しちまうなんてな!ていうか俺が早口なんじゃないんだ、世界の時間軸がちょっとズレただけなんだ。……何言ってんだろ、俺。
「チーちゃんは私が学校祭運営委員会委員長をやっていることを知ってるよね?」
「昨日のスピーチも聞いたし、知ってるけど」
いまさらなんだ?祭りと聞けば江戸っ子並みに血が騒ぐエレナが、後先何も考えずにノリと勢いだけで立候補してあれよあれよという間に委員長にまで上り詰めたことはこの学校の生徒なら誰でも知っていることですけど?
「委員長は偉いんだぞ」
「まぁ、そうだな」
「にんめーけんも持ってるんだぞ」
「にんめーけん?……って任命権!?」
学校祭運営委員会の会長にそんな権利があるなんて聞いたことないぞ!
学校の生徒会やら委員会やらが絶大な権力を持っているのは二次元の中でだけって相場が決まってんだ…。
つまり、これはエレナが俺を騙すために作ったウソだ。
「俺は騙されないからな。桜宮高校の学校祭運営委員会にそんな権力はない!」
「フッフッフッ。チーちゃんならそう言うと思ったんだ…」
「な……に…!?」
驚愕する俺の目の前にエレナが突きつけたのは、達筆な字で「庶務任命権」と書かれた半紙だった。
半紙の左下には、「理事長より愛をこめて」と書いてある。
「こ、これは…!」
「そうよ!理事長に書いてもらったモノホンの任命権だー!」
「モ、モノホンだとっ!?……だがしかし、生徒には拒否権というものが」
「うるさーい!やるったらやるの!」
「…はい」
結局、本物かどうかわからない理事長からの任命権より、幼馴染のごり押しに負けたような気がしなくもない。
「さっすがチーちゃん!それじゃあ放課後に第3会議室に集合ね!」
今はサウンドクリエイターの仕事は落ち着いているし、時間に余裕ができたから将来について色々考えようとしていたのに…。っていうのをつらつらと考えていると、何かを察したエレナに突然どつかれた。
「責任は持ってやるよ!」
エレナとの付き合いが長いといえど、未だに彼女の全容を把握しきれない部分がある。今もこうして謎のセリフを吐かれたわけだが、意図は1ミリもわからない。
なんの責任?俺を庶務に任命したことへの責任?
まぁ、エレナはたまに言葉の意味がわからないのに使うことがあるから、今回もそんなところだろうと予想を付ける。
そんなこんなであっという間に放課後。
「待ってました!」
「来てくれてありがとう!」
「助かったよ~!」
「猫の手も借りたい状況だったから、本当に助かります…」
「ふみゃー、智夏パイセンが助けに来てくれたの~?」
待て待て待て。一度に5人一斉に喋られても聞き取れんぞ。どこぞの太子じゃないんだよ。
「委員長に庶務に任命されました御子柴です。ほどほどによろしくお願いします」
「パイセンうける」
「虎子は元気そうだな」
「うぎゃ!前髪引っ張らないでよパイセン!」
虎子のおでこの上で結び上げている前髪の束をひっぱる。
そういえば虎子も学校祭運営委員会だってこの前話してたな。
「チーちゃん!遊んでる暇ないから!」
「そうですよ庶務さん!早速ですけどこの書類を各教室に配ってきて、クラスの代表者のハンコも貰ってきてください!」
うわ、いきなりめんどくさそうなのを押し付けられた。けれど引き受けてしまったものはしょうがない。とっととやって早く終わらせよう。
「行ってきます!」
「「「行ってらっしゃい!」」」
放課後の騒がしさの中、書類を抱えて走るのだった。
~執筆中BGM紹介~
「雨、キミを連れて」歌手:EGOIST様 作詞・作曲:ryo(supercell)様




