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とんでもない誤解

4月もゆるっと頑張りましょ~



「えっ!?智夏君って高校生だったの!?」

「は、はい」

「ということは奏音の1個上なのね~。智夏君、落ち着いてるからもうちょっと上だと思ってたわ」


年の差に反対、ということはなさそうでひとまず安心。


それはそうと今の俺の格好、前髪で目元を隠して眼鏡を着けている。


彼女の家に来るとわかっていれば、陰キャスタイルで来なかったのに…!根暗なやつって思われたらどうする。急に前髪を上げて眼鏡を外して過ごすのはおかしいよな。それに、こういうのはありのままの姿を見てもらうことに意味が……あー、でも…


ぐだぐだと後悔するのはやめよう。なるようになる。


「あ、もうそろそろお父さんが帰ってくるわね。それじゃあ夕飯の準備をするから彩歌、手伝ってちょうだい」

「わかった~」


もうすぐか…。もうすぐお義父さまと対面か…。


今からドキドキしていると、俺と同じくリビングに残った奏音君が躊躇うそぶりを見せながら聞いて来た。


「智夏さん、ちょっと頼みたいことがあるんだけどいいかな?」

「いいよー。で、なにを?」

「そういうのは具体的な内容を聞いてからじゃないと「いいよ」って言っちゃいけないと思う…。俺が言えたことじゃないけどさ」

「奏音君の頼みなら聞きたいから。だから大丈夫」

「それは俺が彩歌の弟だから?」

「それもちょびっとある。けど、一番大きい理由は別にあるよ」

「…?」


中学を卒業して高校には入らずに声優の育成学校に入る、という決断をした奏音君を尊敬しているからだ。


「それで、奏音君の頼みって?」

「えっと…」







「まさか頼みってのが歌のトレーニングだったなんて」


リビングから彼の自室に案内され、練習のために買ったというキーボードの前に座る。夢のためにひたむきに努力をしている跡が、部屋のあちこちにあった。


「だって智夏さんってあの『御子柴智夏』だよね?だから、なんとしてでも教えてもらいたくて」


奏音君、思いつめてるなぁ…。


声優さんと関わることが多いから、新人声優のデビューの難しさを少しは理解しているつもりだ。


魅力的な声だけでは生き残れない。表現力、技術、歌唱力などさまざまな能力が求められる厳しい業界だ。


「よし、それじゃあ一回歌ってみよっか。課題曲はこれ?前に流行ったアニメの主題歌か」


楽譜をザっと見て、曲の難しさがわかった。


「ブレスが極端に少ないね…」


息継ぎできてる?って心配になるくらいに、息継ぎを意味するブレス記号が少ない。


「そうなんです。だから最後まで息が続かなくて…」


ずぅぅんと小さくなる奏音君の頭をわしゃわしゃと撫でる。


「落ち込むのはまだ早いぞー。ほら、背筋を伸ばして腹から声を出す」


キーボードでさっき見た楽譜の曲を弾く。


「えっ!?もう弾けるんですか!」

「楽譜はさっき見たから。ほら、イントロが終わるよ」

「は、はい!」


歌い始めは良かったが、やはりサビで息が持たない部分がちらほらと。それを引きずって後半は音が外れたりでグダグダだった。


「うん。曲の解釈はよくできてる!問題は1番のサビからだね」

「やっぱり下手くそでしたよね…」


初めて彼と会ったときとは想像もつかないくらいに自信を失っている。


「誰かに下手くそって言われた?」

「……姉ちゃんに比べて下手くそだなって」


誰だ、そんなクソみたいなことを言ったクソは。


「はじめに言っとくけど、奏音君は下手くそじゃない。良く通る声だし、声量もバッチリ、曲の解釈や理解もできてる、なにより感情が歌に乗っている。それをもっと誇るんだ。自分の実力を認めてあげないと、これ以上頑張れなくなっちゃうよ」


下手だからしょうがない、下手だからこんなもんか、って自分の限界を低く見積もって勝手に諦めてしまう。


「……最近、声優学校に行くことが辛かったんです。下手くそって言われて、自分でも確かにって納得しちゃって。それからずっと他人と自分を比べて卑屈になってて」


隣の芝生は青く見えるもの。


余白部分にびっしりと書き込みされている楽譜をめくる。悩みながら、卑屈になりながらも努力を続けてきたことがはっきりとわかる。


「どういう人が声優業界で売れる、ってのは俺にはわからない。けど、こういう努力を続けられる人、俺は好きだよ」

「……………ズビッ」

「これから練習するってのに泣いてどうすんだよ~」

「泣いてナイッ!」

「声が裏返ってるぞ」


それからしばらく練習を続けて、アドバイスをしていると、いつの間にか結構時間が経っていた。


「父さんもそろそろ帰って来てると思う」

「それじゃあリビングに戻った方がいいね」


お義父さまを出迎えねば!


勢いよくドアを開けると、おじさまが部屋の中に転がり込んできた。


「へ?」


どゆこと?


「父さんなにしてんの?まさか盗み聞き?」

「これは断じて盗み聞ぎなどではなくて、彼氏さんが来ていると聞いて急いで帰ったら、息子と部屋に籠ってるというじゃないか。だからてっきり奏音の彼氏さんが家に来たんだと思ってだな…」


とんでもない誤解を生んでいた。


床に転がったままのお義父さまに土下座する。


「彩歌さんの彼氏の御子柴智夏です!決して、息子さんの彼氏では!ない!です!」

~執筆中BGM紹介~

ロード・エルメロイⅡ世の事件簿-魔眼蒐集列車 Grace note-より「雲雀」歌手:ASCA様 作詞・作曲:梶浦由記様

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